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影山真琴の嘘の無い未来  作者: やしろ久真
第二章 影山真琴の明日の無い旅路

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第三十五話 「たぶん、その謎は」

 翌日、12月15日。

 幹人は通常通りの学校に登校した。

 この日も隣の教室を覗き、真琴の存在は無い事を確認する。

 一人の女子生徒が行方をくらましているにもかかわらず、学校は、世界は、当たり前のように日常を続けている。

 

 ふと、幹人は八十川の話を思い出す。

 孤独を分け合った図書室で、急に居なくなった女子の話。

 その後も、世界は当たり前のように日常を続けたことだろう。

 もしも、自分が同じ立場になったとしたら。

 そう考え、幹人は頭を振る。

 

「まだ、居なくなったと決めつける必要はないだろ」

 独り言をつぶやき、自身の教室へ戻る。

 こんな時に、あの予知夢の事を思い出した。

 悪いイメージばかり想像する癖は、中々直るものではない。


「あ、久田くん。おはよう」

 廊下でちょうど登校してきた姫野が手を振る。

 幹人は眉間の皴を手の甲で押し伸ばし、朝の挨拶にふさわしい笑みを張り付けた。

「おう。昨日は冷えたけど、風邪とかひいてないか」

「うん。全然平気だけど……影山さんはやっぱり居ない?」

 姫野の言葉に、幹人は首肯した。

 そのまま並び、廊下を進む。

「結局あの後も考えたんだが、謎解きの答えは分からないんだよなぁ」

 幹人はぼやき、傍らの姫野にもうかがう。

 彼女も特に妙案は浮かばなかったらしく、芳しい表情は無かった。


「とりあえず、『学舎』って単語から学校関係かと思うんだ。昼休みや放課後も少し歩いてみるつもりだ」

 幹人は、推理力は正直真琴の足元にも及ばない事は自覚しているので、とにかく足を動かしていくつもりだった。

 学舎、つまり学校といえば、まずは三沢高校が思いつく。

 そして九月の事件が関係しているのであれば、常盤中学なんかも関係あるかもしれない。

 そんな思いで、この日は奔走する意気込みだった。

「そっか。がんばってね」

 一方、姫野は少し熱が引いたように言い放った。

 思わず顔色を伺うと、彼女は困った様に眉を曲げた。


「ごめん、私今日は放課後に友達と勉強会の予定があって。謎解きゲームはもう参加できないかも」

 姫野はやや冷淡に断りの言葉を並べた。

「あ、おう。まあ、そうだよな。もうこの時期だもんな」

 幹人は一瞬、何故と問いたくなったが飲み込んだ。

 

 幹人にとっては、予知夢の出来事が気がかりである事が先行し、悪いイメージしかない。

 けれど、その前提が無ければ真琴が何かのゲームを催していると受け取れる、事実昨晩の春田がそうだった。

 姫野をこれ以上巻き込む必要性も、無いと言えばそうである。


「正直さ、影山さんもよくわからないよね」

 姫野は、彼女なりに言葉を選びながら、その胸の内の一端を幹人に告げる。

「本当に、久田くんが心配するように事件に巻き込まれているなら、ここまで回りくどい謎解きゲームを出している余裕はないよね。かと言って、春田さんが言うようなサプライズのイベントだとしたら、人が悪いって思っちゃうよ」

 音信不通で家にも帰らない、けれど悠長な謎の出題は続いていく。

 姫野をはじめ、周りの人達は日常があって、そんな思わせぶりに振り回され続けるのも苦労する。

 彼女の言っていることは紛れもなく正論だ。


「それに……たぶん、その謎は」

 姫野は迷いながらも、その続きを言った。


「私には解けっこないもん」

 拗ねたような言葉を残し、姫野は廊下を歩いて行った。

 気が付けば、幹人はとっくに自分の教室を過ぎていた。

 廊下に立ち尽くし、去り行く彼女の後ろ姿を眺めるだけだった。



 昼休み、幹人は学内を散策した。

 何気なく、ラウンジに足を向けるも、そこには人が入り乱れ見知った顔は見つけられなかった。

 思えば、春田とも真琴を介して知り合いとなったようなものである。

 

 幹人の身の回りには、『知り合い』が多い。

 けれど、友達より深い関係と言えば、数は限られる。

「というか、居ないんだよな」

 独り言がまた、零れる。


 幹人にとって、日常は予知夢の間隙である。

 夢で見た出来事の間を埋めるだけの時間で、けれど未来の出来事を不用意に人には言うことが出来ない。

 悪い出来事ならば、裏を勘繰られるからだ。

 だから、人付き合いは上辺を撫でるだけの方が都合がよかった。

 お互い、その方が傷つかない。

 お人よしを演じ、好青年の顔を張り付けて、人畜無害に人の間を行き来する。

 その間に予知夢の出来事のその先にある最悪を回避し、自己満足に浸る。

 それが、久田幹人の人格である。

 目の前で人が飛び降り、何も出来ずに手をこまねいて立ち尽くしているのは、もう嫌なんだ。

 

 だけど、そんな未来を回避するための相棒が出来たと歓喜した日もあった。

 何気なく足を向けた場所は、三沢高校の屋上だった。

 かつて、不法侵入を咎められコミュニティセンターの整理業務を押し付けられたりもした、その場所に足を踏み入れる。


 曇天の冬空に、降り積もった雪が解けた後の湿った足元。

 誰もいないその場所に、物語の続きとなる答えは存在しなかった。

「真琴……どこいっちまったんだよ」

 屋上のフェンスを握り、遠くの景色を眺める。

 うすらぼんやりとした景色は、どこまでもモノトーンだった。

 

 ポケットに手を伸ばし、何度も見返したメモとカルガモのマスコットを取り出す。

『ふたたび旅立ちの場所へ、ルナシカに乗って、冒険のその先へ。学舎の城、展望室から見渡す満艦飾の時を待て。』

 脳内を巡る文章に、再び向き合った。

 よく見れば、二つの文章になっている。

 前半の句点までに、何も意味が無いはずがない。

 あの律儀で理知的な真琴の性格が脳内に浮かぶ。

 『ルナシカ』とは、八十川たちが昔読んでいたライトノベルである『ラムザの旅』の単語だ。

 真琴は、以前本屋でその本を購入していた。その時は、確か「参考までに」と言っていた。

 何故真琴がその作品に行きついたのかは分からないが、冒険や旅という単語は八十川の過去に由来するのだろう。

 

「とにかく、足を動かすしかないか」

 幹人はカルガモのマスコットを握りしめる。

 一人で元々だ。

 放課後は、もう一度今回の事件の旅立ちの場所に赴く事を決め込んだ。

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