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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

将軍様は王女よりも婚約者がお好きなので

作者: 高月水都

よくある悪い噂が流されて針の筵状態を助けに来るヒーローのヒーロー視点を書きたくなった

「あ~~。ルナーリアに会いたい……」

 真面目で好青年と言われ、老若男女に愛されている若きカリスマ25歳の将軍の口から漏れるのはそんな彼に夢を抱いている人達は信じたくないだろう。


 彼は10歳下の婚約者にべたぼれで敵兵を倒しながらそんなことをぼやいているなど。


「そう言えば将軍~!!」

 右腕のキリアスが馬で追いかけながら敵を切り裂き、思い出したように声を張り上げる。


「将軍に手紙が来ていましたよ~」

 普通そういう会話は陣屋でするはずだろうに全く気にせずに将軍と右腕は敵兵を切り捨てながら会話を続ける。


「ダイアン姫殿下からお手紙がありました~。今度の式典でエスコートしてくれと」

「はぁぁぁぁぁっ!?」

 ただいま戦争中。カーネリアンは将軍職として戦場に身を置いている立場。


「なんだ。その頭がお花畑な内容はっ!?」

 第一、婚約者がいるのにエスコートをしろという時点で意味が分からない。そういうのは婚約者か婚約者がいないのなら恋人。家族などに頼むべきだろう。


「こっちは戦場に出ているからまだルナーリアをエスコートできなくて悔しいんだぞっ!!」

 と敵をタコ殴りしながら、

「せっかく誕生日に贈ったこの地域で作られた髪飾りも!! 事前に誕生石で作った首飾りも目の前で見られないし!! 時間がなかったから仕方なく手作りした押し花の栞の感想も検閲されるからか返事はいまだ届いてないんだぞ!! というか、ルナーリアからの手紙は一通も届いていない!!」

 この持っていき場の無い怒りをどこに持っていけばいいんだとばかりに暴れまくっていると敵の軍が撤退命令が出たようで去って行く。


「追いかけますか?」

「いや、こっちも陣屋に戻る。兵に疲れが見えるからな」

 周りの自軍の様子を見て判断すると陣屋に戻る。戻って最初に行うのは検閲された自分あての手紙の確認。


「…………今日もない」

 家族から友人から届く手紙の中に一番待っている手紙がない。


「半年も戦場に出ている婚約者を嫌いになってしまったのだろうか……」

 ルナーリアの手紙がないと先ほどまで戦場で暴れていた様子とは打って変わって雨雲を背負っているように背中に哀愁を漂わせている様は無敗の将軍という異名を持つ人とはとても思えない。


「ドレスを一枚でも贈って機嫌を直した方がいいかもしれないけど、どうせドレスを購入するなら一緒に出掛けて二人で相談して決めたい……」

 会いたい。いつになったら会えるんだ。

 切ない想いを抱きながら友人の手紙に目を通す。


「…………………………………はぁぁぁっ⁉」

 その手紙に書かれている内容が信じられずに慌てて家族から届いた手紙にも目を通す。


 その二通ともそれぞれ別の暗号で書かれているが内容は全く同じであった。


「――王都に戻る!!」

「はあぁぁぁぁっ⁉」

 実はずっと傍に控えていたキリアスが信じられないと声をあげる。


「しばらく指揮は副将軍に任せる。キリアスこれを読め」

 暗号で書かれた手紙の内容に目を通させるとキリアスの表情が強張り、青白いを通り越して土気色に変貌していく。


「………………これ自分の首絞めていること理解しているんでしょうかね」

 していないからこんな愚かな事が出来るのだろう。


「最悪な事態にならないで終わればいいが……」

 と、この手紙の送り主。そして、主君の怒りを目の当たりにしてキリアスは祈らざるをえなかった。それと同時に馬を酷使して不眠不休で王都を目指さないといけないので疲れが取れないとずっと酷使していた身体が休みを欲していたが、それを何とか誤魔化すのであった。




 不眠不休で王都に辿り着いた日がたまたま……そうたまたまエスコートして式典に参加してほしいと言われた日だった。


「あ~。始まってますね~。で、姫様のエスコートをするんですか~?」

 キリアスはそんなことをしないと知りつつも尋ねると無言で睨まれた。


(あ~やべっ。これガチ怒りじゃないか)

