表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍発売中【ESN奨励賞】異世界創作料理屋リューガ~飯炊き係は不要と追放された後、姉妹に頼まれ創作料理屋を始めました   作者: 神楽圭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/43

36.意外と仲間、コカトリスで二種のサルティンボッカ風

「――って、ヒッドくないですか? モンスターに背を向けて逃げる剣士なんて初めて見ましたよ! 他のメンバーもリーダーの言いなりで、そうだなくらいしか返事しないし、お人形さんですかって」


 新顔・メータの口からは、仲違いしたというパーティの悪口が止まらなかった。たった二ヶ月も一緒にいなかったらしいが、とにかくぼろくそで、ウルリケは顔を引きつらせながら「そっかー」「うんうん」「大変だったね」を繰り返していたし、アンネさんは苦笑いしながらひたすらシンバを抱いていた。俺は、コカトリスの肉を鶏肉部分とヘビ部分に分け、それぞれ薄切りにし、さらに薄切りベーコンとオーバルハーブを載せて串で留めていた。

 メータはぷいっと頬を膨らませて「もう、騙された気分です。あんな人に騙されたなんて恥ずかしいですけど!」と妙なところで素直さをみせる。


「しかもですね、馬鹿っていうか非常識っていうか……食べられる草もモンスターの捌き方もろくに知らなくて、今までの旅路で何してきたんですかって感じだし、指摘したら飯なんて宿で食べればいいんだとか開き直って、いやいやどこのお城育ちですかって。で、いざ宿で食べようとしたらケチだし、出た食事にイチャモンつけてて一緒にいて恥ずかしいし、本当に今までちゃんと旅してましたよねって聞きたくなっちゃいました。そのくせ『俺達のパーティはそんなに甘くないぞ』とかカッコつけて」


 モノマネなのか、メータはちょっと顎を突き出した。ウルリケがちょっと笑った。


「しかも自分のことばっかりで、うっかり毒入りのイモを食べちゃってパーティが壊滅しそうになったのにメンバーに『無事か?』の一言も言えないんですよ? 考えてみれば最初から自慢話ばっかりで、助けてくれたご老人にお礼も言えないし、怪しい老人に変な薬を飲まされて味覚がなくなったとか喚き始めるし、もう本当に……疲れました」


 何度目か分からない深い溜息を吐き、メータはごくごくとイエロービスを飲む。苦笑いしていたウルリケが「大変……だったね……」と頷いた。


「それで……パーティ抜けて帰ってきたんだね」

「はい。しばらくはエクスの麓に留まろうと思ってます、ちょっと疲れちゃいましたし。ろくな旅路じゃなかったんで路銀はだいぶ減っちゃったんですけど」

「そういうことなら、ちょうどいいんで飯食っていきます?」


 フライパンに、たっぷりのグリーンハーブオイルとバターを熱する。そこに串ごと肉を入れて焼き始めると、メータが「む、いい匂いです……」と眉間にしわを寄せた。


「……ご飯……いいんですか? 実はものすごくお腹空いててっていうか、正直私三度のご飯がなにより楽しみで行く先々の宿でご当地的なご飯を食べるのが趣味で」

「メーちゃん、たまにご飯にお金払い過ぎて凍死しそうなくらい薄着になってるもんね」

「そのマントも買い換えたらどうだ? ほら、裾のところに穴が開いて……」

「いいんです、私はしばらくはおいしいご飯を食べるんです! 本当に長い間まともな食事ができなかったんですから!」

「大変だったんですね。おいしいご飯にするので、もうちょっと待ってくださいね」


 肉側に火が通ったところでホワイトクレイヴァンを加え、火を強めて軽く飛ばす。裏返してベーコン側も軽く焼けたら、肉を皿に移して、フライパンに残っているソースにクキの木の実を入れて煮詰める。ウルリケは「もう、この音聞いてるだけで力が抜けちゃう」とカウンターに顎を載せた。メータも、口はへの字だが、ごくりと喉を鳴らす。


「はいはい、できましたよ。アンネさんとウルリケも食べますよね?」

「食べる!」

「いただこう」


 取り分けていると、シンバがアンネさんの膝から降りてカウンターの隅に移動した。アンネさんの膝に乗ったままでは食えないから、つまり食わせろという意思表示だ。もちろん、シンバが自分の昼飯用に狩ったものなので当然の権利なのだが。

