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バッドエンドから一年後~誰にも期待されない魔法使いの私が、伝説の精霊魔法使いに実力を認められ王子を救う~  作者: 天壱


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5 魔法使いは諦める。


「この馬車は?」

「被害者のだろう。……思ったより多いな」


残骸の山を前に、私達は一度足を止める。

足跡魔法を辿り、無事その拠点へと私達は辿り着いた。森の奥の奥で、いくつも道や岩山の隙間を縫ったわかりにくい経路の先にあったのは堂々とした建築物だった。見張りも外にはおらず、本当に隠れ家というよりも別荘のような印象だ。ここまで来れば確かにうっかり見つかることもないから、住処そのものを偽装する必要はないのだろう。

建物の中からは笑い声も聞こえてくる中、私達が見つけたのは建物のわきに放置されていた荷車の山だった。横転させられたものや、年季が入ってバラバラになったものや血らしいものが付着しているものもある。

エリアス王子が言っていた通り、村に向かう行商人が標的にされ続けていた生々しい証拠だ。


「では私は行ってくるが、スロースは待ってて良い。魔法で隠れるか擬態はできるか?できなければ荷車の陰に隠れていろ」

「待っていて宜しいのですか?」

「?お前は私の部下じゃないだろう?」

きょとんと、私以上に意外そうに丸く目を開いて断言された。

どうやら私は本当に囮以外は期待もされていなかったらしい。その方がありがたい。ここまで抱えて運んでもらった私は、この先もお荷物になる可能性が高い。

わかりました、いってらっしゃいませと先ず馬車の陰に隠れてみせたところで、エリアス王子も行動は早かった。本当に知り合いの家に招かれるような気軽さで建物の正面入り口に歩み寄り、バキャンと一蹴りで扉を破壊して入っていった。

「なんだ今の音!」と怒号が聞こえたところで私も地面にしゃがみ、べったりと上体を畳んで伏せ自分に魔法を使う。地面と同化しているように見せる擬態魔法だ。地面の上でしか使えない魔法だけど、これで通り過ぎる人にも私は地面の一部としか認識されない。

エリアス王子は戦闘に秀でていたアーク王子よりも強いという話だし、さっきの殺傷力から考えてもまず山賊相手に負けはしないだろう。私はここでエリアス王子が掃討を終えるまで、山賊が逃げ漏らしがないかだけ見張っていれば


「…………け、て……っ…………だ………か……誰……」


「……え……??」

ぞわっと、一瞬寒気を覚えるほど微かな声だった。

建物の中からはバキバキと破壊音と怒号が溢れる中、地面と一体になっていたところで聞こえてしまった。荷車の残骸の陰で、一瞬本当に幽霊の類いかと思って聞こえないふりをしたけれど、いつまでも辿々しく聞こえる声はもう無視できるような空耳ではなかった。

周りには荷車しかない。だけど、建物にも当然近接している。そしてその建物のふもと、本当に小さくだけど鉄格子が数本長さ3センチほど見えた。完全に地面に顔を近づけていなかったら気付かなかった小さな隙間に、地面をずるずると這いながら顔を近づけ覗く。

建物の床下の位置にも関わらず、見下ろせるほどに深い空間が覗けた。暗くて良く見えないけれど、目の代わりに耳を近づければ今度は確かに「助けて」とすすり泣くような声が聞こえてきた。多分、この荷馬車の持ち主達だ。

行商人の他にもいるのか、女性のだろう高い声も聞こえる。地下牢か何かだだろうか。

こんなところを目敏く見つけてしまうのも主人公だからこその強運だろうかと、ゲーム目線で考えてしまう自分に嫌気が差しながら声を張る。

もう建物の上では物音も怒号も悪化しているし、ちょっとくらい大声を出しても大丈夫な筈だ。


「ッ誰かいますか!貴方達は?!」

「!います!!山賊達に捕まったんです助けてくださいお願いしますお願いしますッ」

「娘が!!娘がさっき〝上〟に連れて行かれました!!!お願いですあの子を……!」

助けて助けてここだ地下室だ山賊が大勢上にいると、何人もの声がする。声の反響からしてかなり下の方にいるらしい。最初の第一声以外、もう聞き分けられないくらい大勢の声にぞっとした。

