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影山真琴の嘘の無い未来  作者: やしろ久真
第二章 影山真琴の明日の無い旅路

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第三十八話 「約束の場所へ」

 12月18日。

 夕方の授業中、幹人のスマホに1件のメッセージが届いた。

 差出人は、つい先日再会し連絡先を交換した須田郁弥である。

 須田は連絡先を教えるのが心底嫌そうな顔をしていたが、佐々木ゼミナールでの謎解きの解答と次の出題を探す約束をしたがために不承不承という具合だった。


『受け取りましたよ。次のメッセージを』

 その飾り気のない一言に、幹人はさっそく須田に会いに行くことを決めた。



「これがメッセージです」

 須田が差し出したのは一枚の便箋だった。


 幹人は学校が終わると電車に飛び乗り、札幌へ向かった。

 そこで、ちょうど佐々木ゼミでの自習を終えた須田と駅構内で合流した。

「サンキュー、中は見てないのか?」

「はい。僕は興味ありませんから。それと、補足情報です」

 須田はもう手伝う気はないとばかりに、最低限の時間で済ませようと早口にまくしたてる。


「そのメッセージは、ゼミの講師……といっても大学生のバイトですが。その人の机の上に置かれていたのを今日気づいたそうです。付箋が張ってあり、『いつもの廊下のガラス前に訪れる、短髪の男子学生に渡してください』と怖い先輩の文字で書いてあったそうですよ」

 須田自身は短髪ではないため、事情を説明するのに苦労したが、入り口のセキュリティの都合で代理だという話に何とか納得してもらい、無事受け取ったということだ。

「やっぱり、廊下のガラスからはシンボルタワーのイルミネーションがよく見えたか?」

「ええ。それに、今日からライトアップの演出が変わって豪華になったそうです。講師の人も毎日見ているので、今日から明確に変わったと言っていましたよ」

 幹人は、『満艦飾の時を待て』の推理が正解だったことに満足する。

 一方の須田は、説明を終えたとばかりに無言で便箋を差し出した。

 幹人はそれを手渡しで受け取ると、須田は足早に去っていく。

「本当に、中は見なくていいのか?」

 須田も少しは気にしそうなもので、別に協力しなくても見るくらいはいいと思ったが、彼は振り返りもせず去っていく。

「別に結構です。本来僕は、登場人物には含まれていないはずですから」

 そう言い残し、小柄な後輩は地下鉄へ向かう階段に消えていった。


 改めて、幹人は駅のベンチに腰掛け便せんを見つめる。

 書店などに売っている簡素なもので、折りたたまれた表面には「沢木詩織 様」と書かれている。

 おそらく、それが佐々木ゼミの講師の名であろう。

 便箋を開き、中を確認する。

 相変わらず、几帳面な文字で次の謎が書かれていた。

 

『旅の終わり、その日は誰もが祝福をする聖なる夜。詩を織りなす司書と共に、夢にまで見た約束の場所へ』


 幹人はその文章を繰り返し読む。

 旅の終わり、つまりこれが最後の謎解きなのだろうか。

 幹人はその便箋を大事に仕舞い、地元へ帰る電車に乗った。



 翌日12月19日。授業中でも幹人はずっと謎を解こうと考えていた。

 そして、この日学内で姫野や春田、藤木に会っても、状況と文章は一応伝えたが適当にはぐらかすようにしていた。

 それは、最後の一文、『夢にまで見た約束の場所』が気がかりであったからだ。


 間違いなく、それは幹人の見た予知夢を指しており、場所はあのシンボルタワーの下だろう。

 予知夢の場所が指定されているとは、説明が難しく他の皆に説明できなかった。

 そして、『その日は誰もが祝福をする聖なる夜』とはクリスマスを連想する。

 これまでの謎に比べても、非常に分かり易い。

 なぜか、この文章を見た春田は「きゃー! やっぱりサプライズですよ! ちゃんとした格好で行くんですよ? 先輩っ」と色めき立ち、姫野や藤木はどことなくドライな反応だったが。

 

「一体、真琴は何のために……」

 幹人は解けた謎よりも、目的のほうが気がかりだった。

 幹人はこれまで届いた、真琴からの出題文を思い返す。

 

『旅の扉は開かれた。ソウルフレンドの名を冠する地の塔。冒険は続く』

『ふたたび旅立ちの場所へ、ルナシカに乗って、冒険のその先へ。学舎の城、展望室から見渡す満艦飾の時を待て』

『旅の終わり、その日は誰もが祝福をする聖なる夜。詩を織りなす司書と共に、夢にまで見た約束の場所へ』

 

 一つ目は、『藤木あさひ』の名にちなみ、そして幹人と彼女のやり取りで出たキーワードを使ったものだ。

 これは幹人のスマホ宛にショートメールで届いた。

 この謎はもちろん幹人にしか解くことができず、けれど八十川が着手していた謎解きになぞらえている。


 二つ目は、佐々木ゼミナールに場所を移し、更に時を指定した解答だった。

 真琴は自由に行動できるのか、あるいは何らかの手段を使って、便箋を佐々木ゼミナールの沢木の所へ届けたことになる。

 そして、ここでも八十川に関係する『ルナシカ』というキーワードが入っている。


 三つ目。これは、クリスマスの夜とシンボルタワーの下を指している。

 だが、途中の『詩を織りなす司書と共に』がよく分からない。

 