 メータは皿を受け取りながら「な、なんですかこのおしゃれなご飯は!」とますます目を丸くした。


「ピンクのお肉と葉っぱに……この黄色い液体はなんですか? 分かりました当ててみせます、ピンクのお肉のハーブ載せイエロービススープですね!」

「すみません、違います」

「私はちょっと分かるようになってきたよ、これはオーバルハーブだね!」

「それは見たままのハーブの名前を答えただけだろう。リューガの食事はいつも奇天烈だからな、どうせ私達には想像もできないものを使っているんだ」


 アンネさんも皿を受け取りながら「今日もおいしそうだな」と嬉しそうだ。


「お、これは懐かしいな。えーっと……、ベーコンだ」

「正解です。本当はこれを使いたかったんですけど、最近作り始めたので熟成期間が足りないどころじゃなくて」


 残念な溜息を吐きながら、後ろにある冷蔵庫代わりの棚を開く。

 そこに吊るされている生ハムの原木 (になるもの)を見て、メータが固まった。


「な……なんですかその……オークの足みたいな……」

「あ、すごいですね、正解です。これはオークのもも肉です」

「オーク食べるんですか!?」

「なんか懐かしい反応だね」


 しみじみ、とウルリケが頷く。新顔がいると途端に古参顔だ。いや立派な古参なのだが。


「食べる部分は選びますけどね、ちゃんとおいしいんですよ。今回はベーコンですけど、本当は生ハムっていうオークのもも肉を熟成したものを使いたいんです」


 生ハムは原木を手に入れさえすれば便利で楽でいいのだが、その原木を手に入れるまでがとにかく大変だ。塩加減はもちろん、熟成するための環境を整えなければならないし、なにより絶対時間がかかる。味噌などと違ってオークは最初からいたし、飯づくりが本格化したタイミングで生ハムづくりに着手するべきだったと、最近後悔した。しかし、塩漬けしたオークの足をぶらさげて旅をするわけにもいかなかったし、そんな大雑把な作り方でおいしくなったとも思えないし、やむを得ない。


「オークのもも肉から余計な脂肪を落として、塩漬けにしたものです。いまは表面の塩を洗い流して、塩が吸収されるのを待ってるところですね。もう少ししたら乾燥させなきゃいけないんで、いい気候の場所までシンバに連れて行ってもらうか、専用の乾燥場を作ろうかなと思ってまして」

「よく分からないが、時間がかかるのか?」

「そうですね、最低でも1年くらい」

「1年もオークの足を放っていたら大変なことになりますよ? 腐臭で苦情が入りますよ!」

「腐らせるんじゃなくて熟成させるんですよ。騙されたと思って、1年後を楽しみに待っててください」


 と言っている俺自身が楽しみにしている。自家製生ハム原木、その味は食してみるまで分からないが、その日が楽しみだ。


「というわけで、今回は間に合わなかったんですが、ベーコンもオークの肉の塩漬けではあるので代用しました。フォークで食べてもいいですけど、汚れるのが気にならなければそのまま串を持っても大丈夫です」

「いただきまーす!」


 俺も厨房側でいただこう、まずは鶏肉部分から。指先は汚れてしまうが、串を掴んでそのまま齧る。

 淡泊な鶏肉にたっぷりのバターとグリーンハーブオイルの味が染みわたり、土台は甘く仕上がっている。そこにベーコンの塩味とオーバルハーブの独特の風味が加わり、クキの木の実でちょっと深みも出して、野蛮だけどまとまった味のできあがりだ。


