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第35話

 療心学園に戻ってきた俺たちは、手を洗い終えて美保が買ってきたお菓子を食べていた。欲しがる子たちには、そのお菓子を分けてあげている。


「おいしい~!」


「うん!おいしいね~!」


「ありがとうお姉ちゃん!」


 子供たちは、買ってきたお菓子を美味しそうに食べてくれた。不機嫌ではあるが、純也君も食べてくれている。


「よかったぁ……。これね、私が欲しいって言ったんだけど、信護君が、このお兄ちゃんが買ってくれたんだよ。ちゃんとお礼言ってね?」


「そうなの!?」


「ありがとうお兄ちゃん!」


「ありがとー!」


「……おう。美味しかったなら、良かったよ」


 子供たちが純真無垢な笑顔でお礼を言ってきたので、俺もまた微笑みながらそう返した。そんな風に喜んでくれたら、こちらも嬉しくなるものだ。


 すると突然、純也君がこの部屋から出て行ってしまった。一体、急にどうしたのだろうか。


 何か納得いかないことでもあったのかもしれない。そうであれば、ほぼ間違いなく、問題は俺にあると思う。


 俺が美保が欲しいと言ったものを買ったことに、引っかかったのだろうか。俺にはこれぐらいしか心当たりがない。


「じゅ、純也君!もう……。どうしたんだろう……」


「多分、俺のせいだ……。悪い……」


「なんで?信護君は何も悪くないから、気にしないで」


「そ、そうか……」


 美保はそう言ってくれるが、ほかに純也君が出ていく理由が俺からは出てこない。だが、これ以上美保に説明しては、純也君が嫌がると思うので話さないでおく。


 他人から好きな人にその思いをバラされるのは、最悪以外の何物でもないだろう。まあ、仮に美保に純也君が好きと言っていると伝えても、恋愛の方向で受け取ることはないと思うが……。


「それよりまるちゃんが、お菓子を食べ終わったら寝ちゃったよ。疲れちゃったのかな?」


「お、ほんとだ。まあ、結構歩いたしな」


 美保に言われてまるちゃんの方を見ると、まるちゃんはその場で眠りについていた。まるちゃんはすやすやと眠っており、しばらくは起きそうにない。


「お菓子食べ終わったから、遊ぶ~!」


「僕も~!」


「私も行く~!」


「はいはい。まるちゃん寝ちゃったから、外か別の部屋で遊んできなさい」


「「「はーい!」」」


 長井さんがそう言うと、子供たちは一斉にこの部屋から出て行った。この部屋に残ったのは、俺と美保とまるちゃんに長井さんの4人だけだ。


「……じゃあ長井さん。私、自分の部屋に行くね。だから、まるちゃんをお願い」


「あら、そうなの?小田君はどうするの?」


「あ、俺も美保と一緒に……」


「え!?」


 長井さんの質問に俺がそう答えると、長井さんは目を見開いて驚いていた。やはり、男子が女子の部屋に行くからだろうか。


「そ、そうなの……。ごゆっくり……。こ、声には気を付けてね」


「は、はい?まあ、外に聞こえないようにはしますけど……。なあ美保?」


「う、うん。聞かれたくはないしね」


 長井さんの言葉に、俺と美保は困惑しながらも返答する。確かに話を聞かれたくないので、声が聞こえないようにするのは当然なのだが、なぜ長井さんがそこを指摘してきたのだろうか?


 なんか、話が食い違っている気がする。だが、長井さんが何を勘違いしているのか分からない。


「そ、そうよね。うん。ど、どうぞ……」


「う、うん。じゃあ行こっか、信護君」


「お、おう。すいません長井さん。まるちゃんのこと、お願いします」


「は、はーい……。あっ」


 俺と美保が立ち上がってこの部屋から出ようとすると、長井さんが何か思い出したような声を出した。その声が気になった俺と美保は、長井さんの方に振り返る。


「……ひ、避妊は、しなさいよ……?」


「「え?……ええ!?」」


 長井さんが放った一言に、俺と美保は一瞬意味を呑み込めず固まってしまった。それから少ししてから、俺と美保は大声を出して驚く。


 ひ、ひ、避妊って!?長井さんは何を言ってるんだ!?


 こ、声には気を付けてって、あ、喘ぎ声のことだったのか……!道理で話が食い違っていると思った……!


「だ、だって。す、するんでしょ?セ、セックス……」


「な、なあ!?シ、シませんよ!何言ってんですか!」


「そ、そうだよ!もう!そ、それに寝てはいるけどまるちゃんもいるんだから、オブラートに包んでよ!」


「じ、じゃあ……エッチ?」


「「それも駄目!というかシない!」」


 俺と美保は顔を真っ赤にしながら、長井さんにそろってそう叫んだ。そして俺と美保はそのまま、長井さんから逃げるようにこの部屋から出て行った。


読んでくださりありがとうございます!

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