第43話
昼食を食べ終えた俺たちは、俺の家に来ていた。誰にも聞かれない場所が、ここしか思いつかなかったのだ。
市菜は放課後そのまま遊びに行っていていないし、今日は母さんも美術館に行くと言っていたので、家には誰もいないのだ。その状況が、今の俺たちには都合が良かった。
「お、お邪魔します……」
「お邪魔しまーす!」
「おう。つっても、誰もいないけどな」
始めて俺の家に入ってきた美保と羽木は、キョロキョロと俺の家を見渡していた。一方勝は、何度も俺の家に来ているので、慣れたように俺の隣を歩く。
階段を上がり、俺の部屋の扉を開ける。俺はそのまま、美保に羽木、勝を俺の部屋に招き入れた。
「ここが俺の部屋だ。入ってくれ」
「う、うん」
「おー!勝君の部屋より片付いてるね!」
俺の部屋を見て、羽木がそんな感想を漏らす。確かに俺の部屋は、勝より片付いているだろう。
勝は整理整頓が苦手なので、自分の部屋はそこまで綺麗じゃない。というより、羽木がそれを知っているということは、行ったことがあるのだろうか。
「ま、そら俺の部屋よりは綺麗だろうな」
「これが信護君の……。あっ!」
美保が部屋を見ながらそう言うと、突然口を手で覆った。俺はそんな美保の行動に、首を傾げる。
なぜそんな行動をとったのか、一瞬分からなかったからだ。だが、俺は美保の言葉を思い返し、すぐに気づく。
先程美保は、俺のことを名前で呼んでしまったのだ。だが、もう言い切ってしまったので、もう何の誤魔化しは聞かない。
「ははっ。俺らの前だし、もう名前で呼んでもいいぞ」
「そうそう!学校以外では名前で呼んでるんでしょ?」
勝と羽木はそう言いながら、笑っていた。そうは言うが、普段は言わないようにしなければいけないのだ。
そこを考えても、言わないようにする努力は必要だろう。言えるようになれば、問題ないのだが……。
「まあ、座れよ。ベッドでも、椅子でもいいからさ。俺は何か飲み物を取ってくる」
「おーう。サンキュー」
「じゃあ、先に美保ちゃんに色々聞いとくね~」
「え?」
俺がそう言って飲み物を取ってこようとすると、羽木がそう言った。それに美保が困惑の声を出す。
「あれ?もしかして、信護君がいなきゃダメな感じ?」
「そ、そんなことは、ないけど……。でも、信護君が関わる話もあるから……」
「じゃあ、そこだけ端折ってくれていいぜ。先に話を進めておいたほうがいいしよ」
「……うん。そうだね」
「えっと、大丈夫か?美保。別に、俺が戻ってからでも……」
少し不安そうな美保を見て、俺は美保に大丈夫かどうか尋ねる。一人で話すのが怖いのかもしれない。
そんな美保を俺は放っておけなかった。話すのが怖いなら、不安なら、一緒にいてやりたい。
美保のこの話を知っているのは、俺だけ。一緒に話してやれるのも、俺だけなのだから。
「……うん。大丈夫だよ。話せると思う。それに、きつくなったら途中で話を止めるから」
「……え?」
「……ん?」
美保の言葉に、勝と羽木の二人は疑問符を浮かべているようだ。美保の重い話を知らなければ、そんな反応になるだろう。
美保がそう言うならば、俺ができるのはできる限り早く戻ってくることだけだ。俺は美保に、頷いて言葉を返す。
「……分かった。じゃあ、行ってくる」
「うん。行ってらっしゃい」
俺がそう美保に告げると、美保も微笑みながらそう返してくれる。そんな様子を、勝と羽木はポカンとした表情で見ていた。
俺はそんな3人を自分の部屋に置いて、ドアを開ける。そして扉を閉めて、階段を駆け下りた。
台所に着いた俺は、冷蔵庫を開けてオレンジジュースを出す。そしてコップを4つ出し、そのそれぞれにオレンジジュースを入れた。
お菓子もあった方がいいだろう。お菓子を出して、それら全てをお盆に置く。
これで大丈夫だろう。美保が話せているかどうかが心配なので、早く戻らなくては。
だが、こぼれないように運ばなければならない。俺はこぼれないように慎重にしながら、できるだけ早く歩き始めた。
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