第15話 ライバル宣言
美しい真っ赤なドレスから白く美しい手足が見え、背中には大きな翼が生えていた。その羽は色とりどりで、芸術的な美しさだった。化粧で大人っぽく見えるが、意外と幼い顔立ちをしている。
そんな、鳥獣人のローラは一通りシンとじゃれあった後、優しく引き離されていた。
そんな様子に、どうしたら良いかわからないマリーがシンに話しかけた。
「シン、この人は……さっきの歌姫の人だよね。シンとどういった関係?」
「ああ、悪い、悪い。紹介が遅れたな。こいつは、ローラ・カナリアと言って、俺の……」
「ねえ、シン、この人間は何?」
シンの話を遮るようにローラは口を挟んだ。そして、マリーの前に立ちはだかった。
マリーより頭ふたつ小さなローラは、びしっと指を際して言った。
「あんた、シンの何?」
「私? あ、マリー・アーネットです」
「あんたの名前なんて、どうだっていいのよ。あたしのシンとどういう関係なのかって、聞いているのよ」
「あたしの!?」
ローラは、まるで恋人の浮気相手を見るように憎悪にあふれた瞳で、マリーを睨みつけていた。
そんなローラの真剣な瞳に脅されるように、シンとの関係を考えた。
私とシンとの関係? 私はシンに拾われたけれど、シンは私の保護者でもないし、まして家族でもない。そう、言うならば……
マリーが考え込んでいると、シンがローラに文句を言った。
「おい、ローラ、何言ってるんよ。マリーに失礼だろう」
「そうね、パートナーかしら」
「え!」
考え込んでいたマリーにはシンの言葉が聞こえておらず、自然と言葉が口を突いて出た。
その言葉を聞いた、ローラは驚きの声を上げた。
「パートナーってどう言うことよ!」
「これから、力を合わせて歩んでいく相手って言う意味だけど?」
「そ、それって……シンのバカ! 嘘つき!」
「ちょっと、落ち着け」
ローラはその羽が抜けるほど暴れて、シンの胸を叩いた。
女性の細腕から繰り出されるこぶしなど、シンにとってダメージはないが、ローラを落ち着かせるようにその手をつかんだ。
「ちょっと、落ち着いて話をしよう。嘘つきってなんだよ」
「あたしがディーバになれば、お嫁さんにしてくれるって言ったじゃない! だからあたし、かんばったんだよ。つらい稽古も乗り越えた! なのに、あたしが頑張ってる間に、ちゃっかりとこんなちんちくりんな人間の女と結婚して!」
ローラは涙を浮かべながら叫び、シンの胸に飛び込んで泣き始めた。それは悲しみの泣き声だが、その声でさえ美しいとマリーは感じてしまった。思わず聞きほれていてしまって、ローラの言葉に反応するのが遅れた。
「私はシンと結婚なんてしてないわよ。ねえ、シン」
「あ、ああ、まだな」
「まだって何よ。それに結婚していないのに、パートナーって何よ!」
「パートナーっていうのは、保育園運営のためのパートナーのことよ」
「ほいくえん?」
見知らぬ言葉にローラは反応した。ローラとしては、結婚を約束したシンが訳の分からない女と、訳の分からないことをしようとしている。興味が湧かないわけがない。
マリーとしては、ローラがとりあえず話を聞いてくれる状況になったことにホッとする。
「保育園と言うのは、子供たちを預かってお世話をするところよ。今までこの国になかった施設だから、あなたが知らないのもしょうがないわね。その保育園を明日から開園するの。その保育園のパートナーがシンなのよ」
「よくわからないけど、シンが働くってこと?」
「まあ、そうよ」
マリーは何を当たり前のことを確認しているのだろうと、不思議そうな顔で答えた。
そんなマリーを見て、何もわかっていないという風にローラはため息をついた。
「あなた、何もわかっていないのね。あのね、シンは働いたりしないの。働けないの、ダメな男なの。だから、あたしがディーバになって稼いだお金で、シンはだらだらと生活するの。あたしと一緒に」
ローラは自分のことをダメ男製造機だと、自慢げに、高らかに宣言したのだった。
そのあまりのも堂々として、まるで舞台のワンシーンのような姿に、思わずマリーは拍手をしてしまうほどだった。
そして、マリーはなぜか、ローラに親近感を覚えてしまう。
なぜだろうか? ローラの言葉は明らかに、シンをダメすると宣言している。それを心の奥底で肯定している自分がいることに気が付いたのだった。
そうだ! ルイス王子に対して、自分がしたことに近いと思い出した。ローラは堂々と本人の目の前で、宣言しているが、マリーは陰ながら、ルイス王子の世話を焼き、ダメ男にしていたのだった。苦労をさせないようにした挙句、無垢で世間知らずの王子にしてしまったのかもしれない。
だから、あんなにわかりやすいアイリスの策略に王子はハマってしまったのだろう。
ある意味、今の状況は、マリーの自業自得なのかもしれない。
そう気が付いた、マリーはこのままシンを、ルイス王子のようなダメ男にするわけにはいかなかった。
「ローラさん、あなたがシンのことを思っていることは、よくわかりました」
「そうでしょう。だったら、あなたはシンから手を引いてちょうだい」
「嫌よ。たとえ、シンのダメ男の素質があって、あなたがダメ男を作る才能があったとしても、私はシンをダメ男にはさせません! シンは私のパートナーとして、この国で初めての保育園のりっぱな従業員になってもらいます! あなたにはシンを渡しません!」
そう、マリーはローラにライバル宣言をしたのだった。




