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20/21

過ち

 何故この男は息子の友人として存在するのか?


《まさか… いったい、なにを企んでいるんだ?・・・》



 江崎の父、裕太郎が田神の事を調べ始めたのは、田神の父、和秀がこの世を去る数ヶ月前の事だった。

 大学時代からとなると、息子達の交友はもう十年にもなる。

 これだけ長い期間、何も無いということは、あるいは本当にただの偶然であるのかもしれない。しかし裕太郎の疑念は晴れなかった。


『もとはと言えば、あいつが彼女を奪ったからだ…』

 自分を正当化する言葉としては適切ではない。二人が一緒になったのは、自分が彼女と別れた後の事なのだから…。

 しかも裕太郎自身は別の女性と結婚していた。自分の意志とは関係なかったからとはいえ、本来なら文句の言える立場ではない。

 自分が酷い事をしたというのはわかっていた。ほとんど逆恨みと言っていいことも…。

 仕返しされたとしても仕方がないとも思う。

 ただ、何の罪もない息子達に危害が加わるのはなんとしても避けたい。そう思うのが親心である。


「驚いたな…」

 机の上には数枚の写真と、いくつかの資料があった。

 全てに目を通したわけではない。裕太郎が知りたかったのは、自分が手を汚して後の彼の事だったから…

 それゆえ、裕太郎は見落としていた。彼の出生に隠されたその事実を…

 後に、それに目を通していれば、あるいは回復できたかもしれない友情を思い浮かべて裕太郎は涙する事となる。


 噂では聞いた事がある。さすがに江崎コーポレーションの社長ともなれば交友関係は広い。

 いろいろな話題が飛び交う中、何度か聞いた事のある噂の中にその人物は登場していた。


《まさか、噂の人物が実在し、しかも息子の友人の中にいるとはな…》

 悪い噂であれば、そんな奴とは付き合うなの一言で済ませられたかもしれない。

 しかし、良い噂とは言えないまでも『シュウ』に関する話を聞いて、彼を悪く言う者は一人もいなかった。

 裕太郎自身、どちらかといえばその人物に好感が持てると思っていたほどである。

 もちろん、実在しているなどとは考えた事も無い。

 だいたいバカバカしいではないか?どこの世界にたった一人で200人規模の族を壊滅させられる奴がいるものか!

 せいぜい10人やそこらの走り屋とのいざこざがせきの山である。

 しかし、実際には違っていた。200人規模の族と『シュウ』なる人物とのケンカは実在したという。

 補導されたその族のメンバーの証言に嘘がなければの事ではあるが、そんな話をデッチ上げて彼等に何の得があるというのだろう?

