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やっぱり私はヒロインでした!  作者: 神月ひかる


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第十一話

「本日はお越しいただきありがとう存じます。これより、魔石研究部一学年、リラ・ヴァイオレットによる研究発表を始めます」


 侍女たちからパラパラと拍手が鳴る。


 母と伯爵様が侍女たちの中心で微笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「私の研究テーマは、『図書館資料の検索機の開発』です」


 研究部で借りた小型の映写機を使って、部屋の白い壁に資料を投影する。


 白地に大きな文字が並んだ資料を見た母が大きな目をぱちぱちさせた。


「今回主に課題としたのは、魔石を外に作った情報一覧と結びつけることで……」


 ぽかんと少し口を開いて、あまり理解していそうには見えない表情で頷く母と、内容には興味があるわけではないらしく、私の話す様子を温かい笑顔で見守る伯爵様。


 二人と二人を囲む侍女たちに向かって、私は台本通りゆっくりと発表を進めた。


 家族に発表の練習を聞いてもらうといいというのは、マロン先輩に教えてもらった。


 夏休暇が終盤になると、私は研究を一度ゆっくりに抑えて発表のため研究成果をまとめた。


 学園祭での発表はまだまだと言うのに緊張でガチガチになって台本を暗記する私に、マロン先輩も一年目にやったと教えてくれたのだった。


「魔石のことになるといくらでも口が回るレトだとか、妙に肝が座ってるベラ先輩みたいにはいかないからね〜」


 マロン先輩はぱたぱた右手を振ってそう言った。


 私から見ればとっても優秀なマロン先輩だが、変態的に魔石が好きな天才二人組とは一線を引いている節がある。まあ気持ちはわからなくもない。


 とにかく、そんなありがたいアドバイスに従って、私は家中の人間に発表を聞いてもらっているのだった。


「ご清聴ありがとうございました」


 最後にカーテシーをすると、母は少女のようにはしゃいだ声を上げて抱きついてきた。


「リラってとっても賢いのね!お母さんびっくりしちゃった!」


「お母さん、ありがとう」


 母の細い腕に抱きしめられて落ち着かない心地でいると、いつの間にかやって来た侍女頭のマーサが後ろで口を開いた。


「リラ様。王弟殿下がお越しです」


「……わかりました。すぐに向かいます」


 私はすんっと表情を消して、母の腕をそっと解いた。


「また来るからね」


 ドアの前で振り返って、口元に淡い笑みを浮かべた。


「またやってちょうだいね!」


 母は大輪の花束のような笑顔を浮かべてそう言った。その表情がどこか無機質に見えた私は微笑む口元を僅かに引き攣らせた。最近、母が本当に私のことをわかっているのか、わからなくなることがある。


 でも今日は、喜んでくれてよかったわね。そう、よかった。


 ふかふかの絨毯が敷き詰められた廊下を進みつつ、私は自分にそう言い聞かせた。


 殿下は既に温室に通されていた。


 ここには領地に見立てて環境を維持しなければならない植木鉢が置かれている。


 夏休暇の一ヶ月の間、植木鉢は水やりもしないまま温室の気温操作によって猛暑と極寒に晒される。その中で、いかに輝石をうまく扱い植木鉢に植えられた植物を維持するかで実習の出来が決まるのだ。


 私たちの植木鉢は、夏休暇終盤になってもふかふかの土に茂る緑を維持していた。


「一学年からここまで上手くいくペアは少ないらしいぞ!リラ嬢はさすがだな!瞳の色の通りだ!」


 殿下は白い歯をきらっと光らせ、爽やかに笑った。


 そう。悪い方ではないのよね。


 私は愛想笑いして会釈する。現王に既に息子が生まれている以上王位を継ぐことはないからと、王弟殿下は私たちにも気さくに接してくれる。だからこそ他の令嬢たちかはも人気な訳で。


 でも時々、会話が上滑りするように感じるのは何故だろう。


 そう感じる度、胸の奥が騒めくような得体の知れない不安が溜まっていくのだ。


(では輝石さんお願いします)


 心の中でそう呼びかけつつ、二人で輝石に手を翳して起動させる。


 色々と気にかかることは多いが、輝石を扱うこの瞬間は心躍る時間だ。魔石から放たれる光より多くの色が混じり合った細かい光が、妖精の粉のようにふわっと舞い散る。


「何度見ても綺麗だわ」


「リラ嬢の方が美しい!指輪を受け取ってもらえないだろうか?献上されたイエローダイアモンドがあるんだ。リラ嬢にも気に入ってもらえると思う!」


 私がしていたのは輝石の話なのよ。そして、すぐに話をすりかえる。この導入からいつまででも輝石や魔石の話を続けられる研究部の面子とは比べるべくもないけれど、私の話を聞いていなさすぎやしないかしら。


 こんな風に殿下とはなんとなく、どことなく気が合わないのである。良い方なんだけれどね。側妃になることを渋っているのは、この違和感が気になっているからなのだ。


 断る間もなくいきなり候補にされたことが腹立たしい、というのも確かにある。


「婚約者でもないのにそのようなものを頂くわけには参りませんわ」


 そしてイエローダイヤモンドですって?王家の瞳の色だから、王族の求婚に使われる宝石じゃない。そんなものを受け取ったら大変なことになる。私は笑顔でやんわりと拒絶した。


「リラ嬢ならばいいのだ!」


「いえ。受け取れません」


 不敬にならないぎりぎりのまで語調を強めると、殿下はシュンと肩を落とした。


 叱られた大型犬のような様子に心は痛むがここは耐える。


「それでは、また来る!」


 この一週間伯爵家に置いていたので、次の植木鉢の所持担当は殿下だ。


 殿下はすぐにニコニコ笑顔に戻ると、植木鉢を抱えて王城に戻っていった。

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