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バッドエンドから一年後~誰にも期待されない魔法使いの私が、伝説の精霊魔法使いに実力を認められ王子を救う~  作者: 天壱


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16 魔法使いの把握


「スロースの魔法はすごいぞ。私の居場所も、セシルお前の居場所もすぐ見つけてくれた」

「!いや精霊魔法は関係ないから……」


「それよりも兄上、貴方はこの八年間どこにおられたのですか?」

うっかり決めつけたまま精霊魔法の功績にしてくれてしまうエリアスに、私が待ったをかければセシル王子の方の関心はそれどころでもなかった。テーブルに前のめりになったまま青い目を大きく開くセシル王子に、エリアスも眉を上げて見返した。

確かに、疑問に思って当然だ。今まで城が総力をかけて捜索を続けていたエリアスの行方なのだから。

ハリー公爵もこれには気になるように目を向ける中、エリアスは特に隠す素振りはなかった。山奥の村で用心棒をしつつ、生活をしていた。庶民の暮らしも山暮らしもなかなか興味深かったと話すエリアスは、まるで夏休みのキャンプくらいの気軽さだった。

実際は八年もの年数に、山賊から村を守っていた守護神なのだからそう簡単なものでもなかった筈だけれど。……いや、彼にとってはきっと手軽なものだったんだろう間違いない。私を山賊捜索に巻き込んだ時もイノシシ狩りに行くぐらいの気軽さだった。


「何故、そのような場所に……?兄上ならばわざわざ城を去ろうとも人の上に立つ道はいくらでもあったではありませんか。ッいえ、そもそも兄上こそが国王に」

「いや、王位を継ぐつもりはない。私の目的はあくまでお前達の回収だ。その為にスロースの話に乗っただけであり、城に戻るとしてもそれが父上の条件だから以外に他はない」

きっぱりと、笑顔のまま右手の平を翳し告げるエリアスは、迷う素振りもなかった。

もう自分の中では八年前から決まったことのなのだろう言葉に、セシル王子も唇を一度結んでしまう。苦しげに眉を狭めるセシル王子にとって、きっと今もエリアスの帰還は望むところなのだろう。……私が、セシル王子ルートに入っていない所為とも言える。

ハリー公爵も「諦めろ」と悟らせるように声を掛ければ、セシル王子は眉を垂らしたままテーブルへと俯いた。ちょうどその時、ノックが鳴らされ給仕が部屋に入ってきた。ハリー公爵の許可のもと、紅茶と軽食のワゴンを押して、私達のテーブルへとセッティングする。

カチャカチャと最低限の食器の音が鳴らされる間、またセシル王子は沈黙してしまった。私も何を言えば良いか悩む中、温かな紅茶がカップへと注がれ置かれる。軽食のサンドイッチと焼き菓子がテーブルの中央に陣取り、侍女達が再び部屋の外へと去ってからセシル王子は「兄上」と最初は小声で呟き口を開いた。


「兄上は、……あのことを気にされておられるのでしょう。ですが、父上も私も兄上が国王となるに相応しいという考えは今も変わりません」

〝あのこと〟とセシル王子が含む内容を、確認せずともこの場の誰もが理解する。

城をよく出入りしたハリー公爵もご存知だし、私もスピカでいる間もセシル王子達から聞いた。そしてゲームでも何度も語られていたエリアスの事情だ。だからエリアスは消えた、消息を絶ったのだと。それでも彼を惜しむ声は絶えないほど支持されていた。それが王子達の憧れとコンプレックスの要因にもなった。……けど、こうして直接エリアスと話して、これまでで一つわかったことがある。ゲームのエリアスルートは知らない。ただ、彼が城を去ったその真意はあのことではなく──


「?いや。情緒が欠落した私は王になるべきではない。そう判断したから人の上に立つ立場から退いただけだ」


ケロッと、まるでなんでもないことのような表情で腕を組み言うエリアスに、セシル王子の瞼がなくなった。

絶句という言葉が相応しい。口がにわかに開いたまま固まるセシル王子と口を結んだままエリアスを凝視するハリー公爵の表情が見るに忍びなく、私は数秒目を閉じた。まさかこんな厳かでもない場所で、長年言及されていたエリアス王子失踪の真相が明かされるなんて誰も想像しなかっただろう。

しかも、国の一部中核にいる上級貴族や上層部しか知らない〝真相〟とは全く違う理由だ。

さっきのエリアスの話で、そんな気はしていた。ゲーム主人公補正の理解力なんてものじゃない。王子としては自他共に認める完璧だった筈のエリアス本人が欠点として認めていた時点で、それが王座を捨てた理由として繋がるのは当然だ。