 それら、噂の『シュウ』が彼とイコールだとも思えないが、彼が『シュウ』と呼ばれていたことは間違いない。

 どこでどう調べられたのか…。2年ほど前に起こった事件の事も資料には書かれていた。

 さすがに銃弾を避けたとまでは書かれていなかったが…


 裕太郎が手を汚す以前に、彼は父の元から離れている。あるいは、自分のした事を彼は知らないのかもしれない。

 彼が噂の『シュウ』であればなおさら、いままで復讐が無いことなど有り得ないではないか…


 彼が勤める会社は、丸山の息子と同じ…。ごくありふれた製造業を営む会社である。

 特に出世している訳でもない。会社にコネがあるというわけでもない。

 自分のように、力を得るまで時期を待つと言う事も無いだろう。


「結局、何も無し…か…」

 手に持った資料を机の上に放り、裕太郎は呟いた。

 調べてみた結果、彼が『シュウ』である事以外に、問題は見当たらなかった。

 復讐を考えているようなそぶりは一つも無い。

 それどころか、息子や娘が彼に世話になっていた事がわかったほどだ。

 美咲の件で、彼が奔走していた事も調書には書かれていた。

 裕太郎は美咲の過去を知っていた。当然と言えば当然の事なのだが、裕太郎が知っているという事を息子は知らない。

 単に風俗に勤めていたというだけであれば、手切れ金を渡して追い出していただろう。

 しかし、さらに過去まで遡り調べた結果、彼女がどれだけ大変な苦労をしてきたのかと言う事を裕太郎は知ったのである。

 体を売るしか他に方法がなかったということも…。

 確かに、息子の妻が元風俗嬢と評されるのは面白くない。将来、息子の権威が失墜することになるやも知れぬ。

 しかし、それはそれで息子が考えれば良い事なのだ。自分のように無理やり結婚させられるより、自分で選んだ相手と一緒になるほうが、苦労のしがいもあろうというものである。


《あいつの息子が、息子の友人だと知った時にはさすがに肝を冷やしたがな…》

 まだ完全に安心できるわけではないが、どうやら何もなさそうだ…。

 そう結論付けて、裕太郎はその資料の束を引き出しにしまった。


―― * ――


『どうもこの度は…』

 喪主というものが、こんなにも辛いものだとは思ってもみなかった…

 母の葬儀の時は、座って頭を下げていただけだった。

 ただ…、ただ悲しみに耐えてさえいればよかった。


 祖父は健在だ。本来であれば、彼が喪主を勤めるべきところなのだが・・・


『順序が逆だ…。子供の葬儀の喪主など…やれんよ…』

 そう言って彼は喪主を辞退した。


『一番の親不孝だな…』

 そう、父が漏らしていた事がある。子が親よりも先に死ぬのは最悪の事であると…

 それまで、祖父の涙を田神は見た事が無かった。その彼が泣いている…。それだけで、田神は悲しくなった。

 ほとんどの事は葬儀屋に任せれば良いと思っていたのだが、予算は幾らなのか?葬儀はどの宗教で行うのか?受付はどうするか?何人規模になるのか?棺はどのタイプにするか?骨壷は?等など…。決めなくてはならない事は驚く程に多い。

 父が亡くなった日から通夜まで2日間、田神は寝る事ができないほど忙しく過ごしたように思う。

 慣れればもっと効率よくできるのかも知れないが、喪主などというものに慣れたいと思う人などいないだろう。


 通夜の晩、田神は棺の一番近くに立ち、焼香をする参列者の一人一人に頭を下げた。

 隣には和江が立ち、同じように頭を下げている。

 田神は彼女の事を見ながら昔の事を思い出していた。


―― * ――


 妹の和江は当初、母方の性『高橋』を名乗っていた。

 夫婦別性という制度は日本にはない。家族として暮らしてはいたが実のところ両親は法律上、夫婦ではなかったのだった。

 田神に次いで和江が小学校に上がったとき、兄妹なのに苗字が違う事で二人は苛められた。


『兄妹なのになんで苗字が違うんだよ!』

『どっちかがもらわれっ子なんだろ~』

『もらわれっ子、や~い!』

 特に妹が恰好のターゲットにされた。家の表札が『田神』だった事が大きな要因だが、妹のほうが苛めやすかったのだろう。

 秀雄は、なぜ自分が田神で妹が高橋なのか?その疑問を父にぶつけた。

 男同士、女同士の組み合わせだ…。そうとしか父は応えてくれなかったが、それがきっかけなのかどうかわからないが、翌年両親は婚姻を交わし正式に夫婦となった。

 妹は『田神和江』となり、苛めはそれ以降なくなった。


 高校3年の夏、田神は家を出た。母が亡くなってからの事だ。


『何でそこまで苦しまなきゃならないんだよ?』

 と、丸山が言った。

 丸山は絵美との事を知っていた。そして、まるで連鎖するかのように田神の母が亡くなった事も…。

 ほとんど同時に愛する人を二人失った辛さは、到底計り知れるものではない。


 田神は丸山に、


『今は…一人の方が楽なんだよ…』

 と言って渋々ながらも納得させた。『今は…』という言葉がなければ、その後も食い下がっていただろうと思う。


 田神はそれから働きながら学校に通う事になる。父は仕送りをしようとしたが、田神はそれを断った。

 それどころではないということがわかっていたから…。父の会社が倒産したのだから…。


 親戚の始めた会社に父は勤めていた。当時の社長は祖父の兄。父から言えば叔父にあたる。

 田神が幼い頃、父は叔父から会社を譲り受ける形で社長となった。別段問題もなく、業績が向上したからといって、手を広げる事も無く今までやってこれたのだったが、大手企業の進出により注文がガタっと減った。

