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やっぱり私はヒロインでした!  作者: 神月ひかる


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第九話

 その後入部届を出して正式に魔石研究部に入部した私は、放課後部室に顔を出すようになった。   


 といっても先輩たちのように本格的な研究をしているわけではなく、部室に置いてある本を読んだり魔石を顕微鏡で覗いてみたりして楽しんでいるだけだけれど。


 学園にも慣れてきた頃いつものように部室で本を読んでいると、デスクに向かっていたベラ先輩が突然立ち上がった。


「下町に行くわよ!着いてきて!」


「久しぶりだね」


「校外活動届けを出してきますね。すぐ戻ります」


 目をぱちくりさせる私をよそに、レト先輩とマロン先輩は動き出す。ベラ先輩は制服の上に着ていた白衣を脱いで椅子の背に掛けた。


「ああ、リラちゃんは初めてか」


 棚の引き出しから一枚の紙を取り出してマロン先輩はひらっと動かした。


「俺たち魔石研究部は、時々下町に遊びに行くんだ。魔法道具がどのように使われているかの視察……って言う建前で、研究が行き詰まったときにね」


 肩を回しているベラ先輩を横目で見て、先輩は声を潜める。


「ベラ先輩は最近根を詰めてたみたいだし、そろそろかなと思ってたんだ」


「なるほど」


 さすがはマロン先輩、研究部の外交担当。私は大きく頷いた。


 椅子から立ち上がって制服の皺を伸ばしていると、マロン先輩はすぐに許可を取って戻ってくる。


「さ、行こうか」


「うん!」「うん」「はい!」


 口々に答えて、私たちは部室を後にした。


 正門を出て、石畳の道をベラ先輩が迷いなく歩き出す。


「リラちゃんも楽しいと思うよ」


 マロン先輩に耳打ちされた。


 ベラ先輩の先導に続いて辿り着いたのは、平民向けの魔法道具店だった。


 小さな店構えで、カウンターにおばあさんが一人座っている。魔法道具を扱う店には珍しく個人店らしい。


 ガラスの覗き窓がついた扉を開けると軽やかなベルの音が鳴る。


「ああ、あんたたちかい」


 おばあさんは面倒くさそうに鼻に皺を寄せる。


 店自体は古いものの、掃除が行き届いて棚には用途で分けられた魔法道具が几帳面に並べて置いてあった。


 カウンターの近くには大小様々な魔石も置いてある。私は胸を躍らせて、次々に棚を確認した。


「面白い魔石、あります?」


 ベラ先輩が尋ねると、おばあさんはゴソゴソとカウンターの下から大きな魔石を取り出した。


 魔石にはたくさんの色が混じっていて、光の当たり方で虹のように光る。


 後ろから覗き込んでいた私たちは息を呑んだ。


「鉱山で見つかったんだ。色が混ざりすぎて何にも使えないんだけどね」


「これだけの色が混じっているのは珍しいですね」


 ベラ先輩がきらっと瞳に知的な光を浮かべる。


「やはり地質の影響が?魔石が固まる際の周囲の環境は、いや……」


 魔石を持ったままぶつぶつ考え込み始めたベラ先輩から視線を外して、おばあさんはレト先輩に声をかけた。


「それはそうと、そこの花瓶はまだ売ってくれないのかい。金持ちから打診が来てるんだけど」


「あ、も、もうちょっと待ってもらえると……」


 おばあさんが示した方を見ると、窓際にレト先輩の持続式花瓶の一輪挿しが置かれていた。


「研究部で開発した魔法道具は、ここで買ってもらっているんだ。このおばあさんはこう見えて、市場に顔が利くすごい人なんだよ」


「こう見えては余計だよ」


 おばあさんはすかさず言ってマロン先輩をちょっと睨む。


 個人店らしく、面白い形の一点ものの魔法道具がたくさん並んでいる。興味深く眺めていると、レト先輩が気づいて解説してくれた。


 おばあさんはレト先輩、というかシアン家とも個人的な関わりがあるらしく、この店で扱われている魔法道具のこともよく知っていると言うことだ。


 レジのあたりは陰になっていてわかりづらいが、おばあさんの瞳には青色が混じっていた。


