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影山真琴の嘘の無い未来  作者: やしろ久真
第一章 影山真琴の嘘の無い未来

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第十八話「たどり着いた真相」


 幹人たちから見れば初めて入る校舎であるが、なぜか懐かしいと感じる匂いがある。

 けれども廊下に掲示された校内新聞や美術の作品などはやはり見慣れず、異国のようにすら感じてしまう。

 自分が通っていない学校というのは、とても奇妙な空間だった。


 2階の突き当たりに図書室がある。

 その引き戸を老教師の尾美が開けると、入って右奥の棚を指差した。

「あそこに、部活関係の書籍が保管されておりますよ。持ち出さなければよいですから」

 ここまで親切に対応してくれるのは、相手が高校生だからか、対象が所詮学生が作った文集だからだろう。

 真琴は礼と共に頭を下げると、書棚からいくつか抜き出した。


「んで、何を調べるんだよ」

「文芸部での活動がわかるもの。特に、刑部圭介のプロフィールが載っているもの」

 小声で幹人は尋ねる間にも、真琴の視線は既に冊子の数ぺージを駆け抜けていた。 

 いくつかの冊子を捲ると、文化祭で文化系の部活合同で作成したものの他に、文芸部が活動の一環として作成した同人誌があった。

 各部員の作成した小説がプリントされ、ひとまとめになっている。

 しかし、そこにも学年と名前、最後に一言コメント程度しか載っていなかった。

 ちなみに、オサカベグンジの作品も掲載されており、『感想お待ちしてます!』というコメントの後に彼のメールアドレスと思われる[osakabe0912@……]という文字列が載っているだけだった。

 作品の内容は、以前千歳から見せてもらった物と異なるが、作風は同様だった。


「なにも、手がかりは無さそうだな」

 幹人は落胆と共に焦りを含めて言う。

 ここでこうしているよりも、笹島や池森たちの動向が気になり始めているので、早く真琴を連れて引き返したかった。 

 けれど彼女はそれを無視し、冊子をしまうと今度は尾美教諭の方へ向き直る。

 入り口付近で、ぼんやり立ちながら2人を監視していた老教師は、真琴の鋭い視線にも臆さなかった。

「あの、お尋ねしたいのですが」

「はいはい、なんでしょう」

 好々爺とした口調で頷く彼に、真琴は切り込むように言葉を発した。


「刑部圭介君のことで」

「……おお、そうですか。彼は、非常に良い学生でしたな。確かに彼は三沢高校へ行きましたな」

 わずかな間があったのは、彼の身に起きた顛末を知っているからで間違いない。

 しかし、真琴は彼から感傷に浸るコメントをもらいにきた訳ではなかった。

「部活での彼の様子はどうでしたか」

「文芸部では、生き生きとしていましたよ。ええ、物語を書くのが面白かったんでしょうな」

 真琴はこの場にやってきた目的を隠すこともなく、事情聴取の様な口調で続ける。

 一方の尾美も、特段警戒するような素振りは見せなかった。

 もしかしたら、真琴たちの目的を半ば了解して、この場に通したのかもしれない。

「彼は、例えば、誰かと共作をしていたことなどはありませんでしたか?」

「おお、そうじゃった。彼にそう勧めたのは私だからね。相手は郡司フミヤくんと言う子じゃった」

 郡司。グンジ。

 当初、千歳から刑部という人物の存在を知らされた時、作者名はオサカベグンジという名で掲載されていた。

 それは、二人の人物による合作のペンネームだった。

 幹人は合点が行き沸き立つような気持ちで顔を覗き込むが、真琴は何の感慨もない様子で質問を続ける。

「彼らはどういう関係でしたか」

「郡司くんは文章を書くのは上手だが、いかんせん物語りが固かった。一方の刑部くんは少し自由奔放な中身の作品だったからのう。2人のタッグは面白いとおもったね」

 真琴の質問の意図よりも、尾美は作者としての2人の講評を述べる。


「郡司という方は、三沢高校へは行かなかったのですか?」

「郡司くんは、彼が3年生に上がるときに転校してしまったよ。事情は個人のことなので控えさせてもらいますがね。まあ、ご家庭の都合というやつですな」

「そうですか。ありがとうございました」

 そこであっさりと、真琴は質問をやめ、ひとしきりの礼を述べその場を立ち去って行く。

 取り残される格好になった幹人は慌てて彼女の背中を追いかける。



「ちょ、ちょっと待てよ。まだ全然何もわかんねえよ。一人で納得すんなって」

 校門を出たあたりで、顎に指を添えて一人思考に耽りながらスタスタと進む真琴に追いつき、幹人は泣き言のように言う。

「……え、ごめんなさい。何がわからない?」

「全部だよ! 結局郡司って奴は関係あるのか? 転校してったらしいし、三沢高にそんな奴居ないって千歳も言ってたぞ」

「……。わからない、それが何時なのか。宿命……命が、宿る……」

「おーい……俺の話聞いてる?」

 思考が纏まらないと言わんばかりに、真琴は視線を宙に彷徨わせる。

 相手にしてもらえず、不貞腐れたように幹人は大袈裟に伸びをする。


「はぁー、まあいいや。ええと、流石に刑部が『おみとおし』って訳じゃないよな」

 幹人は自分を納得させる為に、独り言のようにこれまでの情報を纏める。 

「『おみとおし』は三沢高二年の英語の小テスト、校門前の現金入りの鞄を予言して見せた。それからは笹島純一郎にターゲットを絞り、彼の秘密を暴露……そんで、夜の学校でのゲームの顛末を書いた手紙を美術準備室に仕込んでいた」

 指折り数え、『おみとおし』の行為を振り返る。

「それから言えば、ヤツは笹島に対して恨みがあって、自分の発言の注目度をあげたくて色々アピールしてきたんだろうな」

 幹人自身が視た夢の内容と、笹島への恨みは符号する。

「そんで、笹島が恨まれる要素はいくつかあって、『春田まつり』という元カノの線は無いとすれば、刑部圭介の事故死に関係していた可能性だろ? 例えば郡司ってやつが刑部とメチャクチャ仲良しだったとして、逆恨みってことか? でも郡司ってやつが三沢高生じゃなかったらそれまでの活動は難しい……ってことは、郡司の協力者が三沢高内に居るのか!」


「その協力者とやらは、一体何が目的? 郡司と志を共にするとなれば、その協力者も刑部圭介との関係が必要。でも彼と仲が良かったのは笹島グループ」

 真琴は堪らずといった具合に反論を差し込む。

 幹人は唸るも、真琴がようやく反応してくれたことに口元を緩める。

「ええと……笹島グループの中でも刑部をイジメていたヤツと普通に仲が良かったヤツがいて……それで……」

 言いながら、考えのまとまらなさに頭をかきむしる。

「ああもう、めんどくせぇ。いっそさっき見た刑部のメアドでSNSのアカウントとか入れないか? 仲のいいヤツとのやり取りとか見れるかもしれないぜ」

「確かに……SNSのダイレクトメッセージなどのやり取りの記録があれば確実……いや、メアド?」

 そこで、真琴は視線を虚空に結ぶ。

 迷いなく一点を見つめる姿に、再び幹人はため息をつく。


「おーい……戻ってこい」

「……急がなければならない」

「えっ?」

「真相は全て走りながら話す。お願い急いで。でないと……今日の未明が”宿命の日”。彼らが炎に包まれる!」

 鬼気迫る剣幕に気圧され、幹人も真剣に頷く。

 そのまま、真琴の傍を走り、幹人は真琴のたどり着いた真相に耳を傾けた。

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