誰の声も聞こえない中、呼吸を一度落ち着けて目を開ければちょうどエリアスが紅茶を味わうところだった。まったく食器の音を立てなかったエリアスは、二人の反応に少し困っているのかまた口角を上げただけの笑みだった。


「あの件はきっかけに過ぎない。私は人の気持ちを慮ることができない。人の心がない。……もとい、未熟らしい」

だからお前達の誰かに任せようと思った、と。紅茶のカップを無音で置いたエリアスは、そこでちらりと私に目だけを動かせ合わせた。「未熟」とさっきの話を素直に受け入れてくれたエリアスは、面倒な性格のわりに素直な方ではある。

私からも顔ごと向けてしっかりと両目を合わせれば、何故か目を合わせてきたエリアスの方が眉を揺らし先に逸らした。おもむろにテーブルの焼き菓子の皿を取ると「食べるか?」と差し出してくる。

何故そこで菓子をと思いつつ、大人しく一枚頂いた。まさか今目を合わせたのをお腹が空いたと思われたのだろうか。誰も手に取らなかった菓子を最初に私が取って良いのかと思ったけれど、茫然とエリアスを見つめて固まっているセシル王子も、頭が痛そうに押さえたハリー公爵もそれどころじゃないらしい。

エリアスが二口目を飲んだところでセシル王子がようやく動いた、と思えばハリー公爵のように頭を抱える体勢になっただけだった。


「……確かに兄上は、世間離れしたところはあると思いました。が、昔から私達兄弟にはお優しかったです。それをそんな……」

「あの、セシル王子。エリアスの親切心は恐らくご兄弟にしか向いていなかったと思われます」

まだ受け入れられないように苦しげな声を滲ませるセシル王子が言葉が続かなくなったところで、酷とは思いつつ私は挙手をする。

ゲームでもセシル王子は一番エリアスとの思い出があった王子だ。エリアスについて賛辞しか言わなかったセシル王子は、思い出のフィルターがかかっていてもおかしくない。

なるべく冷静に聞こえるように声色に注意して伝えれば、セシル王子の口の動きが止まった。ピクッと肩を揺らした直後、ゆっくりとその首ごと顔が私へと向けられる。まるで初めて水を体験した犬のような表情だった。

なんだそれは、とでも言いたげなセシル王子の隣でハリー公爵は寧ろ納得したようにゆっくりと深く頷いていた。それも視界に入っていないように、セシル王子の青の両目が私を映す。


「いや、しかし兄上は視察でも老若男女誰にでも好かれ、かの気難しいと言われたルーポ王国の国王にもひと目で気に入られ……」

「ああ、当然王子の公務として〝社交〟には務めたぞ。視察も社交界もただ振る舞うだけでなく〝接待〟することも大事な公務だからな」

エリアス、そういうところ。

弱々しい声でそれでも弁護しようとするセシル王子がまさかの言い終わる前に、エリアスがあっけらかんとした笑みでとどめを刺した。セシル王子に極太ナイフが刺さった音が聞こえた気がした。

つまりはエリアスにとってはあくまで社交としての仕事であって、別段人と親交を深めたわけではない。エリアスの社交無双伝説も、友達百人とは全く別のものだ。相手に気に入られて親交を深めても、それがエリアスにとっての友好的な相手になったとは限らない。

表情筋がとうとう働かなくなったセシル王子は、いっそ絶望にも近い。まさかここで再び精霊堕ちにならないかと私はこっそり杖を握り構える。


「で、ですが、人の上に立つ以上、非情な判断が必要になることもあります。人の情緒を汲み取ることを兄上が多少苦手であったとしても、それで王位を放棄するのはあまりにっ……」

「人の気持ちを理解できない思いやれない人間が人の命を預かって良いと、本気でそう思うか?」

う゛っ……と、セシル王子がとうとう言葉を詰まらせた。

エリアスからの口調はあくまで雑談のように棘がない。それでも言葉の中身はあまりにセシル王子の心を抉る。

相手がエリアスとはいえ、本来兄弟の中で一番弁が立つ筈のセシル王子がまるで子どものようにそこで歯噛みした。エリアス本人からの言葉というのも大きいだろうけれど、その問いに嘘でも肯定をするわけがない。セシル王子はむしろ人を見捨てないことを美徳にする慈悲深い王子だ。

ただ、それでもやっぱり今まで羨望していたエリアスを否定することもできないからこそ沈黙しか返せない。


「私も別に、簡単に諦めたわけではない。国に何の影響も与えないだろう田舎の村で普通に暮らしてみた。極小規模な集落の為に尽くしてみれば少しくらい人に情でも湧くかと思ったのだが、八年粘っても結局駄目だった。生活を約束してもらう代わりに、村を守るのが役目になったという使命感だけだったな」

