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バッドエンドから一年後~誰にも期待されない魔法使いの私が、伝説の精霊魔法使いに実力を認められ王子を救う~  作者: 天壱


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8/9

7 魔法使いの第二王子再会

『改めて自己紹介させて頂きます。第二王子のセシル・アルバ・オクレール。慣れない城暮らしで色々と不便もあるでしょうが、お困りごとがあれば相談にのりますので」


セシル第二王子。王妃様譲りの銀髪は束ねたしゅるりと長い髪の先から前髪の先まで常に綺麗に切り整えられ、青色の涼しげな目をした人だった。

私がまともに話した最初のきっかけは、ゲームのスピカと全く同じだ。連日、国王に任されたいくつもの同盟候補国との書状のやり取りが忙しくて、私はたまたま歩いていたところを城の人に頼まれて便箋の束をセシル王子に届けにいった。

残された王子達の中でも一番書類仕事の公務を任されていたセシル王子は、どれも自分でやらないと気が済まない人で王子とは思えないほどに部屋は書類で埋まっていた。紙を届けに来た私にも、最初の数十秒は気付かないでずっと執務机に齧り付いていた。

国王に紹介された時の第一印象は真面目そうな人で、そしてあの時は〝大変そうな人〟だと思い直した。王子が具体的にどんな仕事をしているかなんて想像もつかなかった山育ちの私には、部下が大勢いる筈のセシル王子一人が何故あんなに忙しそうにしているのかもわからなかった。


『!貴方は、……スピカ殿、でしたね?魔法使いの。どうしてここに……?』

『す、すみません。スピカで大丈夫です……あの、さっき廊下で会った人にこの紙をセシル王子に急いで届けてほしいと……』

王子達との接点はそれぞれだけど、初対面は全員謁見の間だった。偽物スピカとして城に訪れてすぐ、国王の口から王子達にも紹介された。私が国一番の魔法使いだという嘘も、……王位継承者に私と結婚してもらうことも。

だから今のうちに仲良くすることと、そして私もまた王子達を見定める立場の一人だと告げられた。見方によっては〝私が選んだ王子〟が国王になれるとも聞き取れる国王の話は、王子達全員を戸惑わせた。

当然、王子の中でも一番真面目だったセシル王子も例に漏れなかった。


『……~……申し訳ありません。貴方も気まずいでしょう。父の命令とはいえ、嫁いだ先で突然選べと言われたら誰だって困ってしまう……』

ははは……と、気まずそうに眉間に皺を寄せながら苦笑するセシル王子は、思った以上に良い人だとわかった。

紙を置いた後も、少し話しませんか、お茶でもと客用に席に促された。友人から、……ハリー公爵から貰った茶菓子を出してくれたセシル王子は、書類仕事とは一転して今思い出せば少しぎこちなかった。

今まで恋愛ごとには縁も遠かったセシル王子にとって、王位継承者の条件の一つが私だったことは予想外の難題だった。

恋愛に興味はないし、無理矢理私とそういう関係を迫ろうとも思わない。だけど国王が決めた以上友好的になってくれると助かると、まるで仕事先との取引のような口調の話し方だった。私としても、偽物であることも明かせずに王妃になる自信も、国一番の魔法使いの代わりになれる自信もなかったから望むところで、その日は是非と握手も交わした。王子の中では一番話しやすい人だった。


『私が王子様達の中から誰かを選ぶなんでとんでもないです!だって……私……』

『君一人に認められないなら、国中に認めてもらうことなんて夢のまた夢だ。君が気負う必要はないよ。それに……」

自信もないし、嘘をついている罪悪感でおどおどしていた私にも親切だった。人当たりが良い、というよりも確かゲームでは「苦労性」と紹介されていただろうか。個性豊かな弟達に胃を痛め、お酒もあまり好まず珈琲には必ずミルクをいれる人だった。

書類仕事を始め、国王の公務に城内では誰より携わっていた人で、順当にいけばセシル王子が国王にだとも噂されていた。一つ一つ小さな仕事から積み重ねて努力して、とうとう国王から大きな仕事を任されるようにもなった。私もいつも相談に乗ってくれたセシル王子に何かお返しできるならとその公務に同行し、そして




