第70話
体育祭を勝利で終えた俺たちは、帰路についていた。今俺と共に帰っているのは、美保だけだ。
勝と照花に心南、桜蘭に利光に秀明は途中で別れてしまった。まあ、もうすでに駅についているのだから当然なのだが。
「着いた、ね……」
「ああ。送っていくよ」
「……うん。お願いしようかな」
この駅に着くまで、俺と美保の間にはそこまで会話がなかった。電車の中で話すと、前のようなことになりかねなかったからだ。
それほど、今回の体育祭は色々なことがあった。嬉しいこともあったが、未だ残っていることもある。
だが、話したいことがあるのは間違いない。それは、美保も同じだったのだろう。
だから、普段なら断りをいれるであろう送っていくということに、頷いたのだ。俺と美保は並んで、療心学園へと歩き出した。
「……美保。その、ごめん」
まずは俺が、美保に謝罪の言葉を告げた。美保はそれが心底分からないというように、首を傾げる。
「なんで信護君が私に謝るの?」
「俺が心南のことを言わなければ、最後のリレーで躓くことはなかったかもしれない。俺が、美保の走りを邪魔したんだ」
俺が説明すると、美保はポカンとした。それから、小さく笑みを漏らす。
「ふふっ。違うよ。信護君の言葉がなくても、私は不安だったんだ。だからあそこで躓いたのは、他のことに意識がいってた私のせいだよ。ごめんね」
「でも、不安な気持ちを出させたのは、俺だ……」
「だから、気にしなくていいってば。それに、逆に助けられたんだから」
助けられた。美保のその言葉を聞いた俺は、先程の美保のように首を傾げた。
俺はそんなことを、やった記憶はない。むしろ、不安にさせてしまったものだと思っていたからだ。
「俺は、助けてなんて……」
「ううん。助けてくれた。レースでは私の遅れを取り戻してくれたし、なにより、大丈夫って言ってくれたでしょ?」
確かに、言った。でもそれは、謝る時間がなかったから、何とか1位まで戻すことを目指して言った言葉だ。
「そ、そうだが……」
「信護君は本当に、私のミスを帳消しにしてくれた。だからかな。心南のことも、大丈夫かもって思ったの。信護君が、そう言うんだもん」
美保は、微笑みながらそう告げた。俺はそんな美保の言葉を聞いて、指で頬をかく。
そんなことを言われるとは、全く思ってなかったのだ。ただあの時は、自分のせいだったから、何とかしたくて。
たったそれだけの思いで、俺は大丈夫だと言った。何とか、取り返してみせると。
「だから、心南ちゃんに言ったんだ。話す場所、信護君の家じゃなくて、私の家でしたいって」
「……え?」
美保が放った言葉に、俺は驚いて足を止めてしまう。まさか、そんなことになっているは思いもしなかった。
「な、なんで……」
「その方が、納得しやすいかなって……」
確かに、それは間違いないだろう。だが、まさかそれを美保から心南に伝えているとは……。
「美保がいいなら、いいんだが……」
「うん。大丈夫だよ。心南ちゃんもいいよって言ってくれたし。だから信護君も、明日は療心学園に来てね」
「ああ。分かった」
心南も納得しているのなら、俺から言えることはない。俺が頷いて前をチラリと見ると、もうすでに療心学園が見えてきていた。
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