第33話 マリーとブリュレクレーププリン
「ごちそうさまでした」
マリーが全て食べ終えた後、なぜかずっと見ていたクロエが涎をたらさんばかりのうっとりした表情で、『ごちそうさま』を言ったのだった。
結局、最後までシンがマリーに食べさせたのだった。それをじっとクロエが見ていたので、マリーは何事かと気になったが、料理のおいしさと人に食べさせてもらうと言う、なかなか受けられない経験を甘受することにした。
「ありがとう、シン、クロエ。ごちそうさまでした。美味しかったわ」
「お腹いっぱいになったか? デザートもあるぞ」
シンは食器を片付けながら、マリーに尋ねた。
先ほどの食事で十分、お腹は満たされていた。しかし、クロエの作るデザートを考えると断ると言う選択肢はなかった。
「いただくわ。ちなみにデザートは何?」
「ブリュレクレーププリンです」
「え!?」
クロエの言葉にマリーは驚きの声を上げた。
ブリュレもわかる。焼き砂糖。
クレープはわかる。滑らかで全てを包み込む薄いパンケーキ。
プリンもわかる。卵と牛乳と砂糖の魔法。
それを組み合わせる至高のデザート。
当然、マリーの記憶にはない。真理の記憶でも最近の記憶だが、食べた記憶はない。
あ然としているマリーに向かって、クロエは心配そうに尋ねた。
「お嫌いですか?」
「いや、好きも嫌いも、食べたことないわ。食べたい!」
「おお、元気が出てきたみたいだな、マリー。クロエ、ぶるんクレープンプンを至急持って来てくれ」
目を輝かせて、クロエにデザートをリクエストしたマリーを見て、シンも元気が出たように言った。
「分かりました、シン様。ぶるんクレープンプンでよろしいですね」
「ちょっと、待って。そんな変な名前じゃなくて、ブリュレクレーププリンをお願い」
「分かりました。それでは準備をしますので、その間、シン様とイチャイチャしていてください」
そう言って、クロエは部屋を出て行くと、マリーとシンが残されてしまった。
シンは、ベッドから出ようとしたマリーを押し戻した。
「クロエが来るまで、横になってな」
「でも、このまま横になっているのももったいなくて」
「もったいないって、なんだよ。マリーの身体以上に大事なものがあるのか? 熱は大丈夫か?」
「ちょっ」
柔らかな枕に横たわったマリーのおでこに、シンは自分のおでこを合わせた。
吐息もかかる距離に、マリーは驚き、思わず逃げようとするも、枕が邪魔をする。
あ、綺麗な顔。シンの顔を近距離で見たマリーは思わず思った。
そう、基本的にシンはイケメンなのだ。黙っていれば。それが、その何も考えていない言動と、軽い行動のため、残念な男に見られてしまう。
そんなシンのおでこの熱が、マリーのおでこに伝わる。
マリーは自分の顔の温度が、急上昇するのを感じた。
真理として、彼氏いない歴=年齢の上に、伯爵令嬢のマリーの異性接触は、手を取られる程度のことしかなかった。
心臓の音がうるさい。
その上、シンは優しくマリーの頬に触れた。
「大丈夫だな。熱はなさそうだ」
そう言って、手を離そうとしたシンの手を、マリーは思わず、握ってしまった。
「どうした? マリー」
そう言われて、マリーは自分の無意識な行動に驚いた。
「あ、いや、何でもないわ。それより、クロエは遅いわね」
マリーは慌てて、ドアの方を見ると、少し開いたドアの隙間に瞳が見えた。
その瞳と目が合った瞬間、ドアが静かに開いた。
クロエが、ブリュレクレーププリンをトレイに乗せて現れた。
「お待たせいたしました、マリー様。色々とタイミングを……いえ、準備に手間取ってしまいまして」
そう言って、クロエが渡してくれたのはまごうことなきクレーププリンだった。
くるりと巻いたクレープの中には硬めのプリンがあり、それをフタするように砂糖を焦がしたブリュレが乗っていた。
ブリュレを軽くスプーンで叩いて割った後、マリーはクレープのかぶりつく。
滑らかなクレープ生地と甘いプリン、そこにほろ苦いブリュレが混ざり合う。
「美味しい~やっぱり、甘いものは別腹ね」
真理の記憶を考えると、なぜこんなものがこの国にあるのかは不思議であったが、実際に目の前にある上に、美味しい。
マリーは深く考えることを止め、目の前の喜びを甘受することにした。
そんなマリーを見ていたシンが、そっとマリーの頬に顔を近づけた。
そう言って、マリーの頬に付いたクリームをぺろりと舐めた。
「うん、甘いな」
「な、なにをするのーーーー」
「いや、ほっぺたにクリームが付いてたから」
「だったら、言ってよ」
「えー、別にいいだろう」
戸惑うマリーに対して、シンは平然としていた。
そして、興奮気味の声でクロエがマリーに尋ねた。
「マリー様、おかわりはいかがですか? 何でしたら、あふれんばかりのクリームが入ったシュークリームもございますよ。いかがですか?」
「え、もうお腹いっぱいよ」
「そんなこと言わずに、一口だけでもいかがですか?」
「なんで、そんなに食べさせようとするの?」
マリーは残りのクレープを口に入れながら、首を傾げた。
「マリー様とシン様に、満足していただきたいだけですよ」
「なんで私がデザートを食べて、シンが喜ぶのよ」
「え、マリーが美味しそうに食べてる姿を見るのは楽しいぞ。あ! そうだ。今日はゆっくりして、明日、出かけないか?」
シンは、尻尾をぶんぶん振りながら、マリーに尋ねた。




