内閣府「賃上げアイデアコンテスト」は「禁じ手」を絶賛推進中か!?
筆者:
本日は当エッセイをご覧いただき誠にありがとうございます。
今回は内閣府の「賃上げを幅広く実現するための政策アイデアコンテスト」で優勝アイディアになった「残業から副業へ。すべての会社員を個人事業主にする」という事について個人的な意見を述べていこうと思いますのでどうぞよろしくお願いします。
質問者:
筆者さんは毎日のようにエッセイを書くぐらいお暇そうですけど、
一応は中小企業支援のコンサルタントみたいなお仕事なんですよね?
筆者:
暇なのではなく、“効率よく時間を使っている“と表現していただきたいですね!(笑)
中小企業のコンサルタントと言う仕事の分類的に言えばそうですね。
僕が法律や制度について耳が早かったり詳しいのも、
ちゃんとした知識に基づかないと間違ったアドバイスになっちゃうので、
仕事の関係上、皆さんより目を通しているという事です。
まぁ、まだまだ若輩者なので僕のアドバイスはスルーされること多いんですけどね(笑)。
質問者:
ダメじゃん……。
それで、今回の問題となっているコンテストの「全員を個人事業主にする賃上げ方法」については合法なんですか?
◇一言で言うなら制度の穴をついた「禁じ手」である
筆者:
ハッキリ言ってこれは「禁じ手」と言っていいものです。
これが受賞した作品についての解説の図なのですが、
制度を変えずに従業員には手取りアップ(21万増)も実行でき、企業の手元にもお金が残って(150万円社会保険料を払わなくていい)ハッピー!
とまさに画期的な風にしているわけです。
質問者:
でも、思ったんですけど業務委託って言うと上下関係が無いというイメージですけど、
実態はどう見ても指揮系統下にあるために主従関係ありますよね?
これは給料で支払わないと駄目なんじゃないですか?
筆者:
確かにダメなんですよ(笑)。
契約上は請負契約にも関わらず実際は、発注者と労働者との間に指揮命令関係が生じたままですからね。この状態が続く限り雇用状態として保険料は支払う義務はあります。
ちなみに、僕の関与している中小企業もそういった「禁じ手」を使って雇用契約を業務委託契約に変更して存続している会社があるんですね。
(正直、赤字なので早く企業を畳んで欲しいという思いはあるが親の代からの付き合いのために無理に潰れろ! と言うことはできない。利益が出ている会社にはそんなことはさせていないので悪しからず)
質問者:
えっ!? それで大丈夫なんですか!?
筆者:
本当は大丈夫ではありません。実態は業務委託契約とは違いますからね。
ただ、もしもの時は「これはちゃんとした業務委託契約だ」と会社と社員との間で口裏を合させるように言いつけています。
メタ的な話をさせてもらうなら、そもそも赤字企業には税務調査も来ないのでその機会すら訪れていませんがね(笑)。
黒字企業なら税務調査が来た時に、ついでに厚生労働省(ハローワーク、年金事務所)に通報されて是正させられる可能性が高いので本当にこれは「禁じ手」にも近い扱いですよ。
「本来はダメなので違法行為だと言われても庇えないです」
「この状態から脱せられるように経営改善してください。これは最終手段です」
という2つをこの手法の際には必ず言っています。
世間的にはこの「現実的には雇用にも関わらず業務委託契約」の状態を「偽装委託」とも言われます。
「契約と実態の乖離」によって業務委託契約では事業主責任が発生せず、
個人の責任で仕事をすることになるため、いわゆる「働かせ放題」になる可能性もあります。労災などの認定もされない可能性が高いですからね。
家族みたいに仲が良く、「経営状態の悲惨さ」も含めて意思疎通が出来ている間柄じゃないとこの手法は駄目ですね。
画期的のように紹介しているこの案を出した方には申し訳ないですけどこれは皆が「影で普通にやっていたこと」です。
ただ、表向きでは「禁じ手」であることから誰も言わないことという事です。
質問者:
厚生年金に入らないという事については大丈夫なんですか?
筆者:
それは貯金・投資が出来る人なのかどうかにかかっていると思います。
システム的に現役世代から奪い取っていることから、事実上破綻しています。
ただ今後は、年金は減り続けるとはいえ、
貯金できない方にとっては年金制度は必要でしょう。
「その日暮らし」みたいな生活をされている方にとっては厳しいと思いますね。
マネーリテラシーのようなものも大事になってくると思います。
問題は選択肢を「強制加入1択」にさせている状況であり、国民年金・厚生年金は任意加入制度にしてより選択肢を増やした方が国民の生活は豊かになるでしょう。
また上のような「偽装委託をしている企業」は「社員の手取りを増やすため」にやっているのではなく「会社の延命行為」として行っています。
ですので、上の図のように「皆ハッピー!」という事は全く無く、
元社員へは給料支給総額自体も減り、渡される金額は同じか減っているのが悲しい現実・実態ですね。
(そうでないと税務調査からの年金事務所などで通報されて結局強制加入させられる可能性が高いため)
質問者:
なんだか今回はいつもの政治・経済の話とは違って“裏話“に近い話ですね……。
筆者:
エッセイではマクロな話ばかりですが、普段はこういう個別・具体的な経営・財務状況の改善方法と言ったミクロなことしかむしろしていませんからね……。
◇どうしてこんな内容が受賞してしまったのか?
