第47話
「よく、隠してこれたよな。何か、コツとかあるのか?」
「ん?別にコツとかないが?」
俺がした質問は、勝にすっぱりと切り捨てられる。そう言われては、何も学べないではないか。
「ど、どういうのに気にしたらいいのかとかも、ないのか?」
「まあ、名前を言わないようにするとかぐらいか?つーか、なんでそんなこと聞くんだ?」
「いや、これから俺らも隠していくし……」
「全然隠せてなかったよね!名前呼びも!」
羽木の言葉が、俺の胸に突き刺さる。隠せていた感じはなかったが、そこまで言うほどだろうか。
「え、そ、そんなに分かりやすかった?」
美保が戸惑いながら、羽木にそう問う。羽木は笑いながら、美保の問いに頷いた。
「うん!分かりやすすぎたよ!隠す気あるのって思った!」
「うっ……!」
羽木の容赦のない言葉に、美保もダメージを受けた。俺も追撃を受けて、思わず顔を歪めてしまう。
だが、俺と美保はもう、ゴールデンウィークの間で名前呼びに慣れてしまい、どうしても名前で呼びそうになってしまうのだ。しかもまるちゃんの前では名前で呼ぶのだから、使い分けなければならない。
だからこそ、学校で間違いそうになってしまうのだ。どうにかしたいのだが……。
「はぁ……。急に学校で名前呼びにするわけにもいかねえし、頑張って隠していくしかないか……」
「うーん……。まあ、バレたくなかったらな……」
「え?多分、名前呼びにするぐらいは何とかなるよ。家族のことはバレずに」
「マジ!?」
「ほんと!?」
羽木の言葉に、俺と美保は驚いて反応する。そんな方法があるなら、すぐにでもやりたい。
「ど、どうすればいいんだ?それは?」
「簡単だよ。皆のことも名前で呼んじゃうようにすればいいんだよ!」
「……つまり?」
「だから、小田君が私のことを照花って呼ぶようにするとか、美保ちゃんが勝君のことを名前で呼ぶとか、そういうこと!」
俺は羽木が放った意見に、心の底から納得した。確かにそれなら、あまり違和感なく名前で呼べるようになるかもしれない。
「……ありだな!なら、高畑も名前で呼べるようにしなきゃか」
「それには、きっかけが必要だね。そこは、どうしよっか」
「そこは私に任せてよ!何とかしてみせるから!勝君にも協力してもらうけど!」
「おう。任せとけ」
羽木と勝が尽力してくれると知り、俺はありがたいと思う。羽木がきっかけを作ってくれるというのは、本当にありがたい話だ。
当人である俺と美保には難しい。なので、羽木と勝が協力してくれないと、できないことなのだ。
「助かる。じゃあ頼むよ」
「ありがとう照花ちゃん、柴田君。よろしくね」
「うん!じゃあ、一回試しに呼んでみようよ!まずは美保ちゃんから!」
俺と美保が二人に礼を言うと、羽木がそう言ってきた。美保と勝は共に頷いて、肯定の意を示す。
「そうだね。じゃあ、ま、勝君。で、いいのかな?」
「おう。よろしくな。……美保」
「よーし!じゃあ、今度は私たちの番だね!信護君!」
勝と美保の名前呼びが終わってすぐに、羽木が何のためらいもなく俺の名前を呼んできた。俺もまたすぐに、返事をする。
「おう。照花」
俺がそう言った瞬間、下から声が聞こえてきた。その声は、俺が毎日聞いている声だった。
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