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3話 人生二度目の居場所は肉屋です。~最強夫婦が拾ってくれた件~

 ずーんっ!

 という轟音が響き、土煙が渦巻く。

 血の臭いが鼻をつく。

 何!?グレイボアが吹っ飛んでる!?


 何が起こっている!?。


 土煙の中に人影が見える。

 どうも女性のようだ。

 片手に短い剣を握っている。


 土煙がはれてきてグレイボアの様子が見えた。

 遠くまで吹き飛ばされている。

 深い切り傷が見える。

 乗用車くらいの大きさのあるグレイボアが一撃で絶命しているのがわかる。


 心臓がバクバク鼓動を打っている。

 死ぬかと思った。

 でも、助かった?


 剣を鞘に収め、女性がゆっくり近づいてくる。

 力強い足音が響く。近づいてくる姿に緊張が高まる。


「大丈夫?」


 心配とは裏腹に優しい声が響いた。


 20代の半ばから後半くらいに見える綺麗な女性。

 艶やかな金髪をシンプルな三つ編みにしている。

 青い瞳の優しそうな女性だ。

 笑顔で悠真の顔を覗き込んだ。


「えっ、あっ、はい。大丈夫です」

 悠真は何とか答える。


 女性は手を差し出して助け起こしてくれた。

 茂みからもう一人が姿を見せる。


「フィーナ、急に駆け出してどうしたんだい」


 もう一人は男性だ。

 銀髪にブラウンの瞳、整った顔立ちの男だ。

 30歳くらいだろうか?

 どこか学者やお医者さんを連想させるような雰囲気がある。


 男性はフィーナと呼ばれた女性と悠真を見て「なるほど」と合点がいったように頷いた。


「君、大丈夫かい?」

「それ私がもう聞いたわよ」

 女性が朗らかに笑う。


「そうか。ちょっと体を見せて。怪我がないか一緒に確かめよう」

「あ、はい」


 男性は悠真の体を確認した。

「怪我はないようだね。よかった。しかし、なぜ危険な魔獣が出る森に一人でいるんだい?」

 その言葉の返答に困る。


 何故ここに一人でいるのか。

 女神さまに異世界転生してもらいました。

 と、説明しても多分理解してもらえないだろう。


 説明に困っているとフィーナと呼ばれた女性が会話に割り込んできた。

 「こらっ!

 クロノ。この子困っているじゃない。

 それにね。まずは私たちから自己紹介しなきゃっ!」


 そう言い悠真の方に向き直り笑顔を見せる。

「ごめんね。

 あたしはフィーナ。

 アルケミアの街で肉屋を経営してるの。

 こっちの魔法使いっぽいのが私の旦那のクロノよ」


 「すまなかった。

 私はクロノ。

 アルケミアの街でフィーナと肉屋をしている。

 趣味で魔法使いの真似事もしているんだ」


 二人の自己紹介を聞いた悠真は慌てて自己紹介する。


 「自己紹介ありがとうございます。

 僕は悠真といいます」


 何となく小林悠真ではなく悠真と名乗った。

 フィーナもクロノも苗字らしきものを名乗らなかったので、この世界では名前を名乗るほうが良いと思った。


「へぇー。

 ユーマかいい名前だね。

 ユーマ君はいくつ?」


「えっと。多分10歳か11歳くらい?」

 曖昧な返答になってしまった。

 現世の年齢は言わない方がいいだろう。

 この身体は何歳なのか正確にはわからない。

 多分それくらいだろう。


「あたしたちの娘と同じくらいだね。

 娘はルナって言うの。

 可愛いんだよ」


 突如として我が子自慢が始まる。

 どう返せばいいんだ?


