第72話
「こ、ここなの……?美保の、家って……?」
心南が療心学園を見て最初に出した言葉は、予想通りのものだった。療心学園が児童養護施設だと分からなくても、建物が大きすぎるので、信じられないのが普通だろう。
「ああ。ここが、そうだ」
俺は心南にそれだけ言って、療心学園のインターホンを鳴らした。するとそこから、長井さんの声が聞こえてくる。
『はい。児童養護施設療心学園です』
「すいません。小田信護です」
『ああ。小田君ね。ちょっと待ってて』
長井さんのその声を最後に、インターホンからの声は途切れた。俺はインターホンから離れて、心南の元まで戻る。
「今、児童養護施設って……」
「……その説明も、美保からあるはずだ。そのために、俺の家から療心学園に変えたんだろうし」
心南の呟きに、俺はそう告げた。すると心南は、それ以上何も言わずに療心学園の方へと視線を向けた。
心南が理解しきれているのかどうかは分からないが、取り合えずは美保の話まで待ってくれるようだ。俺がここで説明してしまうのは違うと思ったので、俺としてもその方がありがたい。
「はーい!お待たせ!小田君!今日は、友達も来てるのよね!」
「すいません、長井さん。こんな頻繁に来てしまって……」
「いいのよ!美保ちゃんもまるちゃんも喜ぶから!」
長井さんが出てきたので、俺は長井さんに頭を少し下げた。長井さんはそんな俺に対して、首を横に振ってそう言う。
すると長井さんは、俺から心南へと視線を向けた。そして、長井さんから心南へと近づいていく。
「あなたが、高畑心南さん?」
「え、あ、は、はい。そう、ですけど……」
「やっぱり!いつも美保ちゃんと仲良くしてくれてありがとう!」
「は、はあ……?」
長井さんから急にそう言われた心南は、戸惑ってしまっている。まあ、急に言われたらそんな反応しかできないだろう。
「さあ!入って入って!美保ちゃんもまるちゃんも待ってるよ~!」
長井さんはそう言って、俺と心南に手招きをしてきた。俺と心南はそんな長井さんに続いて、療心学園の中へと入っていく。
俺たちが療心学園の中に入ると、そこには美保とまるちゃんの2人がいた。俺はそんな2人に、笑みを浮かべながら挨拶をする。
「おはよう。美保。まるちゃん」
「うん。おはよう信護君。心南ちゃんも」
「あ、う、うん……。おはよう……」
「おはようパパ~!」
まるちゃんがそう言いながら、俺に抱き着こうとしてきた。だがその寸前で、美保が止める。
「駄目だよまるちゃん。パパはまだ、手を洗ってないんだがら」
「むー……。分かったー。ママー」
美保の言葉によって、まるちゃんはその行動を止めた。だが、後で抱き着いてくるのは間違いなさそうだ。
「信護君も心南ちゃんも、まずは手を洗いに行こ?その後で、心南ちゃんは私の部屋に案内するから」
「……あれ?俺は?」
「信護君は、まるちゃんと遊んであげて?私は一人で大丈夫だから」
美保の言葉を聞いた俺は、顔を顰める。美保が大丈夫だと言うならいいのだが、やっぱり心配になるのだ。
「大丈夫、なんだな?」
「うん。それに、言ったでしょ?2人で話したいって」
「……分かった。俺はまるちゃんと遊んでおくよ」
「パパと遊べるの!?わーい!」
俺と美保の会話を聞いていたまるちゃんは、俺と遊べると聞いて喜んでくれた。俺はそんなまるちゃんを見て少し微笑んでから、心南の方を向く。
「心南。それで大丈夫か?」
「話が聞ければ、いいよ。その代わり、後で信護にも聞くけど」
「ありがとう。じゃあ、洗面所に行こうぜ」
俺は心南に確認をとって、許してくれたので礼を言った。そしてその言葉通り、俺たちはまず手を洗うために洗面所に向かうことになった。
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