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第13話 ウルの父親

「あんたがマリー先生か! うちの娘がマリー先生って話していたから、どんな人かと思ったら……」


 そう言うと、羊獣人の串焼き屋のおじさんは、マリーをじろじろと、まるで品定めするように見た。

 そんなおじさんに、マリーは怯えた。

 シンと一緒にいると、ついつい忘れてしまうが、マリーは人間でよそ者である。マリーがどんな人間か気になるのは当たり前だろう。

 しかし、自分よりも体の大きな男性からじろじろを見られるのには、恐怖心が沸き上がる。


「ちょっ……」

「おいおい。おっさん。近い近い。マリーが怯えてるじゃないか。ちょっと離れて」

「ああ、悪い。人間って珍しいから、ついつい……な」


 シンは二人の間に体を滑りこませて、マリーを背中にかばった。

 その大きく頼りがいのある背中を見ながら、ここに来てから助けてられてばかりだと考えたマリーはひとつ息を吸い込むと、おじさんの前に出た。


「ありがとう、シン。もう大丈夫よ。私は人間ですが、今度この街で保育園を開きます。保育園は小さい子供たちの楽園のことです。よろしくお願いします」


 そう言って、マリーは優雅に頭を下げた。


「ははは、悪い悪い、そんな脅すつもりはなかったんだ。ただ、うちのウルが説明会から帰ってきてからずっとお前さんの話を楽しそうにしてたから、興味があったんだよ」


 マリーはこのおじさんが、お姫様ごっこをしていた羊獣人のウルの父親だと分かり、緊張が解けた。


「ウルちゃんのお父さんですか。ウルちゃん、活発で可愛いですよね」

「そうだろう、可愛いだろう。特にあのくるくるの髪の毛なんて嫁譲りで……」

「ええ、しっとり髪の毛は奥さん譲りなんですね。じゃあ、あの元気なところはお父さん譲りなんですね」

「元気すぎて困りものだけどな。そうそう、ウルがまた先生と遊びたいって言ってたぞ」

「明日から開園しますので、よろしくお伝えください」


 マリーはウルの父親にそう伝えると、ウルの父親は『女房とウルに伝えておく』と言って、屋台に戻って行く。

 そして二人は屋台から離れると、マリーはシンにお礼を言った。


「ありがとう、シン」

「あのおっさん、興奮しやすいんだよ。悪気はないんだけどな」

「うん、それはわかった。じゃあ、行きましょう」


 マリーはそう言って、シンの手を引いて市場を散策し始めた。

 あちらこちらの屋台を楽しみながらマリーたちは、目的の服屋にたどり着いた。

 そこには、黒や茶色の単色の地味な服装が並んでいる。汚れが目立たない色。シンプルなデザイン。擦り切れに強い厚手の布を使用している服が並んでいる。

 元伯爵令嬢のマリーとしては見たことがなかったが、真理としての記憶では、そこに並ぶ服は作業服のようだった。

 保育士は汚れることを気にするような服装では仕事にならない。

 かといって……


「マリー、なんか不満そうだな」


 服を見ながら考え込んでいるマリーに、シンが話しかけてきた。

 不満が顔に現れていた。その不満とは。


「ねえ、シン。あなたが子供だとして、私がここの服を着ていて、面白いと思う?」

「面白い? まあ、何とも思わないだろうな。ここにあるのは、地味な普段着ばかりだからな」

「そうよね。 保育士として働く以上、ドレスみたいなフリフリで、高価なものは論外だけど、あまりにも遊び心がないのも考え物ね」

「マリーがどんな服が欲しいのか、俺にはわからないが、ほかの店も回ってみるか?」


 シンの提案にマリーは少し考えた。

 おそらく、ほかの店に行っても、自分がイメージしているような物はないだろう。なぜなら、そもそもこの世界にそのような需要があるとは思えない。需要がないならば、供給も無いはずだ。

 悩んでいるマリーにシンが美しいベールをかぶせた。


「ベールをかぶせいたら、どうだ? 見せないところがミステリアスで、いいぞ」

「子供の前で、顔を隠してどうするのよ。不安がるじゃない……」


 そう言ってマリーは綺麗な刺繍をされたベールを外すと、じっと見て気が付いた。


「そうだ! 無いなら、自分で作ればいいじゃない。シン、この後、刺繍の材料を売っているところに連れて行って」

「いいけど、どうするんだ?」

「自分で刺繍をするのよ。ほら、この服に花の刺繍なんかすれば良い感じじゃない?」


 マリーは服の胸元を指さした。子供たちは保育士の服装などをよく見ている。

 真理のころは、キャラクターもののTシャツや靴下などで子供たちの話題を提供していた。

 ここにはアニメのキャラクターなどない。そうすると、花や動物のワンポイントの刺繍を入れることになるだろう。

 どんな刺繍を入れようか考えていると、シンが話しかけてきた。


「なあ、マリーって、元伯爵令嬢なんだよな」

「え、ええ、そうよ。どうしたの、急に」

「人間の伯爵令嬢って、なんでも作っちゃうのか? 保育園もそうだが、服も自分で作るんだな。てっきり、人任せにするものだとばかり思っていたんだが」

「まあ、自分でできることなんて、たかだか知れているけどね。でも保育士って、なんでも作っちゃうのよ。段ボールなんて与えてくれたら、それこそお城だって作っちゃうわよ」

「城を造るって、すごいな! 保育士って魔法使いか?」

「ええ、保育士は、子供を楽しませる魔法使いよ」


 マリーは、いたずらっ子のように笑った。

 そんな、マリーを見たシンは楽しそうにする。


「やっぱり、マリーは面白いな。ところで、服と刺繍道具を買ったら、ご飯食べに行こうぜ。腹が空いてきたぞ」


 マリーとシンは買い物を終えると、食事に行くことにした。

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