バッドエンドへ堕ちる彼を、ただ見ていることしかできなかった。




「……まさか君にあんな大きな声が出せるとは思わなかった」

「大変失礼致しました……」

廊下を歩きながらも、ハリー公爵の言葉に今は少し背中が丸くなる。

エリアスと一触即発だったハリー公爵に啖呵を切ってから、なんとかセシル王子のもとへ案内して貰えることになった。私達の先頭を切って歩くハリー公爵の背中を見つめながらもさっきは至近距離で大声を出しすぎたなと反省する。

「来たまえ」と言われるまま背後に続いたけれど、未だにその顔を見ることもできていない。あれくらいの大声出さないと、エリアスとの間に入る度胸も出なかった。けど、これでも声を出せるだけ成長でもあると自覚もある。以前だったら小さくなって見ているだけで、……そういうことの積み重ねがバッドエンドだ。

エリアスも、ハリー公爵が案内してくれてからはまだ大人しい。怒らせるようなことも言わずに、私の隣を歩いている。

私の謝罪に「いや」と断るハリー公爵は、そこで一瞬だけ初めてこちらを首だけ振り返ったように見えた。背中を丸くなっていたのが見られないように、慌てて私も背筋を伸ばす。


「以前よりは、……変わったようだと言いたかっただけだ。これでも褒めている」

褒めてる????!

淡々と言うハリー公爵の言葉に耳を疑う。どこが褒めてるのか全然わからない。

ハリー公爵が再び進行方向に顔を向けたことを良いことに、顔が正直に引き攣った。まだ褒められる要素も見つからなければ、まだセシル王子の精霊堕ちを浄化できていない今は小声の嘘吐きから大声の嘘吐きになったくらいの違いしかハリー公爵にはないように思える。

そんな私の気持ちも知らず「懐かしいな」と独り言のように溢すハリー公爵は廊下の窓に歩きながら顔を向けた。


「一年前はうじうじして私と目も合わせなかった偽物魔法使いが、よくエリアス王子と私との間に入って大口を叩けたものだと心の底から感心している」

やっぱり怒ってるんじゃないのこれ??

嫌味にしか聞こえない。偽物魔法使いだったこともどうやらハリー公爵は知っていた。ハリー公爵は城とも関係が深いし、一年前もよく公務で城に訪れてはセシル王子に会いに来ていた。

そして、私はハリー公爵が怖くて常に避けていた。ハリー公爵が来ている時はなるべくセシル王子のもとにも行かないようにしていたくらいだ。……ゲームクリアの記憶を思い出した今、この人とも関わることがセシル王子との攻略への大事な鍵だと知ったけれどもう遅い。

ゲームの板越しの攻略対象者の友人と、実際に存在して自分を睨んでくる顔も怖くて厳しい公爵様と直接会うのは全然違うと、それだけは今も思う。


「私が何を言っても「がんばります」「努力します」しか言わず、どうせ調子の良いことを言ってその場凌ぎを続けていた偽物魔法使いの口だけ女で、城での大きな機会も生かせなかったのだから追い出された後も到底その性根は変わることはなく道の端で小さくなって食べものが落ちていないか日銭稼ぎ探しにでも明け暮れているのがお似合いだと」

「ははは……仰る通りです」

やっぱりキツイなぁこの人と、思いながら枯れた笑いが溢れてくる。

実際、ほぼそんなもんだった。一年経っても反省と後悔はしても、一歩も前に出ることができずにその日を飢え死にしない方法を考えるので精一杯の一年間だった。

妙に視線が気になって顔を向ければ、エリアスが興味深そうにこちらを凝視していた。そういえば、何も言わないで大人しくしてくれているエリアスだけど、まだ私の名前も一年前の立場についてもまたちゃんとは話してなかったかもしれない。まぁ、それもセシル王子を元に戻してから纏めて説明しよう。……それにしても。


「……ハリー公爵は私のことをよくご理解されておられるのですね。あまりお話する期待もありませんでしたのに」

「避けられていたからな君に。気にするな慣れている。確かに直接の関わりはなかったが、君のことはセシルからよく聞いていた。……城を追い出されたと聞いたのは、国王陛下からだが」

ギロリ、と今度は正真正銘睨まれ、うっかりまた反射的に目を逸らした。もうハリー公爵には睨まれるのが慣れすぎた。途端にまた溜息の音がハリー公爵から聞こえて、せめてと背筋を伸ばす。