今助けが向かっていますと全力で声を張りながら、こうしてはいられない。鉄格子を壊せても数センチの隙間ではどうしようもない。この窓はどれくらいの大きさかと尋ねても、埋まっている部分をいれても子どもが通れるくらいの大きさだと言われれば掘り起こしたところで誰も逃がせない。何より、…………「娘が連れて行かれた」という言葉に背筋が冷たくなった。


捕まっている人達はあとでエリアス王子が逃がしてくれるとして、その女の人が今どんな目に遭っていて、そしてこれからどんな目に遭うか。人質にされるか、盾にされるか。一番怖いのは、……エリアス王子に山賊の一味と間違われることだ。

山賊すら即殺するあの人が「うっかり」で殺してしまうかもしれない。片手で人の頭を割るような人が、一瞬の見間違いでどんな惨劇が起こるか!!


覚悟を決める。大きく吸い上げ、直後に止めて飲み込んだところで、魔法を解きエリアス王子の入っていった扉へと駆け込んだ。捕虜の女性がどこにいるかはわからない!けど、まずはエリアス王子!エリアス王子を探せば良い!!

扉を入ったところで、最初に広がったのは山賊らしからぬ大広間だった。貴族のパーティー用のというよりも、広大な居間という方が正しい。ソファーや酒樽、そして床にも酒瓶がバラバラと散らばっている中で、今は山賊達の死体も散らばっていた。

床にめり込んだ死体に、テーブルを割ったその先の床に埋まった顔面、壁や柱に後頭部がめり込んだまま血を噴き出しているのもある。死体の傍にはナイフや斧、剣も転がっていたけれど、彼らは全員エリアス王子が剣を抜くまでもなく無力化されたのだろうことはわかった。

踏まない方が難しいくらいに、山賊の血が床全体に散らばり広がっている。広々とした空間にもかかわらず、エリアス王子の陰はなく、代わりに耳を澄ませば階段の上から物音と怒号が聞こえてきた。

一階は既に殲滅した後らしい。私も慌てて階段を駆け上がる。


「エリアス王子ッエリアス王子お願いお願いですから殺さないで……!」

心臓が嫌な振動で弾む。大声で呼びかければ聞こえるかもしれない。でもそれ以上に私が山賊に標的にされて足を引っ張る可能性の方が高いと考えれば、口の中だけで当てようもなく唱えてしまう。もうこれ以上罪もない人は死なせれない。

バキャンッ!と近くの破壊音にうっかり足が止まりかけた。踊り場に出てもう少しで登りきる階段の先を見上げれば、ちらりと遠目にエリアス王子の赤髪が見えた。急ぎ足音も気にせず駆け上がったのに、もうエリアス王子はどこかの部屋に消えていた。


真正面の扉には巨大な穴が空いている。エリアス王子があの腕力で家具でも投げたのだろうか。「どこだ!」「ボスの部屋だ!!」「早く武器を用意しろ!!」と他の部屋からも声がする。どの部屋にエリアスがと見回せば、また更に上の階から怒号と破壊音が聞こえてまた階段を登る。


声を頼りに駆け走る。今度ははっきりと「イヤァアッ!!」と女性の悲鳴もまざって聞こえた。今にも吐きそうなほど嫌な予感に足が遅く感じながら地面を蹴る。

まだわからないわからない山賊に女性がいるかもしれないし山賊の仲間かもしれないと嫌な予感を振り払い、口の中を噛めば血の味がした。背後からは二階の生き残りだろう山賊達が集まってくる音がして余計に急かされた。

最上階だろうか、階段を登りきったところには扉が二つだけだった。そのうちの一つはもう扉そのものは破壊されていて、迷わず私は飛び込む。


「!スロース。何故ここに?」

部屋にはいった瞬間、呑気な声でエリアス王子が振り返った。寝室だろう、巨大なベッド以外は家具もひっくり返っている。窓際に立った大男が若い女の人にナイフを突き付けている最中だった。女性の方は怯えている上に、酷く露出した恰好だ。もう考えることも無駄に思えるほど間違いなかった。

そしてエリアス王子はちょうど椅子を投げようと構えているところだ。良かったギリギリ間に合った!!


