第38話 マリーの提案
「それで、シン坊。この女性を紹介してくれないか?」
カイエンは、三人のやり取りをぽかんと聞いていたマリーに注意を向けた。
カイエンがマリーに注意が向かないようにクロエは二人の間に立っていたのだが、逆にそれがカイエンの注意をひいてしまった。
シンはそんなクロエの行動に全く気が付かなく、嬉しそうにマリーをカイエンに紹介し始めた。
「カイエン兄さん、こっちはマリー。今、俺、マリーと一緒に働いているんだ」
「ほーう、そう……え!? 今なんて言った?」
カイエンは、その端正な顔に驚きの表情を浮かべて聞き直した。
イケメンは驚いてもイケメンなんだなと、マリーは思いながらも、シンが働いていることに驚いているその姿に不快感が湧いてくる。
「シンは私と一緒に保育園で働いています。りっぱな保育士として」
マリーは、シンの名誉を回復するために、カイエンにまっすぐ向かって言った。
そんなマリーに対して、クロエは思った。
(マリー様、カイエン様にアピールしようとして、健気。でも、シン様のためにも、ここは心を鬼にして、マリー様とカイエン様を引き離さないと……)
クロエは、すっとマリーとカイエンの間に入るように、マリーに声をかけた。
「マリー様、シン様とデート中ですよね。ほら、シン様の手が水滴でびっしょりですよ」
クロエは、シンが両手に持っているレモネードスカッシュを指摘する。
それに気が付いたマリーは慌ててハンカチを取り出した。
「ごめんなさい、気が付かなくて。冷たかったでしょう」
そう言って、マリーはシンの手を拭こうと、触れた瞬間、好きな人に触れたという事実に気が付いてしまい。瞬間的に手を引いた。
その行動に驚いたシン以上に驚いたのは、マリー自身だった。
それまでは、シンに触れることに何の躊躇もなかった。一緒の家に住み、一緒の職場で働けば、接触の機会など山ほどある。
それが急に、こんな態度を取っては、シンに気持ちがばれてしまう。
マリーは落ち着かせるように、ひとつ深呼吸すると、シンに笑いかけた。
「ごめんなさい、思ったより冷たくてびっくりしたのよ。それ、両方とも持っておくから、濡れた手を拭いてね」
「そうか、そんなに冷たかったか。ハンカチありがとう」
マリーから渡されたハンカチで手をふくシンに、カイエンは話しかけた。
「それで、なんで人間と一緒に働いているんだ? あと保育園ってなんだ?」
「捨て人だったマリーを拾ったら、保育園を造りたいって言うから作った」
「捨て人? あの時、船から降ろされたのが、この子だったのか?」
カイエンは、興味深そうにマリーをまじまじと見ながら、右手を顎に当てて何かを思い出しているようだった。
そんなカイエンに、シンは驚いたように言った。
「カイエン兄さん、マリーが捨てられた時、見てたの?」
「まあ、この子って言うよりも、船の方を見てたんだ。見慣れない船だったからな」
「ああ、カイエン兄さんは海の守りをになってるから、船の監視してたのか」
「まあな……それで、保育園って言うのは何だ?」
「保育園と言うのは、子供たちを保護して、育てる場所です。そこで、子供たちは友達を作り、色々なことを学ぶ場所。そして、その間、ママたちはひととき、育児から解放されてリフレッシュをしたり、家事や仕事に集中できるのです」
シンの代わりに、マリーが保育園の説明をする。
それは、いつもシンの説明が端的で、あまりにも説明不足のため誤解を生む。これから、海の民の子たちにも保育園に来て欲しい。そんな気持ちで、マリーは説明を買って出たのだった。
そんなマリーをカイエンは興味深そうに見ていた。
「ほう、子供を預かる仕事か。そこでシンも一緒に働いているのか。興味深い」
「ええ、シンも立派な保育士よ。もう、あなたたちの知っているシンとは違うんです」
「そうか、あのシン坊が……」
マリーとカイエンはにらみ合うように顔を合わせていた。
その二人の様子に慌てたのはクロエだった。
カイエンがマリーに興味を持てば、シンに勝ち目などない。
クロエは、自分の身を犠牲にすることにした。
「カイエン様、お時間があるのであれば、私と一緒に回りませんか?」
「クロエ! なんと、やっとその気になってくれたか! これまで何度誘ってもつれない態度だったのに」
クロエの言葉に、カイエンは嬉しそうに細く美しいクロエの手を握りしめた。
これまで、幾度となくカイエンがクロエをデートに誘っても、シンのお世話があるからと断られ続けていたのだった。
先ほど、カイエンがクロエに声をかけたのも、クロエをデートに誘うつもりだったからだ。
そんなカイエンとクロエの姿を見て、マリーは気が付いた。
カイエンもクロエもお互い思い合っているにも関わらず、お互いの立場のため素直になれない。
クロエにはシン以上にお世話になっている。だから、クロエには幸せになって欲しい。マリーは、二人の恋の手助けをしたいと思った。
そして、今、マリーにとってシンと二人っきりでいることは刺激が強すぎるとも感じた結果、二人にある提案をした。
「クロエ、カイエン様、ダブルデートをしませんか?」