セシル王子が私のことを話していたのも意外だ。ゲームでも二人がスピカの話題をしている場面はあったけれど、私はそこまで正直親密度が高かったとは思えない。そして国王陛下から聞いたということは、本当に全ての化けの皮はとっくに剥がれたのだと理解する。

タンタタン、と両足を揃えて急激に足を止めるハリー公爵の背中に思わず鼻をぶつけかけた。鼻先が触れたかと思った瞬間に、エリアスが肩を直接押さえる形で引き留めてくれた。

「ここだ」とハリー公爵が立ち止まった扉の部屋は、屋敷の中でも一番端の部屋だった。セシル王子につれてきてもらった時も一度もない部屋だ。扉の装飾は立派だし倉庫とかではないのだろうけれど、客間にしては端過ぎる。


コンコンと、こちらの心の準備もなく扉を叩いたハリー公爵は「セシル」と通る声で部屋の向こうへ呼びかけた。


「聞こえているな?お前の客が来ている。一年前の偽物魔法使いと、……エリアス第一王子だ」

本物のな、と。私とそしてエリアスにも眉間に皺を寄せた目を向けるハリー公爵に、思わず緊張で口の中を飲み込む。

やっぱりセシル王子にその呼び方をするということは、私にも大分怒っていたんだと改めて思い知る。エリアスの名前を唱えれば余計にハリー公爵の表情は険しくなった。眉一つ動かさないエリアスと一秒見つめ合い、再び扉を見たハリー公爵は返事も待たず「開けるぞ」と扉の鍵穴に鍵を差し込んだ。

返事がないにも関わらず開けるのも、呼びかけも、ハリー公爵が慣れている背中に胸が細く締め付けられた。この人は一年もの間、こうやってセシル王子を保護し続けてくれていたんだ。普段のセシル王子ならばまだしも



〝精霊堕ち〟のセシル王子を。



「……のことなんて……私、私の……なんて……どうせ誰も、誰も、誰も………誰も」

部屋は、正午にもかかわらず真っ暗だった。

空気も籠もっていたのか、一瞬別世界のように重く、温度も気持ち悪く感じるほど生温い。無臭なのが逆に不思議なくらい湿った空気を肌が感じ、思わず扉の前で一歩引いた。

ハリー公爵も、部屋には入らない。私達に開けてくれた扉の手のままそこに佇んでこちらを見ている。口は閉じていても「さぁ入れ」と言っているのがわかる。

ハリー公爵は近付く気も今はないのだろう。とっくに、セシル王子相手に〝意味が無い〟ことを知ってしまっている。

カーテンも閉め切られているのだろう真っ暗な部屋でぼそぼそと聞こえる声に、私が怖じける中エリアスが先に動いた。


「ッえ、エリアス、先に私が……」

「良い。私が先に安全か確かめればお前も安心できるだろう?」

まずは私が城下魔法をしてからでないと引き留めようとすれば、エリアスから口角を上げた笑みが返された。申し訳ないと思いつつ、でも確かにその方が安心できる。

迷うことなくツカツカと広い歩幅で進んでいくエリアスの背中に、私も怖気ながら続いた。広い部屋で、エリアスに「あんなところに」と指差されても目を凝らさないとわからなかった。

「私なんて」とその声だけ溢すのが、最初は壁のシミに見えた。広い部屋の窓からも扉からも離れた壁に膝を抱えた人は、正面から手が届きそうな距離まで立ってもこちらに気付く様子もなかった。だけど、近くまでくればもう間違いなくセシル王子その人だ。震えているけれど柔らかく聞こえる声も、悲痛に歪んだ青い目も、


べったりとあせに濡れ首から身体に纏わりつき、指に絡み、分け目もわからないほど掻き乱された銀髪も。


切り揃えられたとは思えない疎に伸びた前髪。やつれた頬に、目の下に描いたようにはっきりと浮かんだクマ。精霊堕ち特有の暗く色褪せた肌と髪色に、淀んだ瞳。

私の知るセシル王子とは別人で、……最後に別れた姿そのものでセシル王子は蹲っていた。

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― 新着の感想 ―
なるほど、攻略対象者の友人から逃げ回っていたら、そりゃあバッドエンドにもなるな。 城下魔法は浄化魔法の誤字でしょうか?
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