 倒産といえども、経営破綻とは違う。

 早いうちから社員には経営状況を伝えており、その大手企業からの口利きもあって社員のほとんどは職を失う事無く転職する事が出来た。

 田神の父が、その大手企業に恨み言のひとつも言わなかった所以であろう。父は相手の社長に感謝すらしていたようだ。

 幸いに、田神家にも生活には困らない程度の資産が残った。

 恐らく、妹の学費を考えても十分だろう。父もまだ働ける。選り好みをしなければいくらでも働き口はあるだろう。

 家を出る時、丸山に言ったのと同じ理由を父に述べ、大学に入ったらどのみち家を出るつもりでいた事も告げた…


『そうか…』

 寂しそうに父が言い、『大学の入学金くらいは払わせろ。』と続けた。


『…わかった。ありがとう。』

 さすがに断わる事も出来ず、田神はそれをありがたく承諾した。

 恐らく、妹などには他人行儀に見えた事だろう。

 その通り、他人行儀だったのだから…。


 田神は知っていた。彼が自分の本当の父ではないということを…。

 自分がそれを知っていた事を、彼は気づいていたのだろうか?

 今となっては確かめる術も無い。

 しかしそんな事はどうでもいいことだった。自分の父は間違いなくあの人なのだから…

 それだけは、誓って間違いない事なのだから…。


―― * ――


 葬儀の最後の挨拶を済ませるまで、田神は悲しみに浸ることが無かった。

 唯一彼が涙をこらえたのは、最後の挨拶をする時に参列者の中に仲間達の姿を見た時だった。

 みんなが来てくれた事は、通夜に焼香をあげてくれたので知っていたが、葬儀にまで参列してくれていたとは知らなかったからである。

 普通なら、通夜と葬儀のどちらかに出席すれば、友人としての義理は果たした事になる。

 にも関わらず、全員が目の前に揃って立っているのを見た時、思わず涙が込み上げそうになった。

 嬉しさと、感謝の気持ちでいっぱいだった。最後の挨拶が心の篭ったものになったのは彼等のおかげかもしれない。


 葬儀の時、少しだけ気になった事があった。丸山の父親が、キョロキョロとしているのが目についたのだ。

 後で受付をやった人が言っていたが、誰かを探していたらしい。

 記帳をすこし見せてもらっていたという事も聞いている。

 いったい誰を探していたのだろう?


