第30話
「リス、可愛かった~!まる、リス好き!」
「ふふっ。可愛かったね」
リスを見終えてまたロープウェイに乗ると、まるちゃんがそう言ってくれた。好きな動物になってくれたなら、来たかいがあるというものだ。
だが、俺はリスも可愛いと思ったが、そんなリスを見ているまるちゃんの方が可愛く見えた。思わず、写真を撮ってしまったほどだ。
「う、うん……。か、可愛かった、ね……」
ヒロ君はチラチラとまるちゃんを見ながら、そう言った。ヒロ君もまた俺と同じく、リス村でリスではなくまるちゃんを長く見ていたのだ。
……もしかして、ヒロ君はまるちゃんのことを好きになったのだろうか。それは、複雑な気持ちになる。
まるちゃんに仲がいい友達ができたのは嬉しいが、好きなどは少し早いのではなかろうか。まあ、まだ子供なのでそんな心配は無用だと思うが……。
「うふふ。そうね。可愛かったわね~」
ヒロ君のお母さんは、ニヤニヤとしながらそうヒロ君に語りかけた。息子の反応が可愛くて、そうなっているのだろうか。
「……もうすぐ着くみたいですね」
「あっ、そうですね。ほら、降りるぞー」
「はーい!」
ヒロ君のお父さんの言うように、ロープウェイが止まって扉が開いたので、俺はまるちゃんに声をかける。まるちゃんは元気よく返事をして、俺の横を歩いてくれた。
俺たちは順番にロープウェイから降りていき、公園へと戻ってきた。行きに見たお土産屋の近くで、俺たちは一度止まる。
「俺たちはまだ残りますけど……。どうします?」
「……すいません。次の予定もあるので、ここでお別れということで……」
「そう、ですか……」
俺がそう聞くと、ヒロ君のお父さんからそんな答えが返ってきた。美保は残念そうに反応し、視線を下に向ける。
「……会えてよかったです。また、連絡してください。子育ての事とか、色々」
「え?あっ。……はい!絶対、連絡します!」
ヒロ君のお母さんが美保にそう言うと、最初は驚いていた美保だがすぐに嬉しそうに返事をした。恐らく驚いた理由は、子育ての事と言われたからだろう。
しかし、いつの間にヒロ君のお母さんと連絡先を交換していたのだろう。まあ、美保も嬉しそうだし俺が追求することではないか。
「ヒロ君、ここでお別れなの……?」
「……うん」
「やだよぉ……。まだ一緒にいたいよぉ……」
まるちゃんが涙目でした質問に、ヒロ君もまた涙目で頷いた。お互い、別れるのが悲しいのだろう。
だが、俺には慰めることしかできない。別れてしまうのは変わらないからだ。
「まるちゃん。ヒロ君とは、また会えるよ」
「……ほんと?ヒロ君?」
俺がそう慰めると、まるちゃんがヒロ君にそう聞いた。本人からの肯定の言葉が欲しいのだろう。
「……うん。絶対、また会おう!」
「……約束だよ?」
「うん!約束!」
まるちゃんの確認に力強く頷いたヒロ君は、まるちゃんと指切りをして約束していた。これは、何とかしてまた会えるようにしなくてはと思う。
幸い、ヒロ君のお母さんと美保は連絡先を交換している。予定を合わせることはできるだろう。次は夏休みぐらいになるだろうか。
「では、また」
「はい。また会いましょう」
ヒロ君の一家に別れを告げると、ヒロ君たちは建物の外に出て行った。俺たちは最後まで、それを見送る。
「……パパ、ママ。絶対、会いに行こうね!約束したもん!」
「……うん。そうだね。約束、だもんね」
3人が見えなくなってから、まるちゃんと美保が必ず会いに行くことを誓う。俺もそれに同意だ。この出会いは、本当にいい出会いであったと思う。
「だな。……さて、お土産屋に入ろうか!後で買うって、まるちゃんと約束したもんな!」
「うん!やったー!」
俺がそうまるちゃんに声をかけると、まるちゃんは喜んでジャンプしてくれる。そして俺たちは、お土産屋の方へと足を向けた。
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