第57話
俺と照花が戻ってくると、さっきの今野の時のように白い目で見られることはなかった。逆に、何もなさ過ぎて怖くなってしまう。
「も、戻ったぞー……」
「無事!1着を取ることができました~!」
「おう。お疲れ様」
「もうすぐ、心南ちゃんの番だよ?」
やはり、さっきのことについて何も言ってこない。気になった俺は、つい聞いてしまった。
「こ、今回は、今野の時みたいなこと言わないんだな……」
「え?ああ、うん。だって、信護君が優しいの何て、皆分かり切ってるもん」
俺の質問に、美保が答えてくれた。そんな美保の答えに、他の皆も頷いてくれる。
「それな。照花がどんなお題で信護を連れて行ったのかと思ったけど、【優しい人】なら納得以外できねえよ」
「ほんとほんと~」
「お題、【優しい人】って、信護のためにあるようなお題だな」
「そ、そこまで言うか……」
皆からすれば、【優しい人】と分かった時点で萎えていたらしい。その時点でもう、俺で確定だろうと。
そこまで言われると、恥ずかしさを通り越して引いてしまう。一体皆の中で、俺はどういう印象になっているのだろうか。
「それよりほら!心南ちゃんの借り物競争が始まるよ~!」
「お、ほんとだ」
照花がそう言ったので会場の方を見ると、心南が入場しており、くじの前に立っていた。そしてそのまま、くじを引く。
「さあ……。どうだ……?」
「頼む!簡単なお題を……!」
「……あっ。心南ちゃん、止まっちゃった……」
「「ああ……」」
美保が言った通り、心南はくじを引いて制止していた。これはもう、終わってしまった。
しかも、照花の時よりも、止まっている時間が圧倒的に長い。恐らく、相当ヤバいお題を引いてしまったのだろう。
「ま、まだだ!まだ引き直せば……!」
「お、おい!心南が動き始めたぞ!?」
「えっ!?な、なんで!?引き直せばいいのに!」
俺、勝、桜蘭が順に、心南の行動に驚いてしまう。すると、美保が手を口に当てながらこう言った。
「も、もしかして、テンパって引き直せるの忘れてるんじゃ……」
「「なん、だと……!?」」
俺と勝は、それに驚きを隠せない。もしそうだとするなら、まず過ぎる。
「心南さん……」
桜蘭がそう心配した声を出すが、心南は止まらない。その進行方向には、やはり俺たちがいた。
「……おい。まさか……!?」
「も、もしかして……!?」
勝と美保はそう言って、俺の方を見てきた。まさかこの2人は、俺がまた連れていかれるとでも思っているのだろうか。
お題がどんなものかによるが、流石に俺が3回も連れていかれるはずがないだろう。別の人のはずだ。
そしてついに、心南が俺たちの元までたどり着いた。だが、心南は何も言わない。
プルプルと震えており、言わないというより言えないという印象だった。そう思った俺は、俺から質問してみる。
「な、なあ心南。何を、誰を探しに来たんだ?」
俺がそう質問すると、心南の体がビクリと震える。だが、心南はすぐに答えなかった。
「心南ちゃん……?」
「お、おい。心南……」
「は、早くしないと負けちゃうよ……?」
「心南さん……」
それぞれが心南に語りかけるが、やはり何も答えない。この間にも、他の生徒たちはものや人を借りに行っているのだ。
このままでは、間に合わない。そう思った時、心南が口を開いた。
「……ついて、来てほしい……」
「だ、誰に……?」
「し、し、し……信護、に……」
「……ん?」
俺はまたも、信じられない言葉を聞いた気がした。だが、今回は聞き逃さなかった。
心南が、ここまで言えずにいたからだ。今か今かと待っていた言葉は、まさかの俺の名前であったが……。
「……よっしゃぁ!行ってこい!ほれ!さっさと!」
「そうだよそうだよ!ほらさっさと行きなよ!早く早く!」
「止まってる暇ないよ!早く行かなきゃ!信護君!」
「お、おう……。分かってるよ……。ほら行くぞ、心南」
勝、照花、美保に急かされた俺は、心南の手を取って会場へと向かった。俺と心南を見送った3人は、とてもいい笑顔をしている。
しかしまさか、3回も向かうことになるとは……。俺は今日、二度あることは三度あるということわざを、文字通り体現したのだった。
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