「ッエリアス王子!その女性は捕虜です!!山賊の仲間ではありません!」

「?ああ、もう聞いた。それでスロースは何故ここに?」

こっちだ!!ぶっ殺せ!!と、私の叫び声がいけなかったのか、振り返ればもうすぐそこに男達が武器を持ってきている。もうここまで来たらエリアス王子の傍が一番安全だと、その背後に避難した。

椅子を高く掲げたままのエリアス王子は「聞いてるか?」と呑気な声のままだけど、それどころじゃない!ズカズカとあっという真に部屋を埋め尽くす数が雪崩れ込む。途端に勝ちを確信したように女性を人質に取る大男がこちらに声を荒げ出した。

「おい!!聞こえてんだろ!!この女が殺されたくなけりゃあ大人し」




ズシャンと。血の噴水が吹き荒れた。




「危ないぞ」

そう、忠告のような声が聞こえたのは、大きな手で垂直に押さえつけられ床に膝をついて座り込んでいると、自分の体勢に気付いてからだった。

エリアス王子が振り上げていた筈の椅子が、床に転がっていた。手放した手で、初めて剣を抜いたエリアス王子がたった横振り一つで特攻してきた山賊達をまとめて真っ二つにした。背中に隠れていた筈の私の傍に、もう彼はいない。


「せっかく、最後の部屋に、集めたのに、……よりにもよって、間が悪い」

ズシャン、ズシャン、グシャン、……ズシャンズシャンと。一言一言とまるで素振りのような気軽さで、一瞬で山賊達の身体が分断されていく。

まるで剣舞でも見ているように動きは軽やかなのに、振るう先振るう先必ず敵を複数裂く。

真っ赤に返り血を浴びても眉一つ動かさないエリアス王子に、気付けば目が離せなかった。死体の首がごろりと足下に転がってきた時にようやく我に返る。

慌てて振り返れば、大男が女性を片腕に捕まえたまま窓から紐を掴んでいるところだった。逃げられると、足に力を込め床を蹴る。


「待って!!」

魔法、魔法、魔法と頭では繰り返すのに、何を出せば良いかが出てこない。

今私が攻撃したら山賊だけでなく女性まで巻きこんでしまう。こちらにギョロリ見開いた目を向けてきた男は止まらない。歯を剥き出しに食い縛ったまま、縄を片手に窓から女性ごと飛び出した。

最上階に繋がれた縄を掴み、私も追いかける。手繰り降りるのが速くないまま足下を睨んだ時にはもう、山賊が女性を空中で手放し捨てたところだった。縄を伝い降りるのに人質でしかない女性は荷物だと、躊躇いのない手だった。女性の悲鳴に、私は縄から手を離す。

「ッぐふァあ!!!?」

垂直に落ちた私の両足が、一瞬で男の顔面を踏みつけ落とす。私も、大男も、女性も全員がまとめて落下する中、地面に叩き付けられるより前に杖を取り出した。


「〝飛行魔法(レント)〟ッ!!」

杖の先を女性に向け、間に合った。自由落下から直後には三人纏めて停止し、そして一気に浮き上がる。

女性も大男も落ちた時の体勢のまま、再び三階まで浮きあがる。見れば、ちょうどエリアス王子が窓からこちらを見下ろしている時だった。見下ろす彼から、空中で彼と同じ視線の高さにまであがる。

きらきらと二色の目を輝かせる彼に、……今は良い気持ちにはとてもなれない。「飛んでる」と子どものような感想を聞きながら、もしお師匠様くらい器用だったら大男をこのまま飛行魔法で投げつけてやりたいと思う。

私が怒っていることにはわかってたのか表情を変えるエリアスは、けれど怒っている理由はわからない表情だ。私の方に顔を向けながら、腕は変わらずかかってくる山賊達を当然のように斬り伏せる。平然とした様子の彼が腹立たしく、私は肺から息を吸い上げそして喉を張り上げた。


「ッどういうおつもりですかエリアス王子殿下!人質の女性がいるのにも関わらず不用意な真似など!!」

本当に、あり得ない。

椅子を投げる前に間に合った時点で安心したというのに、その状態で堂々と大男の目の前で山賊達を殺し始めた。いつ、人質が喉をかっ切られてもおかしくなかった。逃げられたのはいっそ幸運な方だった。

今は飛行魔法で大男も手足をジタバタするだけで、私にも女性にも近づけないで浮いている。だけどエリアス王子なら、椅子とは言わずともその速さと剣で大男だけ優先して倒すこともできた筈だ。

