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バッドエンドから一年後~誰にも期待されない魔法使いの私が、伝説の精霊魔法使いに実力を認められ王子を救う~  作者: 天壱


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6 魔法使いの訪問


「追跡魔法か?発信魔法か?予言か??」

「単なる経験則」


無事、山賊を殲滅した私とエリアスは城下に戻ってきた。

捕まっていた捕虜の人達については、エリアスのいた村に任せた。エリアスが村を出ると言った途端村の人達も引き留めたり惜しんだりと山賊一掃よりも大きな騒ぎになった。村ではエリアスの住んでいた家にお世話になったけれど、結構深夜までエリアスを引き留めようと村人が入れ替わり立ち替わり訪問にきた。

エリアスの住んでいた家はもともとは空き家だったらしく、村の中でも結構古い家で驚いた。村の人がやってくれたのか至る所に修繕の形跡や大量の食料や手製の家具も詰め込まれていて居心地は野宿より遙かに良かったけれど、王子様が住んでいる家とは思えない庶民的な住処だった。


エリアスは村人にあっさりしたもので「もう山賊の心配はない」「世話になった分の役目は終えた」とその一言二言ばかりだった。村の為しか考えない言動が嘘のように、離れると決まったら村を離れる瞬間まで平然と口角を上げただけの笑みだった。

村の人達の方が「家は残しておきますから」「いつでもお待ちしています!」と今朝は大号泣の惜しみ方で、なんだか私の方が気まずかった。


「セシル王子はハリー公爵と親友だから、城を去って頼るならハリー公爵しか考えられないだけ」

それにハリー公爵もまた、セシル王子を放ってはおかない筈だと。そう、何故王子達の居場所がわかるのかとしつこいエリアスの問いに答えつつ私は小さく見えてきた立派な屋根を指差した。まさか実際はゲームのバッドエンドの締めくくりで知っていましたなんて言えるわけもない。


『……その後、セシル王子はハリー公爵の元に身を寄せていると風の噂で聞いた。私は最後まで彼の力になることはできなかった……』


もう今日まで何度もバッドエンドのモノローグが頭に巡っている。実際は城下に一年もいて一度も風の噂なんて聞いていないけれど。

セシル第二王子。エリアスが不在だった中では最年長の王子で、一番真面目で秀才で頭の良い王子だった。年の近いハリー公爵という友人もいる、人間的にも社交的な御方だ。私が替え玉魔法使いだと知った時も驚いていたものの「君が陰で魔法の練習をしていることは知っている」と、魔法の練習も応援してくれた。ただ、…………今は精霊堕ちだ。


「そういえば、エリアスはハリー公爵と面識は?」

「あるが、七年ぶりだからな……。それより、私の呼び方だが」

なに?と、頭を掻きながら首を傾けるエリアスに振り返る。やっぱり馴れ馴れしい話し方はやめた方が良いということだろうか。

七年ぶりと言われれば確かにお互いに朧気でも無理はない。ただ、少なくともハリー公爵はエリアスの武勇伝を語るくらいには記憶に残っている様子だった。

周囲を見回しながら着いて歩くエリアスはちらりと私と目を合わせてから、今度は少し声を潜めた


「本名もなるべく大声は避けて欲しい。騒ぎになるかも知れない。お前も魔法使いと知られたくないのだろう?それと同じだ」

「!ごめん」

確かに、と。これには私も口を一度絞る。

貴族の居住区に近くなってから、田舎者姿の私達はすれ違い様に何度も振り返られている。エリアス、なんて呼んだら当然注目も浴びるし、しかもエリアスはこの国では今も生ける伝説だ。ただでさえ目立つ容姿なんだから私の方から気を払う必要があった。


屋敷の正面にまで辿り着けば、門番に止められた。

私もハリー公爵とは顔見知りではあるものの正直に名前を言って会ってくれるかは自信がなく、言い淀む。するとエリアスが一歩さらに前に出た。


「エリアスが来たと。そう言ってくれればわかる」

途端に、見張りの門兵は目が零れ落ちそうなくらい丸くした。急ぎ一人が通達に走る。

王子を付けなくてもあっさりと伝わるこの有名人ぶりに改めて、この人の知名度を思い知る。ついさっき名前は伏せてと言ったばかりなのに、あっさりと自分から名乗ってくれたことが意外で顔を覗き込んでしまう。けれど「なんだ?」とエリアスは変わらず緊張もない常温の眼差しのままだ。


