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第18話 魔法の言葉

 朝日が昇る街をマリーとシンは歩いて保育園に向かった。

 涼しい風とパンの焼ける香りを感じながら歩くマリーたちは、角を曲がると保育園の入り口が見えてきた。

 誰もいない、門はいつもと同じのはずなのに、マリーにはなんだか寂しく見える。

 そんなマリーを励ますように、シンは明るい声で言った。


「まあ、俺たちが早く着いたんだから誰もいないのは、当たり前だろう。さっさと入って、準備しようぜ」

「それも、そうね」


 マリーは気を取り直して園の中に入ると、来るかどうかわからない園児を迎え入れる準備を始めた。

 シンには掃除をお願いし、マリーは遊具などのもくもくと点検をする。

 そうして、開園の時間を迎えて、マリーは入り口の門を開けに行った。


「あー! マリー先生、おはようございます!」


 そこには、羊の獣人の女の子ウルが、にっこににこ顔で門が空くのを待っていた。

 ウルが来たということは、仲の良い鳥獣人の男の子のトリノも来るだろうと、マリーは少しほっとする。


「おはようございます。それでは、部屋に入って待っていてください」


 そう言って、マリーが門を開けると、子供たちが一斉に園内に入ってきた。

 中からは見えなかったのだが、門の外には十人以上の園児たちが、開園を待っていたのだった。


「え、こんなにも!?」


 マリーは思わず、嬉しい悲鳴を上げた。それと同時に、まだ保育園の仕事に慣れていないシンと二人でやっていけるのか不安になった。

 しかし、誰も来ない心配よりも、今の不安の方がずっと良い。それに今週はお試し期間なので、午前中だけの保育である。何とかなるだろう。

 マリーは最上の笑顔で挨拶する。


「さあ、みなさん。おはようございます。今日からよろしくね」


 園児が全員保育室に入ると、保育室には元気いっぱいの子どもたちが、すでに遊び始めていた。

 登園すぐは自由遊び。

 みんな思い思いに遊んでいる間、マリーは園児の名簿を確認し、説明会に来ていない子には声をかけて、名簿に追記する。

 預かった子供を元気なまま、親元に戻すのが保育士の役割である。行方不明になったりしては意味がない。

 そして、思ったよりも多くなった園児をどうしようかと悩んでいた。

 真理の保育士での知識では3歳児以上であれば、20人程度を一人で見ることは可能である。

 獣人たちの年齢と人の年齢を、そのまま適応しても良いのかが悩みどころではあるが、今日集まった子供たちに乳児と呼ばれる小さな子供はいなかった。それはおそらく、保育士としてマリーが完全には信用されていないからだろう。自分で何もできないわけではないが、家の仕事を手伝えるほど大きくはない。そう言った中途半端な年の子どもたちが、預けられてきたのだろう。

 それは、マリーにとって想定の範囲だった。

 今日来ている子供たちは、保育園でのことを両親に話すだろう。そうして、その内容を聞いた親たちは徐々にマリーを信用して、今度は乳児たちを預けに来るかもしれない。そのためには、今の園児たちを大事にすることはもちろん、乳児を受け入れる準備も進めなけれないけないだろう。

 そんなことを考えながら、マリーはシンに指示を出す。


「シン、庭で遊んでいる子がいないか見てきて。もしもいたら、園の外に行かないように見ててね」

「見ててって、部屋に戻さなくていいのか?」

「いいのよ。今はみんな自由に遊ぶ時間だから、外で遊んでてもいいけど、園の外に出たり、危ないことをしてたりしてたら注意してあげて。それと具合が悪そうな子がいたら、私の所に連れてきてね」

「わかった」


 そう言うと、シンは尻尾を振りながら外に出て行った。

 基本的に外で遊んでいる子供は、体力が有り余っているワンパクな子供が多い。お嬢様ボディのマリーでは手に余るため、若い男性であるシンに任せることにした。

 その間、マリーは部屋の様子をうかがう。

 保護者説明会のように、自ら遊びには参加しない。

 まずは子供たちを観察する。

 保護者説明会に来ていた子供たちは、慣れたように遊具で遊んだり、人形遊びをしていた。それとは裏腹に今日初めて園に来た子は、どうしていいか分からずにほかの子の様子を伺っているようだった。

 そんな様子を、マリーはじっと見ていた。

 園で、どのようにふるまえばいいか分からない子供に、声をかけるのは簡単である。

 しかし、それは子供たちの社交性を養う機会を奪うことになりかねない。

 そんな中、羊獣人の女の子ウルが動いた。ネズミ獣人の女の子に近寄って声をかけた。


「ねえ、一緒に遊ぶ?」

「いいの?」

「いいよ。でもね、一緒に遊びたいときはこう言うんだよ。『いれーて』って」


 ウルの言葉に女の子は、不思議そうに首をかしげながら、繰り返した。


「いれーて」

「いいよー。じゃあ、お人形は何にする?」


 そのウルたちの行動はほかの子供たちに伝染して、あちらこちらで「いれーて」と言う言葉が聞こえるようになった。

 それは保護者説明会の時、マリーがウルたちに教えたことだった。

 これからは、今まで知らなかった子たちとも一緒に遊ぶことになるだろう。その時、仲良くなる魔法の言葉。

「いれーて」「いいよー」

 ウルはその話を覚えていてくれたのだ。

 そんな、子供の小さな成長を見て、マリーはここでも保育士としてやっていけるのではないかと、小さな勇気をもらった。

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