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第20話 初めての実演

その日の工房は、朝から落ち着かなかった。

ヴェロッキオ師が中央の机に布をかけ、弟子たちを集めたからだ。

ざわつく声が広がり、皆が布の下を気にしている。


師はゆっくりと布を取り払った。

現れたのは木彫りの天使の像。翼はまだ荒いが、衣のひだには流れるような力が宿っている。


「今日は描いてもらう。課題ではない、実演だ。皆の前で、自分の目で掴んだものを示せ」

その言葉に、工房の空気が一段と重くなった。


最初に進み出たのはアントニオだった。

力強い線を次々と走らせ、輪郭を勢いよく浮かび上がらせる。

弟子たちが「おお」と声を漏らすが、師は一瞥しただけで言った。

「形はある。だが硬い。息をしていない」


次にピエトロが前に出た。

細やかな線を重ね、羽根や衣の皺を丁寧に追った。

確かに巧みだったが、師は首を振った。

「表面を追いすぎだ。光が抜け落ちている」


弟子たちがざわめく中、師の視線が僕に向いた。

「レオナルド。お前はどうだ」


心臓が跳ねる。

背後からロレンツォが囁いた。

「田舎者の腕前、見ものだな」


木炭を握り、紙に向かう。

(自然を師とせよ。光と影の調和を掴め)

師の講義が胸の奥で響いていた。


像の頬に落ちる陰を追い、輪郭はあえて曖昧にする。

羽根には強い線を置かず、光が当たる部分だけを浮かび上がらせた。

呼吸のように、影と光が紙の上で揺らめいた。


描き終えると、工房が沈黙した。

師は紙を手に取り、しばし目を凝らす。

やがて静かに言った。

「粗い。未熟だ。だが……ここには呼吸がある」


胸が熱くなる。

マルコが隣で小さく笑い、「やったな」と囁いた。

アントニオは視線を逸らし、ピエトロは唇をかみ、ロレンツォは黙ったまま紙を見ていた。


作業が終わる頃、工房には再びざわめきが戻っていた。

木屑を掃く音、筆を洗う音、笑い声。

その雑多な響きの中で、師の短い言葉だけが胸に残っていた。

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