表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/170

第74話


「お前、俺と勝負しろ」


「勝負……?」


 純也君は俺に右手の人差し指を向けながら、そう言ってきた。俺はその言葉に、首を傾げてしまう。


 勝負といっても、一体何で勝負するつもりなのだろうか。俺は今、鬼ごっこをしている最中なのだが……。


「ちょ、ちょっと純也。お兄さんは、私たちと鬼ごっこしてるんだけど」


 すると、俺が捕まえた女の子が、純也君にそう言ってくれた。鬼ごっこをしていた子供たちにとっては、途中で止めさせられるようなものだ。


 それは、鬼ごっこを楽しみ来ていた面々にとって、良い感情でないことは間違いないだろう。だが純也君は、その人差し指を下げない。


「勝負の内容はかけっこだ。単純のほうがいいし」


「いや、それは……」


 俺、絶対勝ってしまうが……?純也君の足の速さは知らないが、俺に勝てるほどではないだろう。


 そもそも年齢が違うし、俺は同年代の中でもそこそこ速い自信がある。どれだけ純也君の足が速くても、俺には及ばないはずだ。


「それ、負けるけどいいの?このお兄さん、私より全然速いよ?」


「そもそもお前が俺より遅いだろ。あれぐらいだったら大したことない」


 ……ごめん。全力じゃないんだ、あれ。本当は、もっと速く走れるんだよ。


 そう言いたいところだが、俺の口からその言葉が出ることはなかった。俺が言わない方がいいと判断したからである。


 ここでそれを言ってしまうと、ますます鬼ごっこから遠ざかってしまうだろう。何とかして、鬼ごっこに戻らなければ。


「わ、悪いが、今は皆と鬼ごっこで遊んでるんだ。だから今は……」


「なんだよ?逃げるのか?そんなやつは、姉ちゃんの隣に立つ資格はないね」


 俺は純也君のこの言葉に、少しカチンときてしまった。美保の隣に誰がいていいのかを決めるのは、純也君じゃない。


 それを決めるのは、美保自身だ。勝手にそんなことを言う純也君に、俺は苛立ちを覚えたのである。


「……それを決めるのは、お前じゃない。美保だ」


「姉ちゃんを馴れ馴れしく、名前で呼ぶな」


「はあ……。それを決めるのも、純也君じゃない。けど、分かった。勝負すればいいんだろ?」


 俺はため息を吐いてから、勝負することを受け入れた。これはもう、勝負を受けざるを得ないだろう。


 そうしないと、純也君が納得しない。問題は、まるちゃんたちの説得だが……。


「お兄ちゃん、かけっこするの~?」


「純也君、すごく速いよ?お姉ちゃんより速いし……」


 ある少女がそう言ってくるが、正直そうとは思えない。多分、美保が手加減しているんじゃないだろうか。


 まあ、子供相手に本気なんて出さないよな……。まあ、もし本当であったとしても、俺には届かないはずだ。


「大丈夫!パパ、すっごく速かったもん!」


 そんな少女の質問に答えたのは、まるちゃんだった。それに続いて、俺が捕まえた少女も頷く。


「まあ、お兄さんの本当の走りが見れるなら、鬼ごっこはいっか。頑張って」


「あ、ああ……」


 まるちゃんたちの説得は、もうしなくても問題なさそうだ。もう子供たちは受け入れて、ノリノリになっている。


 だが、俺はその少女の言葉に、力強く頷くことができない。俺はまた、どうすればいいか迷っていたからだ。


読んでくださりありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