 王都に来る間情報を集めようと残してきた部下に連絡を取っていたのだが、その時報告された内容は、式典とあったが実際には姫の誕生日会で、そこで姫の婚約者を発表すると噂されていた。


 そして、姫には以前から付き合っている殿方がいて、その殿方から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。忙しい合間に作られたと思われる()()()()()が贈られて来たとのこと。


 ……………どこかで聞いた事ある代物だ。


 で、そんな仲の良い恋人同士である二人を()()()()()()()()なだけで引き裂こうとする令嬢がいるとか。


 婚約者がいるのに他の女性と付き合っている時点でおかしいだろうとか、なら解消すればいいだけだろうといろいろ突っ込みたい内容を聞かされて、それに踊らされている人々に呆れるしかない。


 そして、それを聞いた主君――カーネリアンがそれからずっと怒りが収まらないのだ。いや、それは暗号を受け取った時からだろう。


 ばんっ

 本来なら扉を開閉する従者が居るはずなのにそれが仕事をする前にカーネリアン本人がぶち壊す勢いで扉を開ける。

 会場の中は盛り上がっていたが、それを遮るように響く扉の音に誰もが扉の方に視線を向ける。


 最初に気付いたのは()()()()()だった。


「カー……」

「まぁ。やっと来てくださったのね。カーネリアン」

 煌びやかなドレスに身を包んだ女性の髪にはなぜか婚約者に贈った髪飾り。婚約者の誕生月の石だからとトパーズを嵌めてもらった首飾りを着けた女性が馴れ馴れしく近づき腕を組んで来ようとする。


 そして、それを悲しげに見つめている婚約者の姿が――。


「――何故それを着けている?」

 声を張り上げたわけではないが、その声は会場全体に響く。


「それは、我が婚約者ルナーリアに贈ったプレゼントです。なぜ、貴方が着けているのですかダイアン姫殿下」

「なっ、何をおっしゃるのかしら。これは貴方様がわたくしに……」

「【魔力解放】」

 舌打ちしながらの解除魔法を行うと、首飾りも髪飾りもカーネリアンの魔力を放ち、ひそかに仕込んでいた術を解放する。


【愛しのルナーリアへ  カーネリアン】

 空中に浮かぶメッセージ。


「戦場から帰ったら……」

 怒りで身体が震える。


「帰ったら驚かせようと思って仕込んでいたのですよ。……こんな形で披露するのではなく二人きりで……」

 会場は騒然としていた。当然だろう。


「姫殿下。どうして俺が、愛しの婚約者を捨てて貴方と婚約するという噂が流れているのでしょうか?」

 返答次第ではただでは済まないと殺気を宿して問い掛け……問い詰める様はさながら悪鬼のようであったとキリアスはご愁傷さまですと呟いたとか。


「なっ、何を言っているのかしら……。そうだわ。あなたの戦場の活躍をお聞きしたわ。これで晴れてわたくしと婚姻が……」

「お断りします!! それと俺の婚約者に贈った物を返してもらいましょうか」

 それは貴方が着けていいものではない。


「なっ、なっ、なっ……」

「驚きましたよ。俺が姫殿下の恋人になっていて、愛するルナーリアが二人を引き裂く悪女だと噂されているとは。そのことを教えようとした手紙が検閲ですべて回収されていて、ルナーリア宛の手紙もルナーリアが送った手紙もすべて届いていない。それでトドメとばかりにルナーリアに贈ったプレゼントは全部あなたが持っているとか」

「何を根拠に……」

「今はっきり証拠が浮かんでますが」

 いまだ消えていない魔力で紡がれたメッセージがしっかり表示されている。


「ああ。それとも」

 カーネリアンの身体から暴力的な魔力が放出される。


「王族は何をやっても許される……とでも」

 膨大な魔力がただ溢れ出ているだけ、それなのにカーネリアンを中心に床にヒビが入り、溢れ出る魔力に中てられて気持ち悪くなる人が次々と現れている。

 当然、一番近くにいる姫殿下が一番気持ちが悪くなっている。しかも、身に着けている装飾品がカーネリアンの魔力を持っているので通常の人よりもひどい魔力酔いに襲われているのだ。


