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第6話 迎賓館の大改造

「面白そうじゃないか」


 シンは楽しそうに、そう答えた。


「面白そう?」

「ああ、俺は生まれてこの方、面白いことを優先的に生きてきたんだ。親父の会社は、上手くいってる。姉貴が親父を助けて、堅実に会社を大きくしていくだろう。その上、親父は領主も兼任している。親父の跡を継げば楽かもしれないけど、面白くないだろう。だから、ずっと面白いことを探してたんだよ。あの日も、誰も知らない綺麗な砂浜があるって言うんで、面白いことがないか行ってみたら、あんたがいた。運命だと思ったね。人間なんてめったにいないから、面白いと思った。それもいい匂いがする美しい女だ。だから、あんたに興味が湧いた」

「興味が……」

「まあ、そんなわけで、マリー、あんたが何をするためにここに来て、何がしたいのか知りたかったのさ。そうすると、保育園って、聞いたこともない物を作りたいというじゃないか。それがどんな物か? 面白いのか、儲かるかやってみないと分からない。だったら、やってみようぜ。失敗したら失敗したときのことだ。やり直せば良いだけじゃないか」


 マリーは出会って初めて、シンの本心を聞いた気がする。おそらく、シンなりに自分の人生を模索していたのだろう。父親とは違う自分だけの人生を。そのきっかけとして、たまたまマリーとの出会いを利用しようと考えている。

 なぜか悪役令嬢と言われた自分を利用しようなど、百年早い。だったら、こちらも利用させていただきますわと、マリーの記憶がささやく。

 それにしても、失敗したら失敗したの時だって言うのは、ポジティブ坊ちゃんの考えそうなことだと思いながらも、自分もそこまで割り切れれば、良かったのかとこれまでの自分の人生を思い返してしまう。


「そう、あなたの考えはわかったわ。じゃあ私は私の好きなようにさせてもらうわよ」

「いいぜ。俺は俺の好きなように協力させてもらうから」

「望むところよ」

 

 そう言って、マリーはシンとがっちり握手をした。

 こうして、マリーは晴れて保育園を作るために、まず屋敷と庭の隅々まで確認して、保育園改造計画を打ち出した。

 屋敷にある絵画や装飾品などは売ってしまい、そのお金を元手に、子ども達の怪我の原因になりそうなものを取り除き、遊具を設置する。

 そして、ピアノや本棚、棚など配置するように計画を始めた。


 シンは知り合いの大工を保育園 (仮)に呼ぶと、マリーはさっそく真理として働いていた保育園を基に、改造を指示を出し始めた。

 猿獣人の親方は手と尻尾を上手く使いながら、図面に指示を書き込み、親方は不思議そうにマリーに尋ねた。


「嬢ちゃんの指示はわかったが、ここで何をするつもりなんだ?」


 元々この屋敷を建てた親方らしく、今回のリフォームに疑問があるのは当然だろう。

 マリーは順番を間違えた。彼らはプロなんだから、指示の内容がわかっても目的がわからないと、提案も出来ない上、間違った作業をするかもしれない。でも、彼らに保育園だと言っても分からない。

 保育園ってどんなところだっけ? どんな保育園を作りたいのだろうか? マリーは自問自答して一つの答えを出した。


「ここを子供の楽園にするんです。親が仕事をしているあいだ、子ども達がここに集まって、勉強したり、遊んだりして楽しく過ごせる場所を作りたいんです」

「子供の楽園だー!!」


 白髪交じりの親方は手を、いや尻尾も止めてマリーをギロリと睨んだ。

 大事なお客を招いたり、パーティをするために造ったはずの大人の社交場を、子供の楽園にリフォームすると言うのだから、文句の一つも出よう。

 親方は頭に付けていたねじりはちまきを取り外して、他の職人を呼んだ。


「おい、お前ら! 作業は中止だ!」

「ちょっと、親方」

「うるせい! 初めにそのことを言わなかったあんたが、悪いんだろうが!」

「すみません」


 マリーは素直に頭を下げた。仕事をする基本は報連相。話をして相互理解無しに、良い仕事は出来ない。転生アンド追放ですっかり忘れていた。


「私の説明が足りなかったのは、私のミスです。もう一度、話しを聞いてくれませんか?」

「話しなんぞ聞く必要は無い。おーい、集まったな」

「親方!」

「ちょっと黙ってくれるか?」

「でも……」

「マリー、ちょっと待ってな」

「でも……」

「いいから」


 作業を止めて集まる職人達に立つ親方に、言い訳をしようとしたマリーを止めたのはシンだった。

 いいからと言われても、言わないことには伝わらない。

 マリーが言い訳をしようとする前に、親方が職人に話をし始めた。


「お前ら、ここは子供の楽園になるらしいぞ」

「おい、親方、そんな話、初めて聞いたぞ」

「なんで、そんなことをいまさら言うんだ!」


 職人達から不満が吹き出した。当たり前だろう。高貴な人間のために造られてた建物を、子供のために造り変えるというのだ。職人のプライドが許さないのだろう。

 職人たちは図面を前に、額にしわを寄せながら話し始めた。


「だったら。この扉は重すぎだろう。子供じゃ、開けられないぞ」

「こっちも子供が怪我したらどうするんだ?」

「だからって、子供がワクワクしない建物なんて、くそ食らえだぞ」


 職人たちは、各々のアイデアを口々に言い始めたのを、マリーは暖かい気持ちで見守るしかなかった。

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