―― * ――


『馬鹿にするな。わしはまだそんなに老いぼれとらんぞ!』

 一人で大丈夫か?という田神の言葉に祖父が返した言葉がそれだった。

 父の葬儀のために取った休みの間、田神は実家で過ごした。

 休みの最後の日、祖父と夕食を取りながらの席の事である。


「お前がここに帰って来たいというなら別だが、わしの為にというのならけっこうだ。」

 別に、祖父が老いていて心配だからという訳で言った台詞ではない。

 そんなことは理解した上で言葉を返しているのだから、なお始末に終えない。


「まだまだ若い者には負けん…ですか?」

「なんなら、仕合うか?」

「それこそ、けっこうです…」

 80歳を当に越えているとはとても見えないほど、祖父は元気だった。

 父の分まで生きて、秀雄おまえの子供を見ないと気がすまない。そう祖父は言っている。

 言っても無駄だな…。そう思い、黙って食事をしていると祖父がポツリと言った。


「たまには…顔を出せ…」

 こちらを見ずに言う祖父に、田神は『あぁ…』とだけ答えた。


―― * ――


 40畳はあろうかというリビングに置かれたテーブルに二人は座っていた。

 テーブルの上にはメイドが用意したオードブルとワインが置かれている。

 久しぶりに友人と酒を酌み交わす…ただそれだけのことが裕太郎にはうれしい事だった。

 グラスにワインを注ぎ、乾杯をする。いつもであれば、小一時間もすると笑い声が聞こえるその部屋に笑い声は無い。

 彼がいつもとは少し違う雰囲気で現れた事を江崎は気づいたが、父は気づかなかったようだ。

 いや、気づいていたのかもしれない…


「そ…そんな…バカな!!」

 丸山義和の言葉を江崎裕太郎は頭を振って否定した。


 嘘だ・・・


 いったい自分は何て事をしてしまったのか。

 知らなかった・・・、まさかそんな事だとは・・・。


 呆然として、焦点の定まらない目をして裕太郎を、義和は胸になにか重いものを乗せられてかのような息苦しさを感じながら見つめていた。


 彼女を奪われた・・・そう思っていた・・・

 彼女が自分ではなく田神を選んだ・・・そう思っていた・・・

 辛かった・・・

 苦しかった・・・

 切なかった・・・


 愛する人と親友を同時に失った。そう思っていた・・・

 彼等の間に子が出来たと知った時のやりきれなさは、今も忘れられない。

 裏切られた・・・そう思う事で・・・


 二人を・・・憎んだ・・・


 だから、彼等を苦しめてやろうと思った・・・


 自分を苦しめた報いを受けさせてやろうと思った・・・

 そして・・・


 その力が備わった時、それを実行した。

 しかし・・・


 それが間違いであったとは・・・


 頭を抱えながら、裕太郎はどうしようもない罪悪感に襲われていた。

 しかも謝るべき相手は、二人とも既にこの世にいない。


 ひどい事をしてしまった。その後悔の念に裕太郎は押しつぶされそうだった。


「お前が・・・」

 やっとのことで、義和が口を開く。その声は悲しみに震えていた。


「お前が、田神の事を恨んでいるなんて・・・思わなかった。」

「・・・」


「それに・・・奈菜の事は知っていると思ってた・・・。そうと分かっていたら・・・」

 少なくとも自分は知っていた・・・。義和は、田神から一部始終を聞いて知っていたのだ。


 奈美と裕太郎が付き合っている時に田神も彼女の事が好きだと言う事は二人とも知っていた。


『それじゃぁ、俺が飽きたらお前に譲ってやるよ』

 奈美のいないところで交わした会話ではあるが、その時の和秀の返答は言葉ではなかった。

 いきなり江崎に殴りかかったのである。


『なっ…何すんだ!』

『ふざけんじゃねぇ!てめぇは言って良い事と悪いこともわかんねぇのか!』

 殴り返そうとした江崎は、その言葉で手を止めた。


『…すまん。…悪かった…』

 二度とこんな事は言わない…。神妙な顔をして江崎は誓った。

 彼女に対するお互いの気持ちを、その時3人は確認した。


 裕太郎が彼女と別れなければならない事は、江崎本人から聞いて丸山も田神も知っていた。

 父の反対を押し切る事がどうしても彼には出来なかったのだ。

 結果的に裕太郎を責める事になる為に田神は彼の父親に腹を立てた事を言わなかった。

 その時、彼女の事を知らなかったということもある。知っていれば江崎の家に怒鳴り込んでいた事だろう。

