第二十七話 「なんだか……楽しそうですね!」
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12月6日。
「ほーんとに、久田先輩と真琴先輩は付き合ってないんですかぁ~」
妙に甘ったるい声で、後輩の女子は真琴に絡みつきながら弁当の卵焼きを口にほおばった。
三沢高校のラウンジには、昼食時の学生で満ちていた。
主に学食を食べる食堂と、クラスメイトで弁当を食べる教室の他に、他学年と昼食をとる場所として、教室半分ほどの広さがあるラウンジが開かれている。
すっかり寒くなり冬の気配が忍び寄るこの時期に中庭で過ごす者は修行か何かと揶揄される。
真琴たちもその流れに従い、最近は屋内で昼の一時を過ごしていた。
一年の春田まつりは、すっかり真琴に懐いているのか、昼休みになると教室まで迎えに行き食事に誘っていた。
根負けした真琴は、最近では何も言われずともこの場に集まるようになっていた。
「まあな。ちょっと新聞部に体験入部した仲ってだけだ」
幹人は、真琴の横にピッタリと寄り添い小動物の威嚇のように歯を見せる後輩にやや狼狽しながらも、テーブル席の向かいに座る。
「それに、彼には想い人がいるのよ」
「ええっ!? 本当ですかぁ、誰なんですかぁ~」
「おいおい……」
涼しい顔で告げる真琴と、急に色めきだす春田をよそに幹人は居住まいを直し本題に入る。
幹人と真琴は、佐々木ゼミナールで起きた盗難事件の犯人にされてしまった八十川という男子の無実を晴らす……というよりも、この一件の真相を調べるために、作戦会議をすることにしていた。
真琴の特異体質により八十川の無実は確実であるが、これまでの情報を振り返る。
春田もその話を興味深げに聞きながら、雑談のネタ程度に考える。
「でもぉ、どうやって盗んだんですかね、真犯人は」
春田は疑問を口にし、律儀な幹人はそれに頷く。
「そうだな。大体事件の構図は見えていて、八十川が置いてったカバンに誰かが盗品を入れたんだ。目的は分からないが、手段としてはまずは女子のリップクリームを盗む必要があるな」
「じゃあ、犯人は女子ですね。ロッカーや化粧室とかでも結構コスメとか盗まれたりするんですよ」
春田の推理に、幹人も思わずうなる。
「案外、その可能性は高いよな。目的は八十川じゃなくて、あの被害者の女子に対する嫌がらせとか」
幹人もいくらか推理するも、真琴は顎に指を添えたまま、一点を見つめたままだ。
「否定はしないけれど……。女子に対する嫌がらせのためなら、程度が低い気がする。本気でやるならもっと陰湿なことだってできたはず。それに、八十川君は完全に巻き込まれた形になり彼が予想外の動きをする可能性もある……。まあ、そこまで考えていない行動というなら、なんでもあり得るのだけれど」
真琴はまだ、確証の無い状況に推理をするのは無理と判断した。
「ともかく、彼にはまだまだ確認しなければならないことがある。あの役割が、彼でなければならない理由があるはずよ」
真琴がそう言うと、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。
「なんだか……楽しそうですね! 先輩方」
春田の冷やかしにも、二人は苦笑するだけだった。
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12月8日。
この日は佐々木ゼミナール無料講義の二回目が実施された。
講義が終わった後の夜半過ぎ、真琴は個別クラスなので普段通りだが、建物内には多くの人が行きかう気配がした。
この後は、幹人と合流し八十川から情報を引き出す事にしていた。
「あれ、影山さんもう帰るの?」
廊下を足早に行く真琴に、声がかかる。
沢木はいつもと違う真琴の行動に純粋な疑問を口にする。
「はい。今日は人と帰るので」
「そうなんだ。あ、無料クラスやってるもんね。同じ学校の人?」
「ええ」
その言葉に、沢木は嬉しそうに笑みをこぼす。
「そういえば影山さんは大丈夫だった? なんだかゼミ内で盗難事件とか騒がれているみたいだけど」
沢木の耳にも、八十川の事件は届いているようだった。
「はい、あたしは特に被害はありません」
そう言い、真琴は少し沢木から情報が得られないかと思い直す。
「先日の騒動の際、職員室に生徒が連れられたそうですが」
「ああ、竹藤さんが何か話してた子達のことかな」
竹藤というのは、佐々木ゼミナールの男性職員の名である。
沢木も先日の騒動の後、職員室でその様子を見た事を思い出したのか、頬に手を当てて回顧していた。
「男子高校生の人もいたと思います。……その人をこれまで見た事はありますか? 特徴的な両目の下に泣きぼくろがある人です」
真琴は、自身が知らないだけで八十川が佐々木ゼミナール内を出入りしていないか、確認しておきたかった。
泣きぼくろの特徴を聞いて、ああと沢木は合点する。
「いいえ、私はこれまで見たことない子だったけど……無料講義の日だったから、初めて来た子なんじゃないかな?」
沢木がそう言い、真琴は頷く。
「そうですか。ありがとうございます」
そのまま足を動かしエレベーターホールに向かう真琴に、沢木は「気を付けてね。それにしてもいいねー、青春だね」と笑い職員室に向かって行った。
清掃用具の台車を押す用務員と一緒にエレベーターに乗り込み、真琴は一階で待つ幹人の元へ向かった。




