第83話
「……ああ。当たり前だ」
少しだけ間があったが、俺はそう答えた。そう。俺が美保のことを恋愛的な意味で好きになっているわけがない。
一瞬、口ごもってしまったのは、俺が美保のことを大切な人だと思っているからだろう。家族として、夫として、守りたいと思っているからだろう。
これが恋なのかと言われれば、そうではないと断言できる。生駒先輩への恋とは、明確に違うからだ。
俺が美保に向ける気持ちは、どちらかといえば愛ではないだろうか。もちろん、俺がまるちゃんに向けている思いも同じだ。
この思いは、家族愛といえるだろう。なので決して、美保に恋をしているわけではない。
「ん。ありがと。安心した」
「安心した?なんでだ?」
心南が俺の答えに、安心したと返してきた。なぜ安心したのか分からなかった俺は、心南に問いかける。
「あっ……!い、いやほら!美保には別に彼氏がいるっぽいし!もし信護が好きなら、ど、どうしよって……!」
「あ、ああ……。そういうことか」
俺は頷いてしまったが、その後でハッとした。なぜ、美保に彼氏がいることを、心南が知っているのか。
「と、というより、美保って彼氏がいるのか……?」
ここはあえて、あたかも俺が美保の彼氏の存在を知らないようにして、心南に問う。心南が本当に知っていて言っているのか、推測で言っているのかが分からないからだ。
「んー……。多分、いると思うけど。ちょっとそんな素振りが見えるし」
心南の答えを聞いた俺は、心の中で安堵した。美保が心南に彼氏がいることを話したわけではないことを確認できたからだ。
これで彼氏がいることを知っている風に話していたら、ばらしてしまうことになっていただろう。危ないところだった……。
心南が美保に彼氏がいることを察していたのには驚いたが、俺が察しているのだ。他に気付いている人がいてもおかしくない。
「そ、そうなのか……。そ、それより、俺に聞きたいこととか、まだあったりするか?」
これ以上美保の彼氏の話にならないように、俺は心南にそう問いかけた。心南はそんな俺の質問に、少し考える素振りを見せてから首を横に振った。
「……ううん。もうないと思う。気になったことは聞いたし。それに多分、ほとんど美保が話してくれたし」
「そうか。じゃあ、下りるか?美保とまるちゃんも下で待ってるし」
「おっけ。そうしよ」
心南は頷いて、俺の提案を受け入れてくれる。俺と心南はほとんど同時に美保のベッドから立ち上がり、美保の部屋のドアまで歩いた。
俺はそのドアを開いて、心南と共に廊下へと出る。そして俺たちは、美保とまるちゃんが待つ1階へと向かった。
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