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バッドエンドから一年後~誰にも期待されない魔法使いの私が、伝説の精霊魔法使いに実力を認められ王子を救う~  作者: 天壱


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4 魔法使いは歩き回る。


「ッ本当にいる……?いますよね……?!」


抑えた声で独り言を溢しても返事はない。

ギリリと歯を食い縛りながら、恐怖心を抑え込む。夜の森を練り歩き、もう日が完全に暮れてしまった。自力では村に帰れないだろうと自分に確信する。王子達の救助に協力を受け入れてくれたエリアス王子が、今はどこを見渡しても影も形も見つからない。

最初に歩いていた村までの大通りと外れた、獣道もない森の中をただひたすらに私は歩いていた。

暗闇で何度も転びそうになりながら、服の中にしまっていた杖をそのまま掴んで歩く。精霊魔法を使えるから大丈夫と、自分に言い聞かせながらも子どもの頃から暗闇はあんまり得意ではない。それでもこうして光魔法も使わずに敢えて一人でビクビクと歩いているのは



これがエリアス王子からの〝条件〟だからだ。



『この近くの森に山賊が住んでいる。放ったままでは村を離れられない」

だから協力しろと、エリアス王子の言葉は理に適っているとは思う。

なんでも、あの村ではエリアス王子が訪れる前から山で縄張りを張っている山賊の被害に怯えて暮らしていたらしい。女性は特に狙われることが多く、森を歩く時だけでなく夜な夜な村から攫われることもあった。

けれどエリアス王子が村で用心棒のようなことをするようになってから誘拐犯も瞬時に撃退され、村から誘拐はされなくなった。森を抜ける時もエリアスが入り口から出口までは護衛をするお陰で、村そのものへの被害は激減した。私が歩いてきたあの村へ繋がる大通りも、そもそもはエリアスが少しずつ森の巡回も兼ねて切り開いたものだった。王の中の王はやることの規模が凄まじい。


だけど、被害はいくら止めることができても山賊は今も森のどこかにいる。その証拠にここ近年は村人への被害の代わりに、あの村への訪問者や行商人が激減しているということだった。恐らく村に向かっている途中で襲われているけれど、エリアスも森の入り口に一日中立っているわけにもいかない。その間に村が襲われては意味もない。

一番簡単な方法は、あからさまに誘拐しやすい女性を囮に山賊が来たところで捕まえて居場所を吐かせるというシンプルな罠だった。ただ、エリアスは村の人を危ない目に遭わせるわけにはいかないと、ずっと他の方法がないか考えあぐねていたらしい。…………そこで、この私が現れたと。

隠れて見ているから安心しろとは言われても、現時点で一度もエリアスの気配を感じられない。もう体感で一時間以上経過しているのに、山賊どころか野生動物一匹も現れない。


「大丈夫私には魔法がある魔法がある……」

自分に言い聞かせながら左手で右腕を何度も擦り抱きしめる。

今、私の唯一の自信の源。尊敬するお師匠様に認められていた精霊魔法。

ただ、精霊魔法も万能というわけではない。何より私は昔も今も出力が下手なままだ。だからもしここで山賊に狙われたら、最初に何の魔法を使うかも森に放り出された時点で決めた。そうしないと、すかさずの時に迎撃したくても身体が動かない。


『山賊を殲滅したら、次は弟達に会いに行こう』

「…………」

口角だけ上げて約束してくれたエリアス王子の笑顔が妙に頭に残って離れない。

私にだけじゃなかった、あの人は村の人達に対しても全員にあの表情だった。正直今は、あの人が他の王子達に慕われる理由がわからない。

ゲームで攻略していればきっと理解できたと思う。けれど、もう前世の記憶しかない私にはどうしようもない。ただわかるのは、他の王子達も城の人も誰もが認める立派で完璧な人だったということだけだ。

確かに村人にはすごい慕われようだったけれど、…………同時に私が剣を突き付けられた時に村人も怯えていたのも事実だ。まぁこうして弟達の為に協力を決めてくれたし、村の安全を確保できないと離れられないと言っているあたり、良い人の一面も




ズドン、と。




「……しまった」

突然の心臓をひっくり返すような衝撃音と、エリアス王子の声。

…………突然、思考を両断するような地鳴りと共に、エリアス王子が視界の端に降ってきた。一瞬隕石かと思う揺れと、なにより一瞬だった。

本当において行かず近くにいてくれたことを意外に思いつつ、屈んだ体勢のまま固まっているエリアス王子に私も急ぎ駆け寄る。姿を現したということは山賊を見つけたのだろう。

