第84話
1階に着いた俺と心南は、美保とまるちゃんがいるであろう部屋に向かった。そして、その部屋の扉を開く。
「お、やっぱいた。話終わったぞ。美保」
「あれ?もう終わったの?思ったより早かったね」
俺が美保に声をかけると、美保が俺たちの方を向いてそう言ってきた。というより、後半は主に心南への言葉であろう。
「まあ、ね。ほとんど美保から聞いてたし」
「そっか。確かにね」
「ママ~!この人誰?」
心南の返事に頷いた美保に、まるちゃんから質問がとんでくる。そういえばまるちゃんに、心南のことは説明していなかったか。
「ああ、この人はね、私たちの友達だよ」
「パパとママの、お友達?」
「そ。アタシ、高畑心南。まるちゃんでしょ?」
心南がしゃがんで、まるちゃんの目線に合わせてそう告げた。そんな心南の自己紹介に、まるちゃんも頷いてそれに応じる。
「うん!いまみずまるだよ!」
「よろしくね」
心南はまるちゃんの名前を聞いてから、まるちゃんに右手を差し出した。まるちゃんは、そんな差し出された心南の右手を笑顔で握る。
「うん!」
「うっ……!か、かわいっ……!」
まるちゃんと握手を交わした心南だったが、まるちゃんの笑顔を見て顔を赤らめてしまった。そんな心南の反応を見て、俺は大きく頷く。
そうなのだ。まるちゃんは可愛いのだ。その笑顔が特に。俺からすると、自慢の娘である。
「待って、マジでちょー可愛いんですけど。ね、うちに来ない?」
「「それは駄目」」
心南がまるちゃんに放った言葉に対して、俺と美保は声をそろえてそう言った。まったく、何を言ってるんだ心南は。
まるちゃんは俺たち夫婦の娘だ。駄目に決まっているだろう。
「まるは、パパとママの娘だから無理ー!」
「「まるちゃん……!」」
俺と美保はまるちゃんの言葉に感動し、二人でまるちゃんを抱きしめる。こんな可愛い娘を、外に出せるわけがない。
「えー……。ま、何かあったらアタシを頼ってくれていいからね~!」
心南はそう言って、まるちゃんの頭を撫でる。まるちゃんはそれを嬉しそうに受け入れて、心南に向かって頷いた。
「うん!ありがとう!みなおねーちゃん!」
「……やっぱり、うちに来ない?」
「「だから駄目!」」
心南が懲りずに言うので、俺と美保はまたそれを止めた。そんな俺たちに、心南は小さく笑って首を横に振る。
「じょーだんだよ。それより、アタシそろそろ帰らなきゃなんだよね」
「え、そうなのか?」
俺はまるちゃんから一度離れて、心南にそう返す。まだ門限が来るような時間じゃないと思うんだが……。
「ん。この後、家族で食べに行くことになっててさ。お母さんの誕生日だから」
「そ、そうなの?その、そんな日にごめんね」
「大丈夫大丈夫!夕食を食べに行くだけだし!ってわけだから、そろそろ帰るね」
心南がそう言って立ち上がったので、俺と美保も続く。そしてまるちゃんを連れて、玄関まで歩いた。
読んでくださりありがとうございます!




