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やっぱり私はヒロインでした!  作者: 神月ひかる


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第一話

初投稿です!よろしくお願いします。

 磨いたばかりの鏡を覗き込んで、私はパンっと両手で頬を叩いた。


「きっと上手くいくわ。私はヒロインなんだもの」


 鏡に映っているのは薄暗い乱雑な部屋である。ゴミや壊れた何かの破片が散らばり、もとは良いのであろう家具も手入れが行き届かずしおれている。


 部屋の中で異彩を放つ、宝石のように美しい少女が頷いた。アメシスト色に透き通った瞳に緩くうねった白銀の髪。顔立ちは母譲りで美しく、あどけなさが残っている。


 まだ見慣れないが、今世の私の姿なのだ。


 なんと私は乙女ゲームの世界に転生してしまったらしい。


 この鏡は母が一番大切にしているもので、私が見る時にはずっと布が掛けられていた。だが昨夜の癇癪で、等々この鏡の布が剥がれた。


 それでこの鏡を覗き込んで、私は前世を思い出したのだ。


 そう。私のかわいさに衝撃を受けて。


 私がプレイしていた「輝石のシンデレラ」。普段乙女ゲームなんてあまりしない私だが、このゲームは美しいイラストに惹かれてやっていた。


 ヒーローからモブ、背景までとにかく綺麗でワクワクするような作画なのである。


「さっすが監督。ヒロインも綺麗だわ〜」


 誰にもわからないセリフを呟くと、よしっと私は背筋を正した。


 「輝石のシンデレラ」、通称「きせデレ」のストーリーは、伯爵家の庶子であるヒロインが15歳になり、学園に通い始めるところから始まる。


 長い間下町で暮らしていたヒロインの天真爛漫さに惹かれた令息たちとキラキラしい恋をするという王道のストーリーである。


 作中でヒロインの容姿は描かれていなかったが、私の状況とヒロインの過去はそっくり一緒。


 しかしこのままストーリーを進むと、私にとって少々不都合なことがある。


 作中のヒロインのセリフから、下町で住んでいた母親を失くして少し経った頃に伯爵家から迎えが来たことが明かされているのだ。


 つまりこのまま行けば、近いうちに母は死んでしまう。


 健康とは言い難い母が死ぬことについて違和感はない。何もしなければそのうちやって来た未来なのだろう。


 だけどわかっていて放置はしたくない。私「リラ・ヴァイオレット」には、優しかった母とおままごとをした幼い頃の大切な思い出があるのだ。


 転生者とはいえ前世はただの高校生。専門的な知識があるわけでもない。


 不安しかないが、たぶんきっと大丈夫。私はヒロインなのだから。よしっと気合いを入れて、私は玄関扉を開けた。





 一歩踏み出した先には、大きな邸宅が並ぶ住宅街が春の日差しに照らされていた。ここは下町の中でも貴族が住んでいるエリアに近い、裕福な商人たちの住むエリアだ。


 母と私は、伯爵からこのエリアの隅に家を与えられている。一夜限りの関係として捨て置かれていないあたり、気に掛けられている方だと踏んだがどうだろう。


「ここって本当に『きせデレ』の世界なのね」


 ロココ調の優美な建築物を眺めながらトコトコ歩き、私は呟いた。


 さすがイラストで売っていた「きせデレ」。ゲームに出てこなかった建物も描き込みがとんでもない。


 いや、現実だから描き込みではないが。


 ザ・ファンタジー世界な風景は好きだ。不安でいっぱいだった心が少し浮上する。


 王子とヒロインがお忍びデートしていた下町にも行ってみたい。


 ストーリー通り学園に入学したら、美しい講堂や図書館の実物も見られるのだろうか。今からやることで、学園への入学は出来なくなるかもしれないけれど。


 つらつらと考えていると、一際大きなお屋敷が並ぶエリアに入った。明らかに平民の私が入っていくのを、通行人が不審そうな目で見ている。


 ……大丈夫。一番良い服を着て来たし、私は美人だ。私はヒロイン。


 そう自分に言い聞かせて歩いていく。


 突き当たりには大きな門が見える。


 あの向こうには王宮があり、周りを侯爵以上の家の屋敷が固めているらしい。


 あの門の中には許可なしで入れないから、私の父親が伯爵でよかった。


 スミレを模した家紋がデカデカと掲げられた大きな門の前で私は立ち止まる。


 すうっと息を吸うと、お腹に力を入れて叫んだ。


「ごめんくださーーーーーい!!!」


「なんだなんだ!?」


 門の横に作られた小さな扉、通用口だろうか?から守衛さんたちが駆け出てくる。


 いかめしい守衛さんたちに、私はバッと頭を下げた。


「ここで働かせてください!」


 バッと顔をあげて、家から持ってきたペンダントを掲げる。ペンダントには門と同じ、ヴァイオレット家の家紋が刻まれていた。


 最後に会ったとき伯爵からもらったという母の宝物を、寝込んでいる母のクローゼットから拝借した。作りも良いし、偽物ではない。


 普通なら門前払いを受けるところだが、このペンダントを持っている娘を邪険に扱うことはできず、守衛さんたちは戸惑った。


「いや通せるわけねえだろ!」


「あのペンダントは本物だしな……」


「上官を呼んでこい!」


「伯爵様に会わせてください!お願いします!」


 私はひたすらに繰り返した。気分は某アニメ映画の主人公だ。


 この家で下女として働けば私が下町で就ける仕事の何倍もお給料が出る。節約して切り詰めれば精神が不安定な母を専門の医者に見せることもできるはずだ。


 膠着した現場に、カツカツとハイヒールの音が響いた。


「これは何の騒ぎです?」


 グレイヘアをお団子にきっちりお団子にまとめた女性が姿を現す。


「侍女長……」


 守衛の一人が呟いた。


 女性は私を頭から足の先までしげしげと眺めた後、目を合わせてきっと視線を鋭くした。ピシッと背を伸ばして目を見返すと、ふっと目を逸らして頷いた。


「奥様がお呼びです。着いていらっしゃい」


「は、はいっ!」


 私は頷くと、踵を返した女性の背中を慌てて追いかけた。

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