第42話
放課後のホームルームを終えた俺は、勝の元へと歩みを進めた。高畑は用事があるので、もうすでに別れを済ませている。
「よう勝。お疲れ」
「おう。信護もな」
俺たちがそう言い合っていると、美保と羽木も俺たちの所へと歩いて来た。二人は俺と勝にねぎらいの言葉をかけてから、本題に入る。
「お疲れ様。二人とも」
「お疲れー!それで、どこ行こっか?」
「そうだな……」
昼食を取りたいが、個室で食べれるところは高校生である俺たちには厳しい。どこかチェーン店に入って、先に昼食を取った方がよさそうだ。
ならまず、何を食べたいのか各々に聞いてみなければ。それによって、行く店が変わってくる。
「なんか、食べたいものないか?それがある店に行こうぜ。話す場所は、そっから考えよう」
「そうだな。そうしようぜ」
「なら私、ラーメン食べたい!」
「私も、中華料理を食べたいかな」
美保と羽木の食べたいものが一致した。こうなれば、もう中華料理店一択だろう。
ラーメン屋ではなく、中華のチェーン店に行こう。その方が注文の幅も広がるし、何より学校から近い。
「じゃあ取り合えず、学校の近くのあそこ行くか」
「おう。いいと思うぜ」
そうと決まった俺たちは、そろって教室から出ていった。廊下で4人並んで歩くわけにもいかないので、俺と勝、美保と羽木のペアに分かれて歩く。
「……そういえば、勝は体育祭のクラブ対抗リレー走るのか?」
「ん?おう!今年も走ると思うぜ。また、信護と勝負かもな!」
俺は、体育祭のことを口に出してしまう。考えないようにしていたのに、だ。だが、勝は特に違和感を持つことなく、俺の質問に答えた。
俺と勝は所属しているクラブは違うものの文化部なので、クラブ対抗リレーでは敵になる。去年は互いに第一走者で、タッチの差で負けた。
「……そうだな。負けねえぞ」
「ははっ!文化部では今年も俺たちが貰うぜ?運動部には敵わないけどな!」
「運動部と言えば、桜蘭たちも走るんだろうな」
「つーか、運動部はこれから走るだろ。ウォーミングアップで」
「確かに」
桜蘭たちと言ったのは、利光と秀明も運動部に所属している。だから、放課後遊びに行くのが難しいのだが。
「そういえば二人とも、文化部だけど足早かったもんね」
「そうだね!頑張って~!」
「まだ早えよ。頑張りはするけどな!」
羽木の応援に、勝がそう力強く答える。俺も足には少しだけ自信があるので、頑張りたい。
去年、部長に応援してもらったのに、勝に勝てなかった。俺の力が足りなかったからだ。
今年は負けない。負けっぱなしは、性に合わないのだ。
「2度も負けてたまるかよ」
「へっ……!上等だ……!」
俺と勝は獰猛な笑みを浮かべながら、睨み合う。そんな俺と勝に、美保と羽木が声をかけてきた。
「お~!二人の戦い、楽しみにしてるよ!」
「ふふっ。そうだね。ほら、靴に履き替えよ?」
美保の言葉に頷いた俺たちは、靴箱から靴を取り出す。そして、履き替えようとしたが、俺のスマホから音が鳴った。
「悪い。俺だ」
「おう。今確認して大丈夫だぞ」
「ああ。ありがとう」
勝に礼を言い、俺は自分のスマホを開く。すると、俺が所属するクラブの部長から連絡が来ていた。
その内容は、クラブ対抗リレーの打ち合わせの日程についてだった。予想通りだったので、了解です、と返そうとしたが、その前に新しく連絡がくる。
【今年も、期待しているよ。小田後輩】
そのメッセージを見た俺は、ドキリとしてしまう。だがすぐに、その心を落ち着かせた。
……この思いは、もう諦めたんだ。これ以上、何も望むな。
俺は一度息を吐き、了解ですと打った後に頑張りますを付け加え、部長に返信する。その後すぐにスマホをポケットに戻し、靴を履いてそのひもをきつく締めた。
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