フーフーッと鼻息荒く怒鳴る私に、エリアス王子は小首を傾げる。ここまで怒鳴ってみせたのに、まだわからない表情だ。

謝られたいわけではない。けれど、彼からは反省の欠片も



「?その娘は村の人間ではない。私が任された役目は〝村の守護〟であり、大事なのは()()()()()()()()()()()殲滅することだ」



一瞬、意味がわからなかった。

心から不思議そうに言うエリアス王子は、また口角だけ上げた笑みを浮かべてみせる。返り血に染まる顔を、ついでのような手の振りで一人また一人と山賊を斬り殺しながら自分は窓際から一歩も動かない。

不意打ちも束でかかってこられるのも怖くないと余所見の態度で示しながら、反対の手を窓からこちらへとまるで握手を求めるように伸ばしてきた。その指先は私でも人質でもなく、首領へとまっすぐ向けられる。


「だからスロース、お前は大手柄だ。首領を捕まえてくれた。ここで逃がしていれば村にも被害が出ただろう」

ありがとうと、口角を上げただけの笑顔で言われた。……言っていることはわかってきた。だけど、決定的におかしいとも確信する。

エリアス王子の強さと空中に晒された首領に、山賊達もかかってくるではなく後ずさりし始めた。「まずい」「バケモンだ」「敵うわけがねぇ」とおろおろと溢し、背中を向けて走り出す姿も見えた。エリアス王子も気づき、逃すまいと敵の方に顔を向けた。

「すまない、そこで待っててく」


「もう結構ですわかりました」


「?どうした?」

敢えて、エリアス王子の言葉を途中で上塗り、切る。それでも丸く瞬きしただけのこの人はきっと私の発言の理由も理解していない。

よくわかった。出会った時からおかしいおかしいと思ったこの人の、何がおかしいか。村の為にと言うこの人にとって、きっと()()()()()()()()()はどうでも良い。

あくまで目的は村を守ることであって、人助けじゃない。大義の為ならそれ以外を簡単に斬り捨てる。だから人質を見捨てたことも自分の失態と思わない。切り捨てることを、悪いと認識すらしていない。

記憶の中で、誰かの声がした。どの王子か思い出せないけれど、その声は兄であるエリアス王子のことを



『人の心がない』



「……山賊を一人残らず殲滅できれば宜しいのですよね?」

「?ああ」

「わかりました。ついでにご所望の魔法もお見せします」

杖を手に標準を真っ直ぐと。自分でも平たく冷たい声になっていると自覚しながらも彼らを見据え、睨む。

ここが乙女ゲームの世界でも、彼が攻略対象者であろうとも、一年前にゲームは終わった。今は主人公ではなく〝スロース〟として彼に向き合う。


私の言葉に「おぉ」と嬉しそうに素の声色で顔を輝かせる彼に、今度は私がにっっこりと無理矢理口の端を上げて笑顔らしく作って見せた。飛行魔法で充分に彼らから離れ、距離を取る。

この人が自分の目的を最優先に全てを捨てるというのなら、私もまた目的以外は配慮しない。「なので」と紡ぎ、杖を振るう。

思い出すだけで懐かしい、尊敬するお師匠様直伝を今差し上げよう。




「勝手に死なないでね?()()()()




暴風魔法(ミュルスキュ)

ビュオオオオオオオオオオオオオオオォォォオオオオオオッ!!!

出力を捨てた風魔法が、建物を襲う。久々に使った攻撃魔法は、風というよりも横ぶりの竜巻に見えた。建物を大きな拳を振るうように殴り、周辺の木々ごと吹き飛ばし総浚いする。

掃除機の音を百倍にしたような鼓膜を揺らし、あっという間に建物が吹き飛んだ。


風が止み、見晴らしの良くなった地面にゆっくりと飛行魔法で降下すれば荷馬車の残骸があった地面に地下扉らしいものがぽっこり見えた。

捕まっている場所は地下室だと言っていたし、あの高さからなら暴風で出力をいくら間違えても地下までは抉らない。

いつの間にか気絶していた女性と大男を下ろす。途端に、地面に背中がついた衝撃で大男が握っていたナイフがポトリと落ちた。周囲を見回しても風で全部吹き飛ばされた後で、縛る縄も見つからない。取りあえず男からナイフを没収し、足の腱を裂いた。

