第27話 トニーの言い分
「愛しのお父様、お久しぶりでございます。お帰りを心よりお待ちしておりました」
開幕一発目にシンは満面の笑みを浮かべて、大袈裟に父親であるトニーにハグをしようとする。
それを苦虫をつぶしたような顔のトニーは手で制した。
「くだらん挨拶は良い。まず、何がどうなっているのか、お前の口からワシに分かるように説明しろ」
トニーはその低く渋い声で、シンに説明を求めた。
いきなり、怒鳴り散らかさないところを見ると、ちゃんと人の話を聞ける人だと、マリーはホッとした。
そんなマリーとは裏腹に、シンは顔の表面に笑顔を張り付けたまま、口を開いた。
「話すと長くなりますが、良いですか? いつもお忙しいお父様」
「ワシが忙しいと分かっているなら、下らん前置きは無しにしてさっさと説明しろ」
「ハイハイ、分かりましたよ」
そう言いながら、マリーとともにソファーに座りながら説明を始める。
「隣にいるマリーを拾って、マリーが保育園をしたいって言うから、ここを改造した」
「……それだけか?」
「ああ、それだけだけど。他になにか聞きたいことは?」
「ホイクエンとはなんだ?」
トニーはジッとシンの顔を見て、ステッキで床を叩いた。
「偉大なるお父様ともあろう人が、保育園をご存じないと。僭越ながら、私が説明させていただきますね」
「……」
「保育園とは、子供の楽園です」
「……」
「……」
「説明はそれだけか?」
「え? それ以外に必要ですか?」
トニーは、頭をかかえて、大きく息を吐いた。
あまりにもざっくりとしたシンの説明に、あきれ返っているのだろう。
マリーは慌てて、保育園の説明をすると、話を聞き終わったトニーはシンを睨んだ。
「それで、お前はこの捨て人のために、大切な迎賓館を改造したと言うのか?」
「ええ、そうですが……」
「ばっかもーーーーーーん! 馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、真正の馬鹿野郎だなシン! ここは明日、迎賓館に戻す。全く、無駄な金を使わせよって。本当にお前はろくなことをしない。姉のレベッカを見習えとは、もう言わないから、せめてワシに迷惑をかけないようにおとなしくしろ」
トニーは顔を真っ赤にして、テーブルを叩いて怒鳴った。
それは、ここに着いたときから必死に抑えていた、トニーの腹の中にぐつぐつと煮立っていた怒りが爆発した瞬間だった。
その怒りを受けて、マリーはビクリと体を縮ませた。嫌味などは上手く受け流すことは出来るが、暴力的な怒りの感情を目の前にすると、怯えが先に来てしまう。
そんな、マリーの手の上に、暖かな手が重ねられた。
マリーはその手の持ち主であるシンを見ると、大丈夫だと言わんばかりに笑顔を見せた。
「お父様、お願いがあります」
「お前の願いなど聞かん! どうせろくでもないことだろう。何を言っても、ここは迎賓館に戻すからな」
「ありがとうございます。お願いと言うのは……」
シンはトニーの言葉を無視して言葉を続ける。
「遺産代わりにここをください」
「お前はワシを殺す気か!」
「遺産代わりと言ってるじゃないですか。お父様が死んだら、こことは別にいろいろともらいますが、ここだけは先にください」
シンは、何とも厚かましいお願いを当たり前のように要求した。
そんなシンに向かって、トニーは顔を真っ赤にして杖を振りかぶった。
「こっっっっの馬鹿息子!」
「ちょっと待ってください」
親子の話会いに痺れを切らしたマリーが、口を挟んだ。
シンの説明がへたくそなのもあるが、説明を要求しながら、トニーはシンの話をはじめから聞く気がないようにマリーは感じた。
頭からシンの話など聞く気はないが、話を聞く大人の自分がいるとトニーは見せつけようとしているようだった。
そのため、マリーはもう一度話をはじめから話をしようと決めた。
「改めて、自己紹介させていただきます。シン様に拾われた捨て人のマリー・アーネットと申します」
「それは先ほど聞いた。お前も可哀そうにな」
「何が可哀想なんですか?」
「こいつの御遊びに付き合わせられて」
トニーはシンには怒りの感情を向けていたが、マリーには憐みの感情を向けた。
マリーはその様子を見て違和感を覚えた。
迎賓館を勝手に保育園に変えた怒りはマリーにも向けられるべきにもかかわらず、トニーはシンにのみ向けられている。
マリーはある疑問を投げかけた。
「もしかして、トニー様はここを保育園に変えたことに怒っていると言うよりも、シン様が保育園に変えたことを怒っているのですか?」
「ああ、そうだ。これがレベッカがやったと言うのならば、ここまで言わん。あいつはちゃんと五年、十年後を考えて、行動する。こいつは行き当たりばったりばかりで、飽きたら放り出す。ここだって一年もすれば飽きたと言って、お前に任せっきりで他のことをし始めるぞ」
トニーは、そう言って苦々しそうな顔でシンを見た。