「おいしい!!」


 メータのそれは悲鳴に近かった。そうだろうそうだろう、と俺は頷く。


「え、これ、オークの肉って言いましたよね? え? こんな柔らかくておいしいオークの肉が存在するんですか? どんな個体なんですか!?」

「いやオーク自体はそんなに珍しい個体を使ったわけじゃないんですけど、食材としてちょっと手間をかけたんで」

「しかもこのソース! こってり甘くてオーク肉の塩辛さと絶妙にマッチしてて、それでもってとろっとしてるから絡めやすくて! こんなご飯食べたことないです」


 食レポが始まったと思ったら、メータは「うっうっ」……ちょっと涙を浮かべ始めた。厨房からきれいな布を探してそっと差し出す。


「……あの、大丈夫ですか……?」

「……すみません、本当にしばらくまともなものを食べてなくて……かと思ったらこんな劇的においしいものを食べれて、女神様の導きかと思うとなんだか尊い気持ちになって」


 喜んで食べてもらえるのは嬉しいが、さすがにそこまで言ってもらえるとは思ってもみなかった。俺のメシは女神様の導きだったのか。


「……直近のパーティでは苦労なさったんですね」

「もう本当に。しかし一大決心して麓へ引き返した甲斐がありました、お陰様でこんな幸せな食卓を囲むことができるなんて」


 最後の晩餐かな……? ちょっと反応に困っていると、次の串を口にしたメータは「はっ」と目を見開いた。


「これ同じお肉だと思っていましたがちょっと違いますね!? これは……お魚? いや同じ鳥でも違う部位……オイルたっぷりのソースが合いますね!」

「ああ、分かる。この小さいほうの肉のほうが淡泊というか、あっさりしているものな」

「あ、さすがですね、そうなんです」


 よかった、ちゃんと話が戻ってきた。アンネさんも加わった安堵もあって、ついつい頷いた。


「今回はコカトリスを使ったんで、最初に食べたのが鶏部分で、後に食べたのが蛇部分なんですよ」


 ボキッ……とフォークの折れる音がした。突然怪力を発揮して何事かと思ったが、アンネさんは目をひん剥いて皿を見つめているだけだ。


「へー、これヘビだったんですね! 確かにサラマンダーも鶏肉に近い味でした。でもコカトリスの尾のほうがおいしいですね、アンネちゃんの言う通りあっさりしててソースに合うっていうか。サラマンダーって結構脂が乗ってるんですよ、このソースだとくどかったのかも。あっもしかして肉に合わせてソースを作ってるんですか!?」

「あ、ああ、うん、それはもちろん……」

「もしかして名のある料理人なんですか!? これ一体おいくらお支払いすればいいんでしょう!?」

「いや、シンバが取ってきてくれたものだし、金はいいんだけど……」


 アンネさんに何が起こったのか――と考えていて、思い出した。というか、ついこの間、ティーボーンステーキを食ったときに話したばかりだった。アンネさんはヘビが大嫌いだと。

 しまった。出すべきじゃなかったし、出してしまった以上は黙っておくべきだった。


「……リューガ」

「……あ、あの、でもほら、おいしかった、ですよね? 大丈夫ですって、食べてしまえば鶏肉と同じですって!」

「貴様の頭を叩き潰してやろうか」

「ごめんなさい」

「いいじゃんお姉ちゃん、リューガさんのいうとおり、鶏肉みたいな感じだったじゃん。ていうかコカトリスだし」

「尾はヘビだろう!」

「アンネちゃんたら、まだヘビが怖いとかなんとか言ってるんですか? もういい大人なんですから、好き嫌いなんかしちゃだめですよ」

「野菜の好き嫌いみたいに言うな! なんでも食べるメータと違って私は繊細なんだ!」

「私が図太いみたいに言わないでください! そもそもヘビやサーペントは立派な食肉なんですから!」

「そうだとして気味が悪いから食べたくないと言ってるんだ!」


 こればっかりは、知っていたのに説明しなかった俺が悪かった。ごめんなさいともう一度謝ろうと思ったが、飛んで火にいる夏の虫とはこのこと。飛び火しないよう、ウルリケとシンバと静かに残りの串を食らった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 前々回、前回の人物?は同一人物くさいですな 相対する人間で見目が変わるとかどういう事なんだか? どう考えても高位存在だとは思いますが [一言] 食わず嫌いってあるよね 見た目、匂いとか…
[一言] これ、追放しないで普通に加入すれば姉妹と猫?以外は普通にうまくいってるよな
[一言] トマト(固体。液化すれば可)と蛸(タコ焼きの蛸の小さいのは生まれて半世紀で克服)と貝類(ホタテ貝柱のみ可)の大部分が絶望的にダメなので、蛇尻尾を喰って激怒した気持ちは分かる。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