シャッと肉を切る感触と共に血が噴き出す。男の口からも譫言みたいに呻いたけれど、それだけだった。気絶していたのは演技じゃなかったらしい。どちらにせよこれで人質をとられることも逃げられる心配もなくなった。エリアス王子みたいに真っ二つにはできなくても、足の腱を切ることなら女性の私でも難しくない。

ナイフを遠くに放り捨て、女性をなるべく男から離れた位置に腕を掴みずりずりと引き摺った。思ったよりも軽くて地下扉の近くまで運ぶことができた。


地下扉に手をかければ、鍵は吹き飛んだのかかかっていなかったけれど、代わりに扉がひしゃげて引っ張っても開かなくなっていた。これ以上ないくらい両足で踏ん張り掴み上げたけれど、駄目だ。耳を近づければ騒ぐ声が聞こえたものの、まさかの扉が変に嵌まってしまったらしい。


「魔法で開けられないのか?」

「私の魔法だと今度こそ中の人にも被害を出しますから。……。……ッハァ。……いつから戻ってきたの?エリアス」

取っ手から両手を離し、振り返る。

見れば、当然のようにエリアス王子……もといエリアスが背後に立っていた。飛行魔法で着地するまでの間にはどこにもそれらしい姿も、隠れる場所もなかったのに。


ついさっきだと、平然とした顔で言うエリアスは怪我はなかったものの、髪だけはボサボサと左右前後に乱れていた。思った通り、あの暴風の中にいた上でご無事だったらしい。やっぱりお師匠様直伝の〝お仕置き〟程度では死なない。

さらには怒った様子もなく「その下に人がいるのか」と尋ねてくる。地下に捕虜にされている人がいて、彼らに女性のことも聞いたのだと説明に口を動かされる。エリアスの方を向けず、無意味に地下扉を引っ張りながら視線もそこに落とした。


すると、エリアスが上から手を伸ばし、地下扉を掴みベリベリと分厚い鉄板だった扉を剥がすように開けてくれた。バキンッ!と最後の金具ごと折れ外れ、完全に地下への入り口が開いた。

梯子はついたままのもの、まだ下に鉄格子があるらしく歓声はあがっても誰も出てくる気配はない。


「私が行こう」

仕方なく降りようとする私に、エリアスが腕で止め前に出た。梯子に足をかけるまでもなく、すとんと飛び降りて地下に着地するエリアスに私から地下へと顔を覗かせる。


「良いの?村の人じゃない行商人ばかりだと思うけど」

「お前を怒らせた。その責任は償おう」

顎の角度を上げるだけで私を見上げるエリアスの二色の目は、月明かりを吸い込んだ光を帯びていた。

作り笑いでもない、真剣に見える表情に思わず私も首を引っ込める。……私が怒ったからお詫びに手伝ってくれるということだろうか。どこかずれた返答に、心があるんだか全く無いんだかまたわからなくなる。


地下からの歓声にまぎれてバキンッ!!とまた何か折れる音が聞こえ、まさか鉄格子の扉も素手でもぎ取ったのだろうかと想像する。

それから間もなく、次々と捕虜だっただろう人達が梯子から昇って地上に出てきた。さっきの女性の家族らしい人達も出てきて女性に駆け寄り、……荷馬車も積み荷も一つも残ってないことに一部の行商人は頭を抱え出したところで私も目を逸らす。

人質を見捨てたことは置いても、やっぱり魔法で余計なことをしてしまった。積み荷くらいはなぎ払った建物の中に残っていたかもしれない。


「ッそれに」

ガッ!と、突然地下扉から手が飛び出してきたことに驚けば、エリアスだった。

一人足を怪我して動けない捕虜がいたらしく、背中に背負ったまま梯子を登ってきてくれた。先に捕虜の人を外に持ち上げ出してから、自分も身軽な身体で飛び出してきた。

私から一応おいて行かれている人はいないか、もう一度覗き見て確認して顔を上げる。膝をついていたままの私と違い立ち上がったエリアスは口角を上げただけじゃない、清々しい笑顔でこちらを見下ろした。



「美しい魔法を見せてくれた礼だ」



薄い明かりに照らされて見えた子どもみたいな眩い笑みとその言葉に、不覚にも心臓が大きく鳴った。

出会って初日、お互いに人間的に駄目な一面を見せ合ったところで無事王子達救出の条件は達成した。


明日から19時更新致します。よろしくお願いします。

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