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感情無き妖狐 ーレイー  作者: 谷崎 馨
第二章 出会い
8/30

安心

 風美香(ふみか)による声かけで、妖狐と修治(しゅうじ)はリビングに向かう。リビングに入るとテーブルの上には少し豪華な食事が並べられてあった。


「風美香…少し張り切っただろう。」

「あら、少し多かったですかね?」

「いや、そういう訳ではないがね(笑)」

「うふふ。じゃあ早速食べましょうか!」


 いただきます、と手を合わせ老夫婦は食べ始める。妖狐はその様子をじっと食べずに見つめていた。それに気づいた修治は妖狐に声をかける。


「…食べないのかい?食べても良いのだよ?」


 妖狐はゆっくりと手を動かし、食べ物を口に含んだ。


「どう?どう?口に合うかしら?」


 妖狐はコクリと頷く。老夫婦はホッと息をついて妖狐を優しい眼差しで見つめていた。


 ***


「そういえば、名前はなんというのかね?」


 修治はテーブルに座ったまま妖狐に聞く。そして、ドタバタと台所の方から聞き逃すまいと小走りで風美香が妖狐の隣に座る。

 老夫婦は少し緊張した顔で妖狐を見るが、妖狐は何も答えない。何かを考えているのだろうか。もしや、名前が無いとか…?そうなれば、名前を老夫婦が決めるしかない。老夫婦は妖狐が何かを喋るのを待った。

 いたたまれなくなったのか、風美香が妖狐の頭を安心するように撫でる。ゆっくりでいいよ、と言っているかのようにも見えた。そして、本当に安心したのか、妖狐は老夫婦を見つめ、声にならない掠れた声で言った。


「………レイ…」


 老夫婦はそれを聞き逃すことは無かった。“レイ”という2文字を聞いてパァァっと顔を輝かせ、妖狐こと、レイを抱きしめた。老夫婦は自分達に向かって喋ってくれたことと初めて声を聞けたという事実にとても嬉しがった。名前を聞けてしばらくは、氷室家からは喜びの声が聞こえた―――。


 ***


 修治は風呂に入っている。風呂場の方から鼻歌が聞こえるが、風美香は気にとめない。そんなことよりレイの相手をする方が大切だ。


「レイちゃん…レイさん…レイ……どれがいいのでしょう。レイ…ちゃん…レイちゃんが1番無難ですかねぇ…。」


 呼び方を考えているのだろうか。風美香は1人でブツブツと言っている。


「どれがいい?」


 気がおかしくなったのか、バッと勢いよくレイの方を向いて聞く。そしてレイは首を傾げる―――の繰り返しをかれこれ10分。そろそろ修治は風呂からあがる頃だろう。風美香はうーんと唸る。


「何をそんなに悩んでいるのかね?」


 風呂からあがった修治が風美香に声をかける。


「呼び方を…。」

「……」

「やっぱり黙ると思いましたよ…。」

「レイちゃん…が良いと私は思うよ。」

「じゃあそれで決まりね!」


 そんなこんなで呼び方が決まって喜んでいる老夫婦とそれを見ているレイであった。


「さ、呼び方も決まって時間ももう遅いし寝ましょうか!レイちゃん!」


 もう寝ようと言っているのにテンションが高いのはどうしてだろうねぇ、と答えがわかっているのにわざわざレイに話しかける修治もテンションが高いように見えた。


 ***


 レイは新しく出来た自分の部屋に行き、布団に入った。レイは今日1日の出来事を思い出していた。まさか自分の名前を口にしただけであんなに喜んでくれるというのは、レイには初めてのことだった。あの老夫婦と出会ってすぐは感情が無かったとしても少しは警戒していたが、今では何故か安心感を感じていた。


(あの方達は安心も信頼も出来る…。あの方達といるととても心地いいし、温かい…。)


 レイは静かに目を閉じ、眠りの世界に入った。


 この日、レイに1つの感情が戻った。


【安心】

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