質問者:
しかしこんな「禁じ手」に近いアイディアが内閣府のコンテストで優秀賞なのは意外過ぎます。
しかも実態は給料が増える理想的な話ではなく、コストカットのために行われているじゃないですか……。
筆者:
内閣府は、「批判があることも承知をしています」としつつも、「自由な発想や斬新性を重視」して優勝に選んだと説明しています。
まぁ、正直内閣府でこの賞に携わった人たちは包括的に見ることが出来ず「他で言われていない! 画期的だ!」ということで受賞させたのだと思います。
そりゃ、「偽装委託」のスキームについて堂々と発表している人なんていませんからねある意味画期的でしょうね(笑)。
厚生労働省や財務省の懸賞論文ならまず書類選考で速攻で落選する内容だと思いますね(笑)。
質問者:
内閣府のお役人の方々は世間を知らなさすぎるという事ですか……。
筆者:
また内閣府ではこのコンテストについて、
『コンテストの目的はあくまで人材育成で自由な発想、アイデアを出してもらって組織の活性化に繋げることです。これが政策的に何か繋がっていくというのは、現時点では特に考えておりません』
としています。
ただ現実は組織の活性化どころではなく衰退・消滅途上の会社が「延命目的の最終手段」でやっていることをよく内閣府の方々は知っていただきたいですね。
◇このスキームは「保険料負担の逆進性」が影響している
質問者:
こんな方法が陰ではまかり通っているという事はそれだけ保険料の負担が大きいという事なんですか?
筆者:
そうなりますね。
社会保険料や消費税(給料だと消費税控除適用外だが業務委託だと消費税控除適用になる)は正社員の不安定化を促進しているという事を如実に示していると僕は思います。
特に中小企業では労使折半の負担があまりにも大きすぎて、
こういう「禁じ手」を使わなければ企業は存続できないのが現実です。
そして、「保険料を負担しなくていい」とトレードオフの関係にある雇用の不安定化は信頼関係で構築されていなければ企業としては雇用の調整弁として扱っていくことは間違いないので、この手法は広く知らしめるものでは無いと僕は思いますね。
だから「禁じ手」に近いと僕は表現させてもらっているという事です。
質問者:
やはり年金システムの改善や抜本的な見直しをしなくてはいけないという事なのでしょうか?
筆者:
本来であれば、人口減少分は国債で補填することや社会保険料が低賃金帯が減額になることが理想なのですが、
累進制度で高額所得者ほど厳しくなったり、外注にも社会保険料適用になると言った制度の見直しではいよいよ日本は「保険料で沈む」という事になるでしょう。
今までも社会保険料は上がり続け、年金はカットされている現状を見ても悲観的に捉えざるを得ないですからね。
質問者:
政府は社会問題を盾に更に国民を奈落の底に落とす「実質増税」ばかりをやっている印象がありますからね……。
筆者:
今後懸念されることとしてはどこの企業にも所属していない「事実上の業務委託契約」である「ジョブ型雇用」などと言う体の良い名前に変わってしまうということです。
この「偽装委託」手法が利益が出ている会社ですら事実上使われていくのではないか? と言うことです。
内閣府もオトボケで世間知らずと言う可能性がある一方、綿密かつ計画的に国民に対して「企業も社会保障の支払いが厳しいならジョブ型雇用へ」と言った方向性を刷り込ませようとしているのかもしれません。
企業は利益を上げるためにはまず給料どうやってカットするのか? そこに注力しています。株価が天井知らずのアメリカのビックテックすらも何万人規模でリストラをしたりしているぐらいですからね。(海外ではジョブ型雇用が当たり前のようにやられている)
質問者:
「偽装委託」はこれまで赤字企業が苦し紛れにやっていたことを、
今後は黒字企業すらも利益を上げるために「ジョブ型雇用」と言った形で合法的にやろうという事ですか……。
筆者:
ですから僕はジョブ型雇用には全面的に反対と言う形をとっています。
極一部の有能な人以外は「事実上の賃下げ」と間違いなく言っていいですからね。
より弱肉強食の厳しい世界に人々を叩き落としたいのだと思います。
まぁ、現在の終身雇用の名残みたいなのが残っているのでそこに完全に移行するまでには時間がかかるとは思いますけどね。
でも、退職金がカットされたり45歳定年などが囁かれているので長期的なスパンで見ていけば必ずそう言う方向性になると思います。
ただ、企業をいくら儲けさせても国内に循環しないことはアベノミクス以降で十分分かったことだと思います。やはり個々人の負担を軽くする方法について話し合わなければ日本に未来は無いと思いますね。
質問者:
結局個人で使えるお金が増えなければ「賃上げ」を訴えても無意味ですし、
企業は色々な手法で給料をカットしようとしてくるわけですからね……。
筆者:
そうなんですよ。
「賃上げ」と言うのもあくまでも「これまでと同じ雇用体系なら」という前提の下であって雇用体系が抜本的に変われば結局のところコストカットになるだけですからね。
それだけは本当に避けなければいけないと思いますね。
社会保障と消費税は本当に害悪としか言いようがないと思います。
という事でここまでご覧いただきありがとうございました。
今回は内閣府「賃上げアイデアコンテスト」は現状は「禁じ手」であり、将来的には「ジョブ型雇用」への移行への道筋であり、それは実質的な賃下げであるために避けなければならないという事をお伝えさせていただきました。
いつも皆さんがご覧いただいていることで励みになっています。
今後もこのような時事問題や政治・経済、マスコミの問題について個人的な解説をしていきますのでどうぞご覧ください。