これでようやくこの怖い囮作戦も終わると、胸を撫で下ろす。相手から反撃される様子もなく、本当に一瞬で捕まえたらしい。

茂みをかき分け、木の根っこに転びかけながら「エリアス王子殿下!」と呼びかける。首だけで振り返ってくれたエリアス王子だけど、作戦成功のわりに反応が薄い。暗闇の中でエリアス王子の顔も見えにくい中、月明かりに二色の両目だけが反射して見えた。


「捕らえましたか?!」

「ああ、だが……また間違った」

人間違いと、そう思ったのも一瞬だった。

エリアス王子の表情もしっかり見えるほど近付いた瞬間、見えてしまった。エリアス王子が着地した足下、そして手にはしっかりと山賊の頭が地面にわし掴み押さえ込まれている。…………グッシャリと、頭が割れ血を噴き出した顔二つが。

むしろエリアス王子が踏みつけにしたのだろう身体の方がまともに形が残っている。さっきのズドンも墜落音ではなく、山賊の頭を地面に叩き付けた時の音だろう。二人分の山賊の顔面ごとエリアス王子の手から腕、衣服にまで夥しい量の返り血が飛び散っていた。間違いなく即死だろう。

死体を見るのは初めてじゃないとはいえ、あまりに何の覚悟もなく不意を突かれたせいで思わず後ずさった。大きく背中を反らし、拒絶感に表情筋全てが強ばる。

深夜に、月明かりしかもなかなか嫌な形状の死体を見てしまった。首まであり得ない方向に曲がっていると遅れてまた気付いてしまう。


「どうにも殺さないのが難しくてな……。他に気配もないし、またやり直しだ。すまない」

「エリアス王子……。もしかして、今まで山賊の拠点を見つけられなかった原因ってコレですか」

落ち込むように首を垂らして山賊の頬を指で突くエリアス王子に、私は強ばった顔のまま変に口が笑う。今世で死体が見慣れていて今だけは良かったと思う。そうじゃなかったらまともな会話も無理だった。


問いかけに、コクンと俯いたまま頷くエリアス王子に私も溜息が出た。

おかしいと思った。今まで山賊を返り討ちにもしたのなら、拠点を聞き出す機会はあった筈だ。……その山賊が死んでいなければ。

つまり、今まで見つけた山賊全員をこの要領で即殺していた。だから山賊側からの加害は減っても、一度も拠点を聞き出すことも敵わなかった。

私もお師匠様に出力バカと言われたけれど、エリアス王子もなかなか大概らしい。


『兄上は屈強な兵士を相手に武器も持たず片腕で征されたらしい』

……ふとに、第五王子のアーク王子の言葉が蘇る。そういえばそんなことを言っていた。自分はまだまだだという意味で話していたけれど、当時も私は掛ける言葉を間違えた。でも今もし同じ話をされたとしても、…………こんな人間ゴリラみたいな人は目指すだけ無駄としか。

ゲーム設定と言えばどうしようもないけれど、どう考えても他の優秀な王子達と比べても規格外過ぎる。王子としてというより人として。こんな人類、お師匠様以外で初めて見た。


確かにアーク王子の語っていた武勇伝通りのことができるのなら、木の上から山賊の頭蓋グシャンもできて当然だ。だけど、身体付きがいくらがっしりしていてもあくまで王子様のイメージの枠を越えない身体付きのこの人のどこにこんなゴリラが潜んでいるのかわからない。


「急げば急ぐほどつい……」と子どもの言い訳のように溢すエリアス王子の手元をよく見れば、山賊のうちの一人の手には吹き矢が握られていた。恐らく狙われていたのは私だろう。

一応私のことも宣言通り守ろうとはしてくれたらしいエリアス王子は、多分今までも同じような流れで生け捕りよりも被害の防止に努めたということだ。…………やっていることはエグいのに、責めにくい。