「そんな理由であの村にいたの貴方……」

思わず溜息交じりに相づちをしてしまう。

エリアスも肩を落として話すものの、それ以上の悲しさは感じられない。無駄骨だったと言わんばかりの達観ぶりだ。

しかも今の言い方だと綺麗な理由ではなくて、本当に小さくて情報に薄弱な山奥の集落が都合が良かったというだけだ。村としてはエリアスみたいな最強人類が用心棒をしてくれたのだから、これ幸いだったのだろうけど。

どうりであれだけ村の平和の為に山賊掃滅には務めたわりに、村を離れることには全く名残惜しそうじゃなかったわけだと納得してしまう。村の人達には凄まじく惜しまれていたのも、あれがエリアスの社交とカリスマ性だけで成した技ということだろうか。


「八年もいて……」とセシル王子は開いた口が塞がらない。きっと慈悲深いセシル王子なら惜しみ、涙の別れぐらいしただろう年月だ。他の王子達でも、……いや、普通に一般的に八年間もともに過ごして多かれ少なかれ情が湧くことの方が自然だ。

既にエリアスが人を見捨てる姿を目にした私と違い、理想的王子像を抱いていたセシル王子には衝撃が強すぎるのだろう。


「それどころか公務じゃない方が人付き合いも面倒だったな。なんというべきか、ずっと人間がいるから笑んでいなければならず、流石の私も表情筋が疲れた」

村のみんなに慕われいつでも人が集まった。を、ここまで迷惑そうな言い方にできるのはある意味また才能と呼べるだろう。はははっと笑い事まじりに話すエリアスを横目にそう思う。

ふと、出会った時のエリアスを思い出す。森の中で山賊を警戒して巡回をしていた彼だけど、もしかして村の人と一緒にいるのも面倒になってたのだろうか。村の為に献身的どころか、むしろ村との交流を避けていたのでは。

山奥の集落だしエリアスのお陰で平和が保たれていたのだから、住民がエリアスのまわりに集まるのは当然だ。自分から村に好かれる行動をしておいて、好かれるのが疲れて森に逃亡なんて本末転倒とも言える。


「笑顔笑顔笑顔で、八年間そうやってきたお陰で社交の笑顔の加減もわからなくなってきた。だが、スロースやセシルに会えたお陰で今は大分調子も戻ったな」

「なるほど社交のとはこの私に向けるその顔のことですか」

「話せて嬉しいとも思わない相手に笑いたいとはお前も思わないだろう?ハリー公爵」

途中からちょっと楽しげにエリアスが話し始めたのも束の間に、ハリー公爵の含めた声ににっこりと口角だけをあげただけのいつもの笑みをそのまま真正面から向ける。

その笑顔に、ハリー公爵からは見事に複雑な怪訝な表情が返された。セシル王子の騒動のせいで、大分この二人は当初より仲が悪くなった気がする。もともとは接点も殆どなかった二人なのに。

相手が相手ならお互いが「喧嘩売ってるのか」とでも言いたげな空気がビシバシ伝わってくる。


口角を上げただけの作り笑顔の正体がここにきてようやく解明された。

つまりはエリアスなりの愛想笑いだ。…………というか「話せて嬉しいと思わない相手」に初対面だった私はともかく別れを惜しんでくれていた村の人達も全員当てはまっていたことに、今更ながらぞっとする。

両腕を交互に擦りながら、本当にこの人は村にいても全く感情が動かなかったのだと思い知る。


「八年間もかけてあんなに良くしてくれた村にも情を持てなかった私が、国などという規模の違うものを統率すれば必ずどこかで綻びが生じる。下々の人間を思いやれない人間が国を動かせば、必ず凄惨な事象を招くと世界の歴史が証明している」

だから、今も玉座を目指す気はないと。口角をあげた笑みで言い纏めるエリアスは、相変わらず見切りが早い。相手にも、そして自分に対しても見切りをつけることに躊躇しない。

ある意味、そういうところも国王としては向いているのだろうけれど、この言い分を本人から言われてそれでもと弁護することは難しい。

脱力するように背もたれにもたれかかるハリー公爵も、そして茫然と言葉を無くしてしまうセシル王子ももうエリアスを直視できなくなった。今まで大事に大事に守られていたエリアス理想像が音を立てて崩れていくのが見えるかのようだった。

そんな彼らを前に、エリアスは。


「だからもうお前達にも会うことはないと思っていたのだが……、セシル。経緯はさておき、こうして会えたことは心から嬉しく思うぞ」


そう、眩しい顔で()()()()()()()

きっと八年前まで見慣れていたその笑顔に、セシル王子の両目に光が差し血色を帯びた。



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