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やっぱり私はヒロインでした!  作者: 神月ひかる


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第四話

 新しい日常が突然変わったのは、ある雨の日のことだった。


 朝のうちから、空には鉛色の雲が重く垂れ込めていた。


「なんだか嫌な天気ね」


 私の目の色に合わせて作ったドレスを着た私は、窓の外を見て呟いた。


 昼頃からぽつぽつと雨音がし始め、屋敷が俄かに騒がしくなった。お義姉様の体調が思わしくないそうなのだ。


 雨に降られてお医者様が到着する。


 夜になるにつれて、お義姉様の容態はどんどん悪くなっていった。


 私は手をきつく握って、苦しそうに息をするお義姉様の様子を見ていた。


 前世の医療技術があれば楽にしてあげるはずなのに、なんの知識もない自分が恨めしい。


 お医者様は苦い表情で首を振った。このまま熱が下がらなければ、後遺症が残る可能性があるらしい。


 部屋が重苦しい空気に包まれる。


 私は思い切って手を挙げた。


「あ、あの!私が看病いたしますわ!」


「リラ、それは」


「お願いします。お義母様」


 橙色の瞳を真っ直ぐ見てお願いすると、お義母様は頷いた。私は動きやすいドレスに着替えてお義姉様の側に座った。


 手を挙げたのは私がヒロインだからだ。ヒロイン補正というものがある。ヒロインが関わることは良い結末に落ち着きがちという物語の都合上の補正である。


 ヒロインである私が深く関われば、お義姉様も元気になるかもしれないと思った。


 ただの気休めだけれど。


 私は侍女たちに指示をもらってお義姉様の看病を手伝った。私の元が平民と知っている侍女たちはさほど抵抗なく私を手として使ってくれた。


 変えていかなければいけない立場だけれど、こんな形で役に立つとは。


 看病は三日ほど続いた。四日目の朝、寝落ちしていた私が慌ててお義姉様の様子を見ると、深い紫と橙色よバイカラーの瞳がこちらを見ていた。


 何か言おうと口をはくっと動かして、お義姉様は咳き込む。


「お義姉様、お水を!」


 手渡したコップの水を飲み干すと、お義姉様はんんっと咳払いをして言った。


「色々、悪かったわね。貴女になら私、嫡子の座を奪われてもいいわ」


 初めて聞くお義姉様の声は凛としていた。


 お義姉様の声が出た!


 安心のあまりじわっと目に涙が滲んだ。


「お義姉様!目覚められて良かったです!」


 ぽろぽろ涙をこぼした私に、お義姉様は戸惑いつつ手を伸ばした。ふわふわ軽く頭を撫でられる。


 落ち着いた私の頭に少しずつお義姉様の言葉の意味が染み込んできた。


「え、嫡子?」


 飛び上がるように姿勢を正すと、お義姉様が目を丸くする。お義姉様の新しい表情がたくさん見られるな……じゃなくて。


「嫡子って、どういうことですか?」


「そのままの意味よ。貴女は伯爵家を継ぎたいのではないの?」


 私たちは二人して首を傾げた。


「ずっと私は一人娘で伯爵位を継ぐと思っていたわ。だから純粋な色の瞳を持つ貴女がうちに来ても認められなかったの。だけど貴女は優秀だったし、冷たくした私の看病も身を挺してしてくれるんだもの。貴女なら仕方ないわ」


「お義姉様、私、伯爵位を継ごうなんて考えたこともありません。貴族として生活してきた時間も短いですし、お義姉様が家を継がべきだと思います」


「まあ。そうだったの?それならどうして貴女はうちに?」


「母が、その」


 私が口籠ると、お義姉様は察して大きく頷いた。


「ああだものね。貴女は貴女のお母様が心配でうちに来たのね」


「伯爵家でなら、良い治療を受けられると思ったんです」


 貴族にとって、瞳の色は育ちを覆すほど大切なものらしい。公爵家なんかではバイカラーの直系より、純粋な色の分家の子が家を継ぐほど。


 だから私が来た時、伯爵家の嫡子は私になるのだ、とお義姉様は思ったのだと言った。


「そうでしたか」


 私が頷く。


 それでは、もしかして私がいることでお義姉様の後継に問題が起こったりするのだろうか。私の心を読んだかのようにお義姉様は言う。


「貴女の場合は育ちが特殊だから、貴女が望まない限りこの家を継ぐのは難しいと思うわ」


「そうですか。それはよかったです!」


 思わず満面の笑みを浮かべた私にお義姉様は困った顔でクスッと笑った。


「本当に後継に興味がないのね」


「えへへ。はい」


 くすぐったく笑ったとき、替えの水差しを持って侍女が部屋に入ってきた。身体を起こしたお義姉様を見て目を丸くする。


「カンパニュラ様!?リラ様、目を覚まされたら呼んでくださいとあれほど!」


「ああっ!すみません!」


 私は思わず椅子から飛び上がった。慌てて水差しを置いて部屋を出ていく侍女に、お義姉様が言った。


「あまりリラを叱らないであげてね。私が変な話をしてしまったの」


「左様でございますか。かしこまりました」


 不思議そうな顔をしながら、侍女は部屋を出ていった。


「お義姉様、ありがとうございます。すみません。お義姉様は病み上がりなのに……」


「問題ないわ。それより、お父様ともお話しなければいけないわね」


「え?」


 私は首を傾げる。


 侍女に呼ばれて部屋に入ってきたお義母様に、お義姉様は声を低くして何か囁いた。


 お義母様は頷く。


 お義姉様にどこにも後遺症が残っていないことを確認してから、お義姉様、お義母様そしてお父様と四人で話し合いをすることになった。

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