「……エリアス王子。少し下がってください。魔法でどうにかしてみます」

「?お前、魔法使いか……?!」

仕方ない。私は全く山賊の気配にも気付かなかったし、約束通り守ってくれたのは事実だ。ここはエリアス王子を責めるよりも、私もちゃんと約束を守って協力しよう。

エリアス王子の隣に並び、死体の前に立つ。きょとんと意外そうに眉を上げるエリアス王子は、私が杖を構えたところで一歩下がった。「死者蘇生?」と冗談のように尋ねられたけれど、そんなことお師匠様でもないのにできるわけがない。

殺してしまったものはどうしようもない。だけど、魔法で辿ることはできる。

足跡魔法(ヤランイェルキ)〟。杖を振るえば、死体の靴を起点に森の奥へと地面が帯のように光り出した。辿れる距離と時間は限られるけれど、これで彼らの歩いて来た道を辿れる。


「辿りましょう。この先にきっと拠点もあります」

「素晴らしい……!」

杖の先で帯を指し示せば、驚くほど純粋な感想が返された。

見れば、エリアス王子の目が丸く開かれきらきらと輝いてみえた。左目の金眼と右の蒼眼がそれぞれ星のように光を放って見える。殺気を向けてきた時とは別物の、子どものような目だ。…………こういうところ、やっぱり兄弟だと思う。

王子達に初めて魔法を見せた時を思い出す。当時は私も出力を間違えるのも被害を出すのも怖くて最小限の魔法しか使えなかったけれど、それでも褒めてくれた。魔法使いの存在自体が減少傾向にある今、王族以外の魔法を見ることは珍しかったらしい。

ようやくエリアス王子の可愛げのある姿を見れたことに安堵しつつ「行きましょう」と足を動か……そうとした瞬間。ガバリと、背中からまた人攫いのように手慣れた動きで抱き上げられた。


「ッなにをするんですか!!」

「素晴らしい!魔法使いとは思いもしなかった!褒めて使わす!!」

ハハッ!と急に笑い声まで上げるエリアス王子に思わず肩が上下する。お姫様抱っこというよりも胴上げに感覚が近い。もしくは子どもへの高い高いだ。

暗闇と月の逆行で見えにくい笑顔より先に、村で向けられた怖い顔が頭に過る。落ち着いて目を凝らせば逆行でも近い顔から表情が見えた。色違いの目をキラキラさせて笑う純然たる笑顔だ。

私を抱えたまま踊るようにスキップ混じりの足取りでそのまま歩き出す。人一人抱えているとは思えないほど軽やかな足取りで、魔法の帯を飛ぶように辿っていく。暗闇と浮遊感、輝く足跡魔法の帯で本当に一瞬星空を駆けているかのように錯覚した。


「降ろしてください!」

「遠慮するな!ここまで囮で歩かせた労いだ!何よりこの方が遙かに速いっ!!」

ぐう、と。最後のそれを言われれば言い返せない。

森の中を物怖じせずに駆け抜けていくエリアス王子は、暗闇の中でもわかるほど速い。無意味に抱っこされるのは困るけど、理由があるならばとここは従った。ちょっと人間を疑う速度に振り落とされるのが怖くなり、エリアス王子の首に命欲しさにしがみつく。

「綺麗だ!」「星の道標!」とこれから山賊の拠点を探すとは思えないほど高らかな声を上げられ、どうかこのまま山賊達に気付かれませんようにと祈る。

多分この人、私が言っても聞かないと早々に理解した。


「魔法使い!あとでもっと見せてくれ!」

「ッスロースとお呼びください!」

「私も「エリアス」で良いぞ!!敬語も要らない!村の子どもからもそれで慣れている!」

大興奮で走り抜けるエリアス王子に、私もとうとう怒鳴り声が出た。

魔法使いは珍しいから敵に警戒されるし、人身売買にも狙われる。この先山賊の拠点に向かうのに、すかさずの魔法が出るかどうかもわからない私の正体を大声で呼ばれたら困る。

しかもまさか私が敬意を示すべき王子相手に軽々しく呼ぶなんてあり得ない!一年前の王子達にも結局呼び捨てなんてできずに敬語のまま終わったのに。

うっかり耳のすぐ傍で叫んでしまった私に「スロース!」と怒るどころかダメージも受けず素直に名前を呼び返してくれたエリアス王子は、そこからは一度も止まらなかった。


森を抜け、崖の上を駆け上がり、……侵入者用の罠を軽やかに避け、見事本拠地に辿り着いた。


本日19時更新予定です。よろしくお願いします。

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