 膨大な魔力に中てられて気絶する人も出てくるのではないかと思われた矢先。

「カーネリアンさま」

 そっとカーネリアンの腕に触れる小さな手。ずっと動かないで状況を見ていたキリアスによって待っててくださいと言われてじっとしていたルナーリアが動いて、触れただけ。


 そう触れただけで魔力の放出が消える。


「私の方を見てください」

 ずっと会いたかったですと不満げに告げる声に、そうだったこんな女に構っている場合じゃないとばかりに愛する婚約者にカーネリアンは抱き着く。


「…………皆さん忘れているようなので言いますが」

 キリアスが口を開く。


「10年前に同じような事件があったあの時どうなりましたっけ?」

 そのキリアスの言葉を覚えている者たちは皆カーネリアンと連絡を取ろうとしたり、姫殿下を止める事は無理だったのでルナーリアをさりげなく庇っていたのだが、忘れていた人々は姫殿下の流した噂を信じてルナーリアを冷遇した。そして、10年前の事件を思い出してこれ以上顔色は悪くならないと思われていた状況だったが気が狂ったように謝罪の言葉をぶつぶつぶつと呟き続ける。


 10年前までカーネリアンは巨大な魔力を持っているが故どう扱っていいものか分からない存在で遠巻きにされていた。そんな彼がある日魔力を暴走させる事件が起こり、その時彼のいた王家の別荘は半壊した。半壊で済んだのは偏に。

『駄目だよ。お兄ちゃん』

 と、当時5歳の少女の魔力暴走の中心にいたカーネリアンの服を掴んでの叱咤。魔力暴走の中に近づける時点でおかしいのだが、その5歳の少女……ルナーリアにカーネリアンは一目ぼれした。


 それ以後カーネリアンの暴走はルナーリアでないと止められないという事実が伝わった。ルナーリアは教会所属で両親が急死したことで没落した元貴族の令嬢であった。ルナーリアはすぐにカーネリアンの婚約者としてリコリス家の縁戚の養女になって体裁が整えられた。

 

 そこまでやっていたのにどうして婚約者を捨てて姫殿下と結婚するという噂が流れるのか。それ以前に。

「王族だからと言って人の手紙を奪い、贈り物を盗むことは犯罪ですよね」

 場合によっては無敗の将軍は敵になるだろう。しかも今戦時中だ。彼が軍を撤退するだけで国は終わる。


 そんな状況になってまで王家を守る忠臣はどれだけいるだろうか……。いくら、忠義があってもそこまでの行いをしている王族にまで忠義を尽くす者は少ないだろう。





 後日、姫殿下はきっちり罪を償わせるために激戦地の教会で奉仕活動を行われているとの事。カーネリアンもすぐに戦場に戻る事になったが、

「すぐに終わらせてくるよ。(王家が全額資金援助して)すぐに結婚式をあげられるから」

 やらかしの責任を取らせるために結婚式を全額後払い――盛大な結婚式をあげるよう王家の金で、戦争を終わらせたらすぐに結婚していいと言われたので魔力をぶっぱなしてこようとカーネリアンはさっさと判断すると。

「盛大な結婚式はしなくてもいいけど、孤児院の子供たちに美味しい物を食べさせてあげたいな」

 とかつて教会預かりだった時のことを思い出してお願いするルナーリアにカーネリアンは何度も惚れ直し、いっそ侵略してくる国滅ぼせば終わるかなと物騒な事を考えだす。まあ、そんな事をしたらルナーリアが悲しむからあっちが攻めてくる気が起きない程度に痛めつけようと決め、無敗神話を積み重ねるのであった。




ルナ―リアいないと国崩壊待ったなし

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― 新着の感想 ―
[一言] 王家すごいね~。たかだか一姫のせいで国が滅びかねないのを知ってて放置とか。滅んで良いのでは?
[気になる点] 主人公たちを担いでクーデター起こす方がいいんじゃね、と。 ルナーリアが冤罪で殺されてた、もしくは暴行(含み)を受けていた可能性は、結構高かったかと。 [一言] 或いは、そう云う事態を必…
[気になる点] 「窓から旅へ」様も書いていますが ルナーリア(伸ばし棒)とルナ─リア(横棒)が入り混じっているのが読んでいて引っかかります
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