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やっぱり私はヒロインでした!  作者: 神月ひかる


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第十三話

「ただいまーっ!」


 控え室に戻った私たち。ベラ先輩はドアを開けるなり、そう言って部屋に飛び込んだ。


「制服、皺になりますよ」


 はあ〜っと大きく息を吐いて椅子に腰掛けたベラ先輩をマロン先輩がたしなめる。


「やけにしっかり着付けたんだもの。少しくらい崩れたほうがいつも通りになっていいわ」


「学園祭なんですから、そうもいかないでしょう」


「誰も見てないわよ」


「見てるんです」


 そんな言い合いをしながらも、ベラ先輩はゴソゴソと姿勢を正す。


「私だって人前で話すのは疲れるわ。ねえ、リラ?」


 いきなり話を振られた私は慌てて何度か頷いた。


「そうですね。確かに、運動したわけではないのになんだかすごく疲れました」


「それは俺もです」


「僕も」


 四人は同意し、控え室の椅子に身体を沈めた。


 しばらく経って疲労が少し回復すると、誰からともなく目を合わせた。


「あの、そろそろどこか見に行きませんか?」


「行ってみましょうか」


 私たちは立ち上がってゆっくり動き出す。生徒の保護者たちも来ており、いつもより人の多い廊下をきょろきょろ見渡しながら歩いた。


「色々な出し物があるんですね」


「それぞれのクラブの見せ場だもの。運動系のクラブは飲食店を出したりしているし。サロンの展示はすごいわよ。各派閥の威信をかけて絵画やお花を展示してるの」


 サロンというのは、社交界で力を持つ高位貴族の子息令嬢が学友たちと作るグループのことだ。尤もただのグループではなく、申請すれば学園内にお茶会などを主催する拠点がもらえる、社交の経験を積む場でもある。


 トラブルを避けるため私はサロンには所属していないが、お義姉様は公爵家主催のサロンに所属している。


 見ると、それぞれ内装を飾った教室の中に一際豪華な場所が散見される。あれが各サロンの出し物なのだろう。


 前世の文化祭とは違い、ここの学園祭はクラスでの出し物はなく、クラブやサロンの出し物が中心になるのだ。


「あら?随分空いてるじゃない」


 一つの教室を覗き込んでベラ先輩が言った。


 教室の壁沿いに水槽が並べられ、真ん中の机に顕微鏡が二つ並んで置かれている。どうやら生物研究部の教室らしい。


 私たちは自然に教室の中に入って行った。


「あ、ベラだ」


 受付に座っていた緑色の髪がもじゃもじゃした頭の男の子が顔をあげる。


「来てあげたわよ」


「相変わらず不遜な態度だなあ。楽しんでってくれよ」


 男の子はそう言って立ち上がり、私たちに近づいて来た。


「この子はパールって言うんだ。学園の近くの池で保護したんだよ」


 入り口近くの水槽を覗き込んでいた私にそう言う。言われてみれば、確かに甲羅に真珠のような輝きがあった。


 顕微鏡で見られるのは同じ池で採取した微生物。その池にはよく調査に行くのだそうだ。


 貴族が池の調査とは珍しい。ここも魔石研究部と同じく、それなりの変わり者たちの集まりなのだろう。


「この人は?」


 うんうんと頷いて話を聞くベラ先輩にマロン先輩が尋ねる。


「私のクラスメイトよ。いとこにあたる人だから長い付き合いなの」


 緑髪の先輩も頷いた。


「ベラと仲良くしてくれてありがとうね」


「いえいえ!ベラ先輩にはお世話になっております」


「貴方は私の保護者なの?」


 ベラ先輩はそう言って、人のいい笑顔を浮かべた緑髪の先輩を小突いた。


「わあっ!とっても綺麗なクラゲさんですね。まるで輝石みたい」


「本当だ。この触手の輝きが使用中の輝石そっくりだね」


 水槽の一つを覗いていると、レト先輩も同じ水槽を見てそう言った。


「知ってる?遠い砂漠では、動物から採取される魔石もあるんだよ」


「そうなんですか?レト先輩は生物にもお詳しいんですね」


「僕は一応、生物研究部にも入っていたから。今は魔石一筋だけどね」


 へえ、と私は目を丸くする。


 やはり研究者気質は他の分野にも発揮されるのだろうか。そう考えて見てみると、ベラ先輩のいとこ以外の先輩方も魔石研究部員と仲が良さそうにしている。変わった趣味の者同士通じ合うものがあるのかもしれない。


 一人の女の先輩がマロン先輩に近づいた。


「お土産に髪飾りはいかがですか?こちらのピンには夫婦仲が良いとされる白鳥の抜けた羽を使用しておりまして……殿方は胸飾りにしてペアにできますよ」


 説明を聞いて、マロン先輩は興味深げに頷く。


「一セットもらおうかな」


「ありがとうございます」


 髪飾りを受け取ったマロン先輩は一つを自分の胸ポケットに飾り、もう一つを夢中で顕微鏡を覗いているベラ先輩の髪にそっとつけた。


 二つに分けて結った髪の片方に白い羽がぴょこんと揺れる。


「ふぇっ!?」


 私は思わず大声を出してしまいそうになり、慌てて手で口を押さえた。


「マロン先輩ってベラ先輩のことを!?」


「し、し、知らなかった……」


 教室の真ん中で行われた一連を見て、衝撃に心臓をバクバク言わせながらレト先輩と囁き合った。


「あら、ランテどうしたの?」


「いえ、なにも?」


 振り返ってきょとんとするベラ先輩を周囲の生徒が温かい目で見ていた。


 お礼を言って生物研究部の教室を出る。


「次はどこに行こうか」


 ベラ先輩の赤毛に揺れる白い羽を満足げに眺めてマロン先輩が言う。


 せっかくなので飲食店にも、と足を向けた時、何やら華やかな集団が行手を遮った。

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