「正体を知られるのは嫌だったんじゃ?」

「?必要ある時にまで素性を隠すことに何の意味が??」

まさかの疑問を疑問で返された。あくまで騒ぎになるのを避ける為であって、気付かれたくないとは違うということだ。……この人にそういう情緒はないと出会った日嫌というほどわかった筈なのに。

エリアスのことだけは、彼が城を去った理由以外何も知らないけれど、取り敢えず人の目を気にする人ではないことはもう山賊の一件で思い知った。


そんなことを考えていれば、とうとう門兵が駆け戻ってきた。「どうぞ」と門が開かれ、正面から正々堂々ハリー公爵への訪問が叶った。流石エリアス。名前だけで通された。

庭園を抜け、大きな建物の前で立ち止まる必要もなく兵士の手によって玄関扉が開かれる。「お待ちしておりました」と従者だろう男性の案内のもと、客間へと通された。

その屋敷の敷地内での移動だけでも人の視線が鋭く、痛かった。エリアスだけでなく、数度訪問した私まで注視されてるのがわかった。一年前はセシル王子と一緒に来た時もこんな鋭い視線は受けなかった。……つまりは、そういうことだ。ハリー公爵と仲の良いセシル王子のことも屋敷の人達は慕っていたから。セシル王子のお役に立てなかった魔法使いなどお呼びではないだろう。

ますます、セシル王子がここにいる確信が増した。


「お待たせしました。ご無沙汰しておりますエリアス元第一王子殿下。そして、……スピカ殿」

ノックの後に開かれた扉から現れたのは、ハリー公爵だった。

乱れ一つないぴしりとした茶髪に、険しくも眉間の皺が刻まれた顔。胸を張り堂々とした姿勢と物言いに、私も席から立ち上がったものの緊張で背中が反った。使用人達のようなチクチクした目線とも違う、ジトリと湿り気を帯びた重い眼光に少なくともこの人も私を快く思っていないことはわかった。


ハリー公爵にとって私は未来の王妃に選ばれるほどの大魔法使いだったにも関わらず、彼を支えきれずに城を去った役立たずだ。当時、セシル王子に紹介された際に「彼こそ国王に相応しいと私は思っています」「どうかよろしくお願いします」と言ってくれた人でもある。

正直、国王陛下よりも今は苦手だ。国王陛下とは接点もほぼなかったけれど、この人は良くしてくれた分期待を裏切ってしまった罪悪感がずしりとのしかかって舌が痺れるように感覚がなくなった。……やっぱり、エリアスをに最初に協力を願って良かった。絶対私だったら門前払いだったに違いない。

「スピカ?」とエリアスから不思議そうな声を掛けられたけど、小刻みに首を振って説明を断る。今はそんなこと話せるような状況じゃない。


「久しぶりだな。私のことを覚えていたとは嬉しいなハリー。公爵就任おめでとう」

「父が早逝致しまして。ところで本題ですが、七年ぶりに一体どのような御用件で?」

形式的な握手を交わす二人を見つめながら、私も頭を下げる。

エリアス、どうだかと言っていたわりに自分は覚えていたらしい。建前にも思い出話にも興味がないと言わんばかりのハリー公爵に、私は思わず口の中を飲み込んだ。言葉遣いは丁寧だけど、つまりは「要件を言え」だ。三人揃ってソファーに座る前に本題を尋ねるハリー公爵に、また私から話しかけることも怖くなり足が半歩下がった。その間にも「ああ」と躊躇いなくエリアスは口角を上げただけの笑みで言葉を返す。


「セシルに会いに来た。ここにいるのだろう?今すぐ会わせてくれ」


あまりにも直球、かつ豪速球。

あくまで経験則と言った筈なのに、エリアスの口調は恐ろしく確信に満ちている。証拠を提示するまでもないと思わせるほど、強い威厳とそして命令だった。

ピシン、とハリー公爵も表情筋とともに数秒動きを止めた。驚くのも無理はない。まだ城下で噂どころか、国王からもセシル王子の居場所を掴んでいる様子はなかった。誰も知らない筈のセシル王子の居場所を長年行方不明だった第一王子が知っていたら驚くに決まっている。