「君はここで何をしていたんだい?」

クロノが質問してくる。


「気がついたら森の中で迷っていて……。

さまよっていました」


 こう言うしかない。

 とても怪しい回答だがクロノはふむふむと何故か頷いている。


「森に入る前の記憶はあるかい?」

「ないです」

 こう答えるしかない。

 前世の記憶があります。

 とか言うと完全に頭のおかしいやつだ。


 こんな珍妙な回答でもクロノはなるほど、なるほど。

 と小さく頷いている。

 「クロノ、何かわかったの?」

 フィーナが疑問を口にした。よくぞ聞いてくれたっ!


 「多分だが何かの魔法の事故か災害に巻き込まれたんじゃないかな? 

 ユーマ君の身体から妙な魔力を感じる。

 転移系の魔法の事故に巻き込まれたんだと思う」

 

 おぉっ!この人凄い!

 確かに異世界からこちらの世界へ転移してきましたともっ!

 正解です!と言いたいのをぐっと我慢する。


 「事故に……。元の場所に戻してあげることはできる?」

 フィーナの心配そうな問いにクロノは難しい顔をした。


 「確率は低いが転移の魔力や構築式が少し残っている今なら可能性はあるかもしれない。

 時間がたつと不可能になるだろう」


 眉をひそめて険しい顔をしている。


 「あの、確率ってどれくらいですか?」

 「多分3%以下くらいだろう」


 あ、本当に確率が低いや。

 それに元の場所へ転移って現世では死んじゃっているし、どうなるんだろう?

 

 「ちなみに転移に失敗すると僕はどうなりますか?」

 「わからない。最悪、存在が霧散する可能性もある」

 クロノは残念そうに首を振って答えた。


 存在が霧散するって……怖っ!

 フィーナが心配そうな顔で尋ねる。


 「どうする? 転移にチャレンジしてみる?」

 「やめておきます」


 元の場所への転移に成功しても、身体はもう火葬されて灰になっているだろう。

 成功してもろくなことにならない。失敗してもろくなことにはならない。

 チャレンジする意味がない。

 クロノがほっとしたような顔をした。成功させる自信がなかったんだろうな。


 「そっかー。じゃあユーマ君うちにくる?」

 「えっ?」


 意外な提案に驚いた。

 フィーナは悠真が解体していた子供のグレイボアを指さした。


 「あれっ! ユーマ君が解体していたんだよね?」


 ものすっごいキラキラの笑顔で顔を近づけてくる。

 この人、美人で愛嬌のある顔だなぁ。

 

 「あ、はい。そうです」

 「やっぱりっ! その歳でグレイボアを仕留めて解体できるって君天才だよっ!」


 興奮したような表情で悠真の両手を握りぶんぶん振り回す。


 「うち肉屋を経営してるの。君の腕があればあたしたちは大助かりだよ。ねっ、クロノ!」

 「あぁ、魔獣の解体はとても難しいんだ。ユーマ君さえよければ来て欲しい」

 

 フィーナは悠真の手を取って今にも踊りだしそうな感じだ。

 どうせ行くあてもないしここはお世話になろう。


 「それじゃあ、お世話になります」

 そう言って軽く頭を下げた。


 「やったー! 家族が増えたー!」

 フィーナは悠真の手をひっぱり、くるくるとダンスを始めた。

 

 「それじゃあ今日狩ったグレイボア親子を一緒に解体してから家まで運ぼうか」

 クロノがそう言いフィーナが倒した巨大なグレイボアを川まで引っ張ってきた。

 うわ、すっごい腕力だなこの人。


 「きっとルナもお兄ちゃんが出来て喜ぶよ」

 ニコニコ顔で喜んでいる。

 クロノはグレイボアの解体をはじめた。おぉ、素早いっ!

 とても熟練された動きに見惚れながら思った。

 (異世界のお肉屋さんって魔獣を狩らなきゃいけないんだ)

 このとき悠真はまだ知らなかった。

 普通の肉屋が魔獣狩りをするなど、まったくありえないことを。

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

この話以降悠真のことはユーマと表記する予定です。


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