 現に田神はそれを知ってから裕太郎とその父に会いに行ったのだから・・・

 だからこそ・・・


 和秀が彼女と一緒になった事は、お互い承知しての事だと思っていた。

 事情が事情だけに、田神以外が彼女と一緒になることは、あの時点ではまず有り得なかったのだから…


 当然、その事は江崎も知っていると思っていたのに…


「奈菜の葬儀にも…今回もお前、出席しなかったろう?だから・・・おかしいと思ったんだ・・・」

 奈菜の葬儀の時、江崎は遠慮して来れなかったのだと思っていた。田神と、田神の息子に・・・。


 しかし、今回の葬儀に江崎が現れなかった事がひっかかった。もしかして・・・そう思って来てみれば案の定だ・・・

 頭を抱えたまま下を向く裕太郎を見て、溜息を漏らす。やりきれない思いは二人とも同じなのだ。


「もっと・・・もっと早くに、お前に話すべきだった・・・」

 義和も頭を抱えた。


 大学時代…彼らは3人でよくつるんでいた。

 江崎は家が金持ちであるが故に本当の友達を持てずにいたのだが、二人は江崎を普通の人として扱った。

 他の奴らが媚びへつらったり逆に脅したりするのに対し、彼らは普通に話し、普通に接した。

 そう…、まさしく今の子供等のように・・・。

 その内の二人が仲違いをしていた事に、何故自分は気づかなかったのだろうか?

 いや…仲違いという表現は正しくないのかもしれない…。一方的な誤解と言ったほうが正しいだろう。

 田神の工場が破綻したのは競争に負けたからだと丸山は信じていた。

 少なくとも田神はそう思っていた事を丸山は知っている。田神は江崎を恨むどころか感謝さえしていた。

 彼の会社で働いていたほとんどの社員は、江崎の会社が受け入れてくれていたのだから…。


 だが、それは江崎の感情によって故意に行われたものであった。

 そして・・・

 全ては、誤解であった・・・


「あいつは…田神は誤解されたまま…」

 義和は再びため息を漏らす。


「俺は…俺は彼等になんて詫びればいいんだ?」

 裕太郎が消え入るような声で言った。


「一体どうやって詫びたら…」

 テーブルの上の酒と肴は、一向に減る事は無く・・・

 沈黙のまま、時は過ぎていった。


―― * ――


『そ…そんな…バカな!!』

 その声の大きさに、リビングのドアを開けようとした江崎は手を止めた。

 リビングには、丸山の父が江崎の父を訪ねてきていた。丸山の父は父の古い友人であった。

 それを知ったのは、つい最近の事である。



「俺の息子だ」

「どうも始めまして」

「広太君だったかな?息子から話は聞いてるよ!」

「えっ?」

 驚いたのは江崎親子だった。


 名前を聞いて、すぐさま仲間の一人の父親だという事がわかった。

 しかし、なんという偶然だろうか?


 丸山とは大学からの付き合いだ。高校に比べ大学のほうが選択の範囲が広がる。

 たとえ同じ大学にいたとしても知り合わない事もあり得る。

 ましてや、父親同士が友人と言う事を知らず、子供同士が友人になるとはなんというめぐり合わせだろうか…


「なんだ、息子同士も友達か!」

「田神の息子もそうらしいぞ?」

「…そ…そうか…」


 あの時…

 一瞬、父の表情が曇ったように見えたのは、気のせいではなかった事をこの時初めて江崎は知った。


《親父は…、田神の親父さんに…、何かしたんだ…何か酷いことを…》


「どうかしたの?」

 寝室に戻ると同時に心配そうな美咲の声に江崎はハッとした。


「いや…なんでも…」

 作り笑いをして、まだ親父達飲んでるよ。とだけ言うと、ベットに潜り込む。

 ベットに入った江崎の背中に、美咲が心配そうに寄り添った。

 江崎の呼吸が一定のリズムを刻んでいる事に少しだけ安心を感じて、美咲は目を閉じる。


《いったい…何をしたんだ?》

 田神の父の葬儀からまだ3日と経っていない。

 義和の突然の訪問と、そしてその表情は江崎の心に暗い影を落した。


 父親同士の問題ではある。しかし、それが自分達の関係にどのように影響するのか?

 漠然とした不安が心の片隅にあった。

 部屋の壁を見つめ、美咲を気にしながらそっと溜息を漏らす。

 考えたところで答えが得られるわけでもない…

 江崎は考えるのをやめて目を閉じた。

 背中には、彼女の寝息が聞こえていた。





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