ただ、ここですぐに取り乱さず表情を固めるだけで止めたのは流石ハリー公爵だ。


「……申し訳ありませんが、言っている意味がわかりません。セシルは一年前に精霊堕ちで」

「ここで匿っているのだろう。良い友人をもって弟は幸せだ。今すぐ会わせて欲しい」

「何を根拠にそのようなことを仰るのですか。城にすらおらず行方を眩ませていた貴方が」

「彼女から聞いた。本当に弟が世話になった感謝する。今すぐ会わせてくれ」

知らないふりを貫こうとするハリー公爵に、エリアスはさらに動じない。表情一つ変えず、口角を上げただけの笑顔で確定事項を繰り返す。

握手をしたままの手が、今は友好よりも逃さないというエリアスの意思に見えてきた。

とうとう口を閉じてしまうハリー公爵が直後にはギロリ!とこちらに目を向けた。一年前は向けられなかったあまりの厳しい眼光に、ひぃっ!と思わず肩が震えた。「貴様がバラしたのか」「何故知ってる」と、きっとエリアスがいなかったら私の方が質問責めにされていた。


「会わせてくれ」

「大変申し訳ありませんが、ご希望には添えません。セシルの消息については情報を得次第、城にご報告致します」

さっきよりはっきりとした声色で告げたエリアスに、ハリー公爵もまた拒絶に近い口振りだった。帰れと、そう言っている。

ハリー公爵にとって、セシル王子は親友だ。父親を早くに亡くして当主になったハリー公爵に、誰よりも親身になって力になったのがセシル王子だった。セシル王子も唯一の兄であるエリアスが失踪した経験から、頼れる背中がいなくなった彼の気持ちがわかり、力になりたいと思ったと話していた。

セシル王子と固い絆で結ばれているハリー公爵が、一年も匿っていた友人の消息を簡単に明かすわけがない。たとえ相手が彼の兄で、第一王子であるエリアスで



─ 悪寒が、走った。



「会わせろと。そう、この私が申している」

ゾッッ、と急に空気そのものが重たくなった。覇気に呑まれ、視界が一瞬グラついた。

エリアスのさっきまでとは違う低い声に息を止めて視線を上げる。王子達が精霊堕ちになったと話した時と同じ、鋭い二色の眼光が握手したままのハリー公爵に向けられていた。

驚愕に顔が引き攣るハリー公爵の身体が少し後ずさったけれど、硬く握られた手が捕らえたように逃さない。今にも人を殺しそうなエリアスの目に、向けられてない私まで動悸が激しくなった。


「今ならまだ許してやれる。我々は急いでいる。弟を匿ってくれた恩人の歴史ある屋敷を無作法に荒らしたくはない。……わかるな?」

屋敷を壊されたくなければとっとと弟を出せと。丁寧な脅迫を聞きながら、心臓が気持ち悪くざわついた。死体が壁や床にめり込んだ山賊の根城を思い出す。

まさか、まさか公爵家の屋敷で同じことはやらないと思うけど、この人の常識がわからない以上安心できない。さらにはメキメキメキッとハリー公爵の手が歪な音を立て出した。

右手だけでなく全身を強張らせるハリー公爵の顔が苦痛に歪み出し、もう躊躇うどころじゃなくなった。


「ッッわ……私は精霊魔法が使えます!!」


二人の握り合い手を引き離すべく私からも上から掴みながら声を上げる。

頭の中では謝罪や事情と経緯をエリアスの時のように話そうと思っていたのに、全てを飛ばす。掴んだ手と、上擦りながらも大声で叫んでしまった声に二人も目を剥きこちらを凝視した。鋭くなったままの眼光四つが向けられ、また喉が干上がる。せめて、客間とはいえ大声で言うことはなかったと後悔してももう遅い。

瞬き一つせず目を見開いていくエリアスと、そして次第に疑いの眼光に変わっていくハリー公爵に動悸が乱されながら無理やり舌を働かせる。


「セシル王子の精霊堕ちを浄化することができます!その為に本日は伺いましたお願いしますもう一度私にセシル王子のお力になる機会をお与えください……!!」

殆ど息継ぎ一つできずに言った。心臓だけでなく呼吸までおかしく荒くなる中、手の力だけを強める。

疑いの眼差しが一瞬、ハリー王子の瞳が揺れた。ハリー王子が友人をこのままにしておきたいわけがない、助けたくないわけがない。そして私を信用できるわけがないそれでも!!



「セシル王子はッここで終わるべき御方ではありません……!!」



肺の全てを使い切った声は最後に掠れた。

それでも間違いなく届いたと、静かに解かれ下ろされる二人の手でわかった。


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