 三つを並べてみると、やはりこの謎は全編を通して幹人にしか解けないものだった。

 姫野がいうように、他の人には理解できない情報が多い。

 そして、二つ目と三つ目の謎には時間を指定するものがある。

 繋げると、真琴は『幹人』に、『時間と場所』を指定し、『詩を織りなす司書』とともに来るように指示していることになる。


「あとは……八十川か」

 この謎にも、彼に関係する何かが含まれるのだろう。

 わからなければとにかく行動するしかない。

 放課後に八十川に連絡し、明日再び会って相談する約束を取り付けた。



 12月20日。

 この日、幹人は三沢駅で八十川と合流した。

 八十川は相変わらず無表情でぼんやりとした態度だったが、それでも律儀に招集に応じた。

「意味は分かりませんけど……司書といえば図書室でしょうか」

 八十川も聖なる夜はクリスマスと予測し、約束の場所とは幹人と真琴の間では了解済みの場所という話で納得していた。

「何か、そういう人物に心当たりはあるか? 例えば、『ラムザの旅』にそういうキャラがいるとか」

「いいえ……図書室のシーンはあっても、司書のキャラはあまり……。一応、作中では『司書』とは魔導図書館の案内人として描かれていますが。あとは現実のほうですが、子供のころにコミュニティセンターにいた方も特に面識もなければ名前も覚えていません」

「そうか……」

 真琴が無駄な情報を含めるとは思えない。

 そして、ただ幹人にクリスマスの夜に予知夢の場所に来てほしいだけなら、最初からショートメールでこの謎を出せばいい。

 二個目の謎も、経由する必要があった理由があるのだろうか。


「名前……?」

 そこで、幹人は思い返す。

 二個目の謎は、佐々木ゼミナールの中で、そして人から渡された。

 便箋には、わざわざその人の宛名まで記載されている。

 沢木。

「詩織……詩を織りなす……」

「司書というよりは講師ですよね。本の案内人というイメージでは……」

 八十川も納得しかけるが、疑問をつぶやく。

「でも、他に考えられる人は居ない。会ってみる価値はあるかもしれないな」

 


 幹人と八十川は並んで佐々木ゼミナールのロビーに座った。

 今度は上層階へ向かう必要はなく、受付で沢木の名と真琴の名を出し、話があるというと本人が来てくれるそうだった。

 しばし間を置き、エレベータが開くと栗色の髪の女性が歩み寄り、男子高校生二人は緊張しながらも話を始めた。

「君たちが、影山さんの友人……なのね?」

「は、はい」

 幹人が年上女性に戸惑いながらも返事をすると、「ああ、短髪の子って君のことか」と笑い緊張がほぐれた。

「影山さん、もう一週間ぐらい顔を見ていないけれど……でも、手紙が置いてあったりしてて。あの子、どうかしたの?」

「それが……」

 どこまで説明すべきか悩みながらも、幹人は一通りを沢木に伝えた。

 彼女は茶化すことも、質問を挟むこともなく、静かに聞き遂げた。


「うん、きっと私のことだと思う」

 沢木は静かにうなずいた。

「司書資格も持ってるし、影山さんとその話もしたはずだから。それで、クリスマスの夜に君たちと一緒にその場所に行けばいいのね?」

「は、はい……」

 改めて言うと、なかなか不思議な誘い文句である。

「あはは、大丈夫だよ。私も別に聖夜だからって予定もないからね。付き合ってあげましょう」

 快活にそういわれ、どことなく安堵した幹人はこの日は一旦帰ることにした。


 佐々木ゼミナールを出て、八十川と二人並んで駅まで向かう。

「あの女性が、どう関係しているんでしょうか」

 八十川はそれでも腑に落ちない表情でつぶやいた。

「さあな……でも、間違いではないはずだ」

 これで、すべての謎が解けるのだろうか。

 幹人自身の半信半疑である。

 駅の構内に向かうと、そこから人があふれ出てくるように大勢いた。

「人、多いですね」

 八十川は雑談にもならない程度のつぶやきを漏らす。

「そうだなー……そういや、イルミネーションとかやってるからな」

 人波の中に、男女の組み合わせが多いことに嫌でも目が行く。

 そんな中、幹人と八十川という男同士の組み合わせはなぜだか虚しさがあった。


「まあ、今日のところは帰るしかありませんね。とりあえず、クリスマスの日まで待機でしょうか」

「ああ……」

 八十川の言葉に、幹人は頷く。

 そして、幹人は足を止めた。

 その様子を、訝しげに八十川が振り向く。

 見れば、幹人はボンヤリと宙に視線を巡らせたまま硬直していた。

「どうかしましたか……」

「……間違えているのか……?」

「え、謎解き、何か変でした?」

 八十川が問い直すと、幹人は視線を合わせた。

 その目は、焦りに見開かれている。


「とにかく、一緒に来てくれ!」


 幹人の声は、騒々しい駅の構内によく響いた。

 

 

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