 魔法道具店を出ると、今度は街をぶらぶらと見て歩く。共用のものであれば、平民の生活にも多くの魔法道具が溶け込んでいる。


 まだ魔石を片手に考え込んでいるベラ先輩に、マロン先輩が呼びかけた。


「先輩、屑魔石と言っても、街中で持って歩かない方がいいですよ」


 言われたベラ先輩は我に返って、慌てて魔石をポケットにしまった。


 ぽつっと肩に何か当たった気がして、私は空を見上げた。


「あら、雨かしら?」


 空を覆った雲から、パラパラと雨粒が落ちてくる。


「わっ!降ってきた!」


「雨宿りしないと」


 学園に引き返し掛けたところをベラ先輩に引き止められる。


 私は首を傾げつつ、学園と反対側に走っていく先輩たちを追った。


「ここ入ろ」


 マロン先輩が飛び込んだのは、裕福な平民が行くカフェだった。


 明るい魔石の照明で照らされた店は、明るい色味の木でできた椅子とテーブルに白いランチョンマットが載っていて、素朴ながらも上品な雰囲気である。


「あらみなさん、いらっしゃいませ〜!降られちゃったみたいね」


 店員さんがお茶目に微笑む。魔石研究部はここでも常連らしかった。


 温かいココアやショートケーキをそれぞれにわいわい注文する。


 生クリームとベリー味のパンケーキを注文してから、私はカウンターの中にあるかわいらしい振り子時計に既視感を覚えた。


 そういえばここ、「きせデレ」のデートスポットじゃなかったかしら?


「この時計が気になりました?ここの前のオーナーが旅先で気に入って、持って返ってきたものなんですよ〜」


 ああ、そうだ。テキストメッセージで読んだことがある。


 中世ヨーロッパ的な背景が多い中で今の日本にもありそうなおしゃれカフェの背景はあまり印象に残っていなかったが、ここのパンケーキのイラストがあまりに美味しそうだったのを覚えている。


 まさかこっちにも来られるなんて。私は頬を緩ませた。


「リラちゃんはここも初めて?」


 席に着いて、話を回すマロン先輩に振られた。


「はい」


 私は頷いた。下町で暮らしていた頃には、ここに来るような精神的な余裕がなかったし、伯爵家に来てからは私たちが下町に降りることはなかった。


 店員さんがそれぞれにケーキを持ってきてくれた。


 私の前に置かれたパンケーキの上には形の残ったベリーが入ったジャムがたっぷりかけられ、照明が当たってキラキラ光っている。


「おいしそう!」


 私は目を大きく開いた。


 窓の外にはひっきりなしに雨粒がぶつかる。規則的な雨音をBGMに、私たちは甘味を頬張った。


「幸せ〜!」


 パンケーキを食べ、ココアを一口飲んでは頬を押さえる。


 そんな私を、先輩方がすごく温かい目で見ていることに気がついた。


 突然気まずくなって動きを止めた私にベラ先輩がクスッと笑う。


「いいのよ。かわいいって見てただけだもの」


「でも……」


 手が止まった私に、隣の席のレト先輩が切り出した。


「リラさんもそろそろ、研究を始めようか」


「研究?」


「そっか。夏休暇が開けたらすぐに学園祭だものね〜」


 ベラ先輩が頷く。


「魔石研究部では、学園祭に研究発表をするんだ。だいたいの生徒はこの時から研究を始めるんだよ。ベラ先輩みたいな例外もいるけどね」


 確かにベラ先輩は入部一日目から始めたと聞いた。


「研究……上手くできるでしょうか?」


「大丈夫だよ。最初は魔法道具の組み立てとかから始めるから。俺たちもいるし」


「いつでも頼ってね〜!」


 ベラ先輩が言う。


「先輩は研究の途中で話しかけると機嫌が悪くなるでしょう」


「女の子は別なの!」


 向かい席で言い合いするベラ先輩とマロン先輩を見て、私はクスッと笑った。


「あの、僕も手伝うから」


 隣でレト先輩がそう言ってくれた。


「ありがとうございます」


 そう言って微笑むと、先輩もほっとしたように頷いた。

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