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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

本当は怖い童話『てぶくろを買いに』~母狐がみたものとは~

作者: 和no名

新見南吉の童話『てぶくろを買いに』のその後をブラックに再構築したものです。

『本当は怖い』シリーズ処女作。

それは雪がちらつく寒い冬の夜のことです。


「おかあさんおかあさん」


「なあに坊や」


「前に街で買った手袋がボロボロになっちゃったんだけど」


「うーーーん…」




お母さん狐はちょっと考え込みます。

やはり我々のようなケモノには人間の手袋は荷が勝つのかしら…。

いっそのこと国道沿いに落ちてる軍手のほうがいいかしら…と。


「坊や、前に手袋を買いに行った人間のお店までひとりで買いに行ける?」


「うん!あの優しいおじいさんのところなら大丈夫だよ!」


「じゃあ銀貨を二枚渡すから、お店に行ったら戸の隙間からこれを置いて…」


「うんうん!大丈夫!」


「大丈夫じゃないから言ってるのっ。さあ右手を出して」


「右手?どっちの手?」


「お箸を持つほう」


「はい」




そう言うとお母さん狐は子狐の手を両手で包み込むと、術を掛けました。




「当たるも八卦、当たらぬも八卦、人間の子供の手になあれっ!Uryyyyyyyy!!」


「人間の手ってぼくたちとだいぶ違うよねえ。

 肉球は無いし、毛も無いし変な感じ。それに…」


「…いい?今度は”人間にしたほうの手”を差し出すのよ?

 お母さんは離れたところから見てるから…」


「うんうん」


「でも可愛い我が子に何かあったらすぐに駆け付けて噛み付いて

 エキノコックスに感染させてやるくらいの報復はするんだからっ!」


「おかあさん、目が吊り上がってコワイ…狐みたいだ…」


「だって狐だもの!」


「まあいっか。じゃあ行ってくるね!」


「心配…心配…人間は恐ろしい存在なのよ…」




心配するお母さん狐をよそに、子狐は街の帽子屋さんに向かって元気に走り出しました。




「ふむ、少し積もってきたのう。

 こりゃ今日はもうお客は来そうにないし、そろそろ閉店にするか」


「こんばんは。手袋をください」


「おや」




帽子屋の店主が戸にカギを掛けようと思っていたその時です。

戸は少しだけ隙間が開かれており、その下には二枚の銀貨が置かれていました。




「…このパターンは去年の今頃にもあったな。ふふっ」




店主が銀貨を二枚ぶつけ合わせてみると、チンチンとよい音がしましたので、

今回もちゃんと本物のお金を持ってきたのだなと思いました。




「小さなお客様、こんな寒い夜によくいらっしゃいました」


「うん!」


「お店の中に入って暖まっていかれませんか」


「お母さんが、人間は恐ろしいものだから手だけ見せて買いなさいって。

 この手の大きさにちょうど合った手袋をください」


「ふふっ。坊や、”狐じゃないほうの手”を見せてごらん」


「はい」




子狐は一瞬「?」と思いましたが、今回はちゃんと”人間にしてもらったほうの手”を差し出しました。

店主は笑いをこらえながら隙間から差し込まれた手を見ると、表情を一変させ絶句しました。




「…坊や。痛いことはしないから、少しじっとしてるんだよ」


「? はい」




そう言うと店主は、子狐の手を濡れたタオルできれいに拭いて、

消毒薬を吹き掛けてから傷薬を擦り込んでやりました。

それから店の棚から子供用の手袋をひとつ持ってきて、手にはめてやりました。




「わっ、くすぐったい!一瞬ヒヤッとして、なんか痛みが楽になった!」


「ヒートテックの手袋にしてみましたが、いかがですかな」


「うんうん!あったかい!いい感じ!」


「今年もお買い上げありがとうございました。気を付けて帰るんだよ」


「うん!ありがとう!ばいばい!」



店主はそっと戸を開けて子狐が見えなくなるまでその背を見送ると店の中に戻り、

椅子に腰かけると俯いて大きなため息を吐きました。






「酷いアザやヤケドの痕…!

 あれは子供が遊んでいてできるものではない…!恐らくは虐待………!!」





(おわり)

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