表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/170

第82話

 階段を上り終えた俺は、美保の部屋の前に着いた。俺はその部屋のドアをノックする。


「……はい」


「あ、心南?信護だけど……」


「……入って」


 心南の声に従って、俺は美保の部屋のドアを開ける。そこには、美保のベッドに腰かけている心南がいた。


「ほら。信護も座ったら?」


「あ、ああ。そうするよ……」


 俺は心南の言葉通りに、心南の隣に腰かける。だが、心南はそれから、中々話しかけてこない。


 美保が話せることは話したと言っていたので、俺との関係の事も話したはずだ。ならば、俺から話せることは限られてくる。


「……その、まずは、ごめん」


 しばらくして心南の口から出てきたのは、謝罪の言葉だった。何の謝罪なのか分からない俺は、首を傾げる。


「あんな勘違いして……」


「あ、ああ……。そのことか。取り合えず、誤解が解けたみたいで良かった」


 心南が謝ってきたのは、体育祭で起こった勘違いの事だった。誤解が解けたのはよかったが、心南に謝られるのは少し違う気がする。


「……っていうか、心南に隠していた俺たちに原因があるんだ。こっちこそごめん」


「あ、それは大丈夫。美保から、ちゃんと理由聞いたから」


 美保は心南に隠していた理由を、話したのか。俺には、頑なに話してくれなかったのに……。


「ちなみに、その理由って?」


「そ、それは……」


 俺が心南に美保が話したであろう理由を問うと、心南は俺から顔を逸らした。その顔は、ほんのりと赤くなっている気がする。


「い、言えない!」


 心南もまた美保と同じように、その理由を話してくれなかった。俺はすぐになぜなのか聞こうとしたが、それより前に心南が俺に問いかけてくる。


「そ、それより!信護はなんでまるちゃんのパパを引き受けたん!?」


 心南は顔を赤く染めたまま、俺の方を向いてそう言った。俺は自分の質問を呑み込んで、心南の質問に答える。


「そ、それは、まるちゃんに悲しんでほしくなかったからだが」


「そ、それだけ?美保がママじゃなくても、まるちゃんのパパになってた?」


 心南にそう聞かれた俺は、すぐに答えることができない。なぜなら、俺は一度妄想してしまっているからだ。


 美保が俺の本当に妻だったら、という妄想を。だが、これをこの場で言うことなんてできない。


 それに、俺はまるちゃんがパパになって欲しかったら、美保がママじゃなくてもなっていたと思う。しかし、美保がまったく理由に入っていないかと言われれば、すぐに頷けない。


 妄想していることもあって、ゼロではないといえるだろう。それを心南に言えるかといわれれば、無理に決まっている。


「……ああ。なってたと思うぞ。まるちゃんが、俺にパパになってほしいって、言うならだが」


 俺は心南にそう返した。まるっきり嘘というわけではないが、妄想したことは言わない。


 理由は、恥ずかしいからに決まっている。これは、墓まで持って行くと決めたことなのだ。


「そ、そう!よ、良かった……」


 俺の返答に頷いた心南は、なぜか安堵しているようだった。だがその安堵も束の間で、心南はすぐに新しい質問をしてくる。


「じ、じゃあ美保のこと、好きってわけじゃないんだ?」


 好きではないのか。そう心南に聞かれた俺は、一瞬、口ごもってしまった。


読んでくださりありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