第54話
俺と今野は、無事1番乗りで会場に着いた。今野からすれば、戻ってきたということになるだろうが。
「すいません!連れてきました~!」
今野が俺を指差しながら、お題が書かれている紙を審判の先生に渡した。先生はマイクを持ちながら、俺とその紙を見比べる。
『はーい!1番乗りで戻ってきたのは今野さんです!さあ、お題は何だったのでしょうか!どうぞ!』
先生はマイクを今野の方に向けて、お題を今野の口から言わせようとする。これも、恒例なことだ。
『はい!私のお題は、【クラブの先輩】というお題でした』
『なるほどー!【クラブの先輩】、なのね!それで、その子が……!?』
『はい!私が所属する文芸部の先輩である、小田信護先輩です!』
今野が持っていたお題は、【クラブの先輩】というお題だったのか。それならば、俺が連れてこられたのは納得だ。
確か今野の組には、文芸部の部員が今野一人しかいない。そうくると、誰を連れていくかということは必然的に絞られる。
恐らく、俺が1番付いて来てくれると思ったのだろう。俺が困っている人を放っておけないのは、今野も知っていることだから。
『なるほど~!小田君、ね!では、次は小田君に聞きましょうか!選んでもらって、どういう気持ちかしら?』
先生がそういう質問をしてきて、俺にマイクが向けられた。俺はしっかりとマイクに声が入るように気を付けながら、答えていく。
『あ、はい。そうですね。嬉しいと思います』
『あら!そうなのね!でも、今野さんは青組で、小田君は赤組よね~?なんで今野さんに協力したのかしら~?』
先生がそう言って、俺にまたマイクが向けられる。俺は別に隠すようなことでもないので、正直に話すことにした。
『そうですね。まあ、大事な文芸部の後輩ですし、無下にするのは違うかなと』
「だ、大事なって……!」
『あらあらあら!じゃあ、今野さんだから協力したのね!?』
『いえ。俺は誰であっても、協力はしたと思います。けど、今野じゃなかったら、ここまで早くはなかったと思いますよ』
俺は思ったままを、そのまま告げた。別に、今野だったから協力したわけじゃない。
俺は恐らく、他の誰であっても、協力はしたことだろう。だが、ここまで早くは来れないと思う。
文芸部の後輩である今野だったからこそ、こうして素早く協力することができたのだ。ただ、それだけのことなのだ。
『な、なるほどね~……。と、ともかく、今野さん!おめでとう!見事1着です!』
『は、はい!ありがとうございました!』
先生がそう言うと、今野はお礼を言った。そして、1着と書かれた旗の元まで歩いて行く。
俺も、そんな今野の後に続いた。この組が終わるまでは、傍にいなければいけないからだ。
「あ、あの。小田先輩。ありがとうございました。協力していただいて……」
「ああ。気にすんなよ。あそこで言ったことが全てだし」
今野がそう、頭を下げてきたので、俺は手を振って気にする必要はないことを告げる。それによって顔は上げてくれた今野だったが、それでも今野はまだ礼を言ってきた。
「本当に、ありがとうございます。さっき、言ってくれたことも……」
「いや、本当のことだしな。今野のことは、大事な後輩だと思ってるよ」
「う、うう……。あ、ありがとうございます……」
そんなやり取りをしていると、今野の組の全員が返ってきて、この組の借り物競争が終わった。今野の組で参加していた生徒たちが、続々と戻っていく。
「じゃあ、俺たちも戻るか。お疲れ様。今野。この後も頑張ろうな」
「あ、は、はい!小田先輩も、頑張ってください!リレー、応援してます!」
「ああ。サンキュー。でも、自分の組も応援しろよ?」
「もちろんです!じゃあ、またです!」
俺は今野と別れを告げ、自分のクラスの元へと戻っていく。今野からも、リレーを応援してもらった。
また、負けられない理由が一つできた。俺はまた、リレーに向けて気を引き締めるのだった。
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