伯爵と女王陛下
「財政に滞りは無いか?、ビスコティ伯爵‥」
広い宮殿の謁見の間でリカルドと女王陛下が対面している。
「工業面は前年に比べて収益が伸びております。農業面では天候不順によりやや低下しました。国内供給分に関しては問題ありません」
「ふむ。して‥」
女王が目配せをして人払いをする。
「其方の趣味に文句は言わぬが、奥方を大事にするべきと思うが‥どうかね?」
一瞬顔が引き攣ったが元に戻る。
「埒もないことを‥私は蔑ろになどしてはおりませぬ‥」
「そうか。くれぐれも内政に響かぬ様にな?」
「仰せのままに‥」
謁見の間から退出して廊下を歩くリカルド。
(あの忌々しいババアめ。今に我らゲドーが惑星ごと支配してくれるわ!!)
心の中で悪態をつきながら仕事に戻る。
ビスコティ家の屋敷では今日も一人娘に振り回されていた。
「ヨウジ!早く来て頂戴!」
「お嬢様、怪我をされては困ります」
「トロイわね〜」
庭先でティータイムを兼ねた遊びに付き添わされる。
その様子を近くで微笑みながら見守る母親。
“イザベラ”
リカルドがまだ男爵位の頃に政略結婚した。
一年後に娘のアンを出産してからは身籠っていない。
婚約時より早12年が過ぎて現在では35歳だ。
実家があまり裕福ではなくその為控えめな性格だ。
朧げな雰囲気を纏った美熟女だ。
(アンはまだ父の不貞を知らないのね‥何は‥)
自身が裏切られている事より娘の影響を心配している様子だ。
「お母様もご一緒にお茶しましょう?」
「えぇ‥」
メイドたちもそれに合わせていそいそと準備する。
「ねぇねぇお母様、ヨウジはまた‥」
「ふふふ、まぁ‥」
何やら俺の話らしいが介入の余地は無い。
暫く二人のティータイムをメイドたちと見守っていたらイザベラが近付いて来た。
「奥様、如何なさいました?」
「いえちょっとね‥アンはああ見えて繊細な子なの。言葉遣いは悪いけど貴方を信頼しているわ。これからもよろしくね」
「畏まりました」
正直任務が優先なために懐かれる前に撤退したいのが本音だ。
その日の夜にシャールのいる教会方面から特殊な合図が出た。
“撹乱”を駆使して俺とシロは屋敷を抜け出した。