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やっぱり私はヒロインでした!  作者: 神月ひかる


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第六話

 お義母様とお義姉様は、お父様に振り回された被害者として私を仲間に入れてくれた。例えるなら戦友のように、関わりに少し気安さが混じるようになった。


 お父様は話をして吹っ切れたのか、母のいる離れに足を運ぶようになった。二人の間だけは相思相愛で、昔と同じ空気が漂っている。


 下町の家の面影がある離れで、二人は過去に住んでいるように見えた。


 伯爵様との再会は、母の治療にはとてもよく効くらしい。母は少し元気になった。


 ところで、私には目下の心配事がある。


 十五歳から十八歳まで、貴族の子女が通う学園。その入学試験が二ヶ月後に控えているのだ。


 入学試験といっても、小さい頃から教育を受けている貴族ならできて当たり前の形式的なものである。だからこそ、ここに落ちると著しく評判を落とすことになる。


「リラ、腰が浮いているわ。膝をもっと深く曲げて」


「はい。お義姉様」


 お義姉様とお義母様からの協力をいただいて、私は急ピッチで作法と教養を詰め込んでいた。


 そして入学試験当日、お義姉様と私は馬車に乗って学園にやって来た。


 どこか既視感のある洗練された石造りの建物を見て、私ははっと手を叩いた。


 そうだ。ここって「きせデレ」の世界だった!


 色々なことがあってすっかり忘れていたが、この世界に転生したと気がついた時、私は学園の実物を見られるかもしれないと胸を躍らせたのだ。


 本当に見られるなんて!


 口をあんぐり開けた私の手をお義姉様がつねる。


「リラ?リラ!しっかりしなさい!」


 我に返った私は、キリッとした表情で小声で返事をする。


「はいっ!」


 入学試験は家ごとに行われ、生徒同士がバッティングしないようになっているらしい。人のいない広々とした廊下を、私たちは歩いて行った。


 試験は恙無く終わった。面接と口頭試問、それに学科試験。全て家で聞いていたことなので、出来はともかく及第点は取れたはずだ。


 実を言うと、「きせデレ」のことを思い出した時点で少し安心していた。


 本編では私よりも遅く教育を始めたヒロインが学園に合格していたのだから、私だって大丈夫なはずだ。


 学科試験が終わりお義姉様を待っていると、廊下に置かれた一つの花瓶が目に入った。


 緑色の魔石が埋め込まれ、周りに複雑な紋様が刻んである。これは……魔法陣?


 魔法陣というのは、魔石の力を引き出すため周囲に刻む機構だ。最近授業で習ったとき、魔石もただのファンタジーではなく動力機構なのだと印象的だったのを覚えている。


 魔石も埋め込まれているし、この花瓶は家電と同じく魔法道具なのだろうか。それにしても、花瓶の花は他のものより瑞々しく、地面に咲いているかのように生命力に満ちていた。


「なんて綺麗……」


 そう呟いた私に、後ろから声が聞こえて来た。


「あ、あ、ありがとう」


 慌てて後ろを振り返って、私はひゃあっと声を上げてしまった。


 そこにはひょろりと背の高い猫背の男性が立っていた。強い癖毛の前髪は長く伸び、目をすっぽり覆ってしまっている。


「ご、ごめんよ」


 男性は一歩後ずさる。


 落ち着いて見ると、男性は学園の制服を着ていた。


「いえ。こちらこそ取り乱してしまって申し訳ありません」


 私はスッとスカートを持ち上げてお辞儀する。


 男性はその場で膝を曲げた礼をした。立ち上がって花瓶に目をやる。


「魔法道具、好きなのかと思って。僕の花瓶、見てくれてたから」


「まあ。この花瓶は貴方が?」


「うん。その、大したものじゃないけど」


「魔法道具を作るなんてすごいです。この花瓶はどういう道具なのですか?」


「緑の魔石は豊穣の魔石。魔石の力で花を長持ちさせるんだ。毎回力を引き出さないでも、魔法陣で効果を持続させる実験だよ」


「確かに、効果が持続するなら色々なことに応用できますものね!」


 大きく頷くと、彼の表情がパッと明るくなった。


「そうなんだよ!これを輝石で応用したら、持続的に土地の改善をすることもできるかもしれない。魔石の研究にはロマンが溢れているんだ」


「私も魔石は大好きです。光が溢れる瞬間は何度見ても見飽きませんわ」


 そう答えると、彼は嬉しそうに言った。


「その、君、新入生だよね?良かったら魔石研究部に入らない?あ、もちろん、強制じゃないんだけど……」


「そんな研究部がございますの?前向きに検討させていただきますわ!お誘いありがとう存じます」


 その時、廊下にコツコツとヒールの音が響いて来た。


「お義姉様!」


「じゃ、じゃあ待ってるから!」


 曲がり角から覗いた青いドレスの方に向かおうとすると、彼は早口でそう言って素早くどこかに行ってしまった。


「あ、ありがとう存じます。入学したら……」


 慌ててお辞儀をしていると、後ろからお義姉様に呼ばれた。


「リラ、どうかしたの?」


「今そこに男性の先輩がいらして」


「誰もいないわよ?」


「そうなのですけれど……」


 お義姉様に見つからないように慌てて戻っていったように見えたけれど、何か不都合があるのだろうか?もしかして、お義姉様のお知り合いなのかしら。


 入学試験は不思議な出会いで幕を閉じたのだった。

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