第39話 海神祭について
「ダブルデート?」
マリーの提案に、まず声を上げたのがカイエンだった。カイエンは、その提案に乗るかどうか思案する。
クロエと二人っきりでデートができる、せっかくのチャンス。しかし、弟分であるシンの相手にも興味がある。
そして、マリーの提案にカイエンはある違和感を覚えていた。それを確認するために、マリーに質問した。
「なあ、マリー、好きなタイプの男性は?」
「え!? 急になんですか?」
「良いから」
「そうですね。いつも明るくて、元気で、困ったときに助けてくれる優しい人ですね」
シンはどんな時も明るく、マリーがこの地に流されて落ち込んでいた時も元気で、トレーシーに嫌がらせをされた時には体を張って守ってくれた優しい男性だ。
しかし困ったことに、マリーが言った特徴は、大体の男性が自分に当てはまると考える特徴だった。
当然、カイエンは勘違いした。
この娘は、俺に惚れている。それはモテ男であるカイエンだからこそ、断定してしまったのだ。
そして、クロエがいつもと違う態度を示すのは、マリーがカイエンに話しかけてからだ。
そこで、カイエンが導き出した答えはこうだ。
マリーはカイエンに惚れている。それをクロエも知っている。知り合いであるマリーがカイエンに気があると分かったとき、クロエに嫉妬の心が芽生え、カイエンへの恋心を自覚した。
つまり、カイエンは、自分が適度にマリーに交流することにより、クロエの嫉妬心が燃え上がり、クロエとの仲が進展する……と。
カイエンがこの結果にたどり着くまで、1秒を切っていた。
「マリー、ダブルデートをしようじゃないか!」
「え、カイエン様」
「何か問題か? クロエ。俺と二人っきりでいるよりも、シンと一緒にいる方が安心だろう。なぜか俺とのデートをいつも断るくらいだから、な」
「それは……」
カイエンからの誘いを、冷たくあしらってきたツケが、ここに来て回ってきたのだった。
クロエとしては、ダブルデートなら、と断ることもできる。しかし、その場合、カイエンが二人にくっついていく可能性もある。
そのため、クロエには断るという選択肢はなかった。シンのためにも。
そして、クロエはこの提案をシンがどう思っているのか、心配していると、シンは明るい声で答えた。
「じゃあ、四人で行こうか。どこから回る?」
「どこから回ってもいいが、俺は夕方には戻らなきゃいけないからな」
カイエンはそう言うと、さっそくクロエの手を取ってエスコートする。
その姿は優雅にして力強く、そして慣れている。
それをマリーはうらやましそうに見ていた。
「どうかしたか? 大丈夫か?」
そんなマリーの気持ちに気が付かずに、シンは声をかけた。
そんなシンを見て、マリーは思った。カイエンのようにスマートにエスコートは出来ない。でも素直に人のことを気遣ってくれる。そんな人だからこそ、心惹かれるのだと、自覚する。
この人が好きなのだと。
しかし、マリーはクロエの言葉を思いだした。
『相手の気持ちと立場を考えて』
シンは、領主家の跡取りである。見た目も良く、人当たりも良い。そのうち、どこか良家の娘と結婚することになるだろう。
だから、それまでは、シンの仕事のパートナーとしてふるまおう。マリーはその決意を胸に、シンに笑いかけた。
「大丈夫よ、私たちも行きましょう」
そう言って、シンの手を取ると、クロエたちの後を追って、歩き始めた。
~*~*~
ダブルデートは楽しかった。
初めてのお祭りのマリーに、三人が色々と説明をしてくれた。
このお祭りは海の民が、空の民、地の民と協力し始めたことを祝うお祭りでもある。
大昔は、三つの民は住む場所を分けて、お互いに干渉しないように生きてきた。しかし、獣人たちが増え、住む場所が近かった空の民と地の民が緩やかに一緒に暮らすようになった。しかし海の民は、その広大な生活範囲から他の民と協力する必要がなかった。食料も豊富にある。地の民と空の民と協力する必要などない。海の民はそう考えていた。
しかし、そのうち捨て人がやってくるようになると、彼らの文化や知識が地の民に伝えられ、空の民にも伝えられるようになった。
そうすれば、海の民との文化の差が広がっていく。
それでも、海の民は生活に困るような事は無かったため、他の民と交流を持たなかった。
そんな時、ある捨て人がやって来た。
その捨て人は美しい女性だった。船の上で故郷があるであろう方向を眺めている姿は、まるで女神のようだった。
そんな彼女を海の神様である海神様が見ていたのだった。海神様は一目でその女性に心を奪われてしまったのだが、女性は他の捨て人同様、他の民の街に受け入れられていった。
海神様は、自らの立場とその女性の立場を考え、あきらめることにしたのだった。
それからしばらくして、地上では大きな飢饉が起きた。雨が降らず、作物が育たなかったのだ。
地上には食料がない。しかし、ひとたび海に潜れば豊富に魚たちがいる。しかし、魚たちは海の民の物である。
他の民は、海の民に助けを求めた。
しかし、元々交流が無い者たち。その上、海の民に何のメリットもないと、その助けを断った。
その時、あの美しい女性が現れた。
『助けてもらったみんなに私は何の恩返しもできない。私が持っているのはこの歌声だけ。歌を持たない海の民に、この身も歌声もささげるので、どうか助けてもらえないでしょうか?』
そう言って、美しい歌声を奏で始めた。
その歌声は、海の民はもちろん、想いを封印していた海神様にも届いたのだった。
海神様は、その女性を妻にすることを条件に、海の民に他の民と協力させると約束したのだった。
海の民にとって、海神様は絶対だった。海神様の機嫌を損ねれば、海は荒れ、自分たちの身に危険が及ぶ。その海神様が、海の平和を約束してくれる上に、歌を教えてもらえるというのだ。
こうして海の民は、他の民と協力することにしたのだった。
そして、女性は海神様の妻となり、二人は海のどこかに消えていった。
それから、毎年この日を海神祭として、歌を奉納するようになったのだという。




