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第40話 海神様

「ロマンチックな話ね」

「まあ、大昔の話だからどこまで本当か知らないが、神様がいた時代から、捨て人は定期的にこの地にやって来てたんだとさ」


 シンがそう教えてくれた。

 そして、カイエンが付け加える。


「まあ、女性の捨て人は珍しいから、海神様も気に入ったのかもな。マリーも美しいから、海神様に見初められないように気を付けないとな」


 さらりと、美しいと言って来るところが、カイエンの大人の余裕なのだろなとマリーは思った。しかし、カイエンの相手はクロエなのだから、そんな言葉はクロエに言ってあげるべきじゃないかとも思った。

 クロエとカイエンの関係を見ていると、クロエがすごくカイエンに積極的だ。カイエンの話では、クロエをデートに誘っても断られると言っていたが、そんな風には見えなかった。逆にカイエンのことを好きなように見える。おそらく、デートを断っているのは、クロエが恥ずかしがっているだけに違いないとマリーは結論付けた。

 もちろん、クロエのそんな行動は、マリーとカイエンを引き離そうとするあまり、カイエンの注意を自分に引き付けようとしているしているだけなのだった。

 カイエンがマリーにちょっかいをかけ、クロエがそれを阻止しようとする。それは傍目に見ると、クロエがカイエンにアピールしているように見えるのだった。

 マリーはそんなクロエの気持ちを勘違いして、クロエの恋の応援をしようと、カイエンに話しかけるから、よけいにややっこしい状態になっていた。自分の恋がダメならば、せめてクロエの恋だけでもと……

 そんな気持ちが、マリーの心を落ち着かせ、シンとの距離感も普通に戻っていった。友人であり、恩人であり、仕事仲間として。

 しかし、シンはこの祭りを機に、マリーとの仲を一歩進ませたいと考えていた。

 こうして、おかしな四角関係のまま、何の進展もなく祭りは終盤へと進んで行った。


 この祭りのメインイベント。

 海龍族による噴水。

 カイエンは、主催者としてマリーたちと離れ、舞台の上に立っていた。これから海神祭の締めくくりとなる、このイベントの始まりの合図を行った。

 すると、海中から数多くの水柱が上がり、それは音楽に合わせて、規則正しく高くなったり低くなったりして、美しい立体芸術となる。

 その水柱を夕日のオレンジと瑠璃色の空が彩り、まるで一枚の絵画のようだった。

 飛び散る水しぶきさえ美しく、まるで花火を見ているようだ。

 マリーは感動の声を上げるのも忘れて見ていると、あっという間に終わってしまった。

 楽しい時間はあっという間だと、マリーが余韻に浸っていると、シンが話しかけてきた。


「さあ、最後にみんなで歌を歌うって、お祭りは終わりだ」

「歌って、何の歌?」

「エターナルラブって歌を知ってるか? 伝説の女性が海神様にささげた歌なんだよ」

「え、そうなの。その歌なら知ってるわ。有名な曲よ」

「だったら、マリーもほら」


 三大歌姫のリードで全ての民の声が一つの歌となり、大きなうねりを生む。

 それは、大昔からある、永遠の愛を誓う歌。結婚式のどこかで歌われるほどの歌で、この曲を知らない人は、三歳児以下だと馬鹿にされるほどだ。

 ある王族の美しい姫が、庭師の青年と恋に落ち、全てを捨てて二人で永遠の愛を誓う歌である。

 この歌はマリーも好きで、小さい頃はルイス王子とこの歌のような恋に落ちるのだと、夢見ていた。

 しかし、今はこの歌を、シンを想い歌っている。

 歌とは反対だが、身分の違いの恋。

(私の恋は実ることはないけれど、せめてこの想いを吐き出させて)

 そんなマリーの気持ちを乗せた歌がクライマックスになったとき、異変が起きたのだった。

 先ほどまで穏やかだった海が、急に荒れ始め、先ほどの海龍族の噴水など比べ物にならない、巨大な水柱が立ったかと思うと、そこには龍が現れたのだった。


 真理記憶にある、龍、辰である。蛇のように長い体に比べて小さな腕、長いひげに神々しい角を持った龍が現れたのだった。

 それを見たシンが叫んだ。


「海神様だ!」


 その声を皮切りに、パニックに陥りそうになった群衆が、龍に向かって祈り始めたのだった。


「おお、海神様、怒りをお鎮めください」


 そんな中、海の民の長でもあるカイエンは海神様に対して言った。


「海神様、百年以上、御隠れになっていたのに、どうかされたのでしょうか? 今年の海神祭になにがご無礼あったのでしょうか? ご無礼があったのであれば、責任者である私の命でお収めいただけないでしょうか?」


 有事に民を守ることが使命だと教えられてきたカイエンは、贖いようのないこの状況を打開すべく、自らが盾になることを即座に選んだのだった。

 そして、マリーをその自らの後ろに守りながらシンは、状況を見守るしかなかった。

 すると、カイエンの言葉に厳かな声が聞こえた。


『歌が、歌が聞こえた』

「歌でございますか?」

『歌だ、我妻の歌が……」


 当然、この歌は海神様の妻になった捨て人の女性が、海神様にささげた歌である。その歌を海神様の妻の歌というのは当たり前だろう。そして、海神祭の最後は、毎年この歌を歌ってフィナーレである。今年初めて歌ったものではない。それなのに、今年に限って、歌が聞こえたと海神様は言ったのだ。


『妻はどこだ?』


 そう言って、海神様はその首を右に左に振り、誰かを探しているようだった。

 捨て人の女性が海神様の妻になったのは百年以上前である。普通の人間であるその女性が、すでに生きているとは考えにくい。

 そうであれば、誰かと勘違いしているに違いない。

 そう考えたカイエンは、海神様の誤解を解こうと考えたのだった。


「海神様、あなた様の奥方はここにはおられません。どうぞ、海へお帰りください」

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