第27話
「さて、まずはどこに行く?」
ロープウェイから降りた俺は、そう美保に尋ねる。ここからなら大きく3択あるからだ。
1つ目は岐阜城、2つ目はリス村、3つ目はレストランである。時間的に昼はまだだし、どちらかになるだろう。
「うーん……。お昼までまだ時間あるし、先に岐阜城に行っちゃわない?こっちに戻ってきてからお昼とリス村行けばいいと思うよ」
「そうだな。そうしようか。じゃあまるちゃん。まずは岐阜城に向かおう」
「うん!……あ、ねえパパ」
「お?どうした?」
美保の言う通り、まずは岐阜城に向かうことにしたのだが、まるちゃんが引き留めてきた。なぜ引き留められたのか分からない俺は、まるちゃんに聞き返す。
「あのね、ヒロ君とも一緒に行きたいの!いい!?」
「えっ?そ、それは……」
俺はチラリと、ヒロ君のお父さんとお母さんの方を見る。これは、俺だけで許可を出せるものではない。
ヒロ君と一緒に岐阜城に行くということはすなわち、この家族と行動を共にすることになるということだ。それには、ヒロ君の両親に聞かなければならない。
「あ、あの、こう言ってるんですけど……。ど、どうですか?」
俺がそう聞くと、ヒロ君の両親は顔を見合わせた。そして、互いに微笑み合って頷く。
「ええ。そちらが構わなければ、ご一緒させてください」
ヒロ君のお母さんがそう言うと、ヒロ君の表情がパッと明るくなる。ヒロ君のお父さんも頷いており、異論はないようだ。
「そ、そうですか。美保も、それでいいか?」
「うん。まるちゃんも嬉しそうだし、もちろんいいよ」
美保にも確認を取って、許可を取る。これで全員から許可が取れたので、俺はまるちゃんにOKサインを出す。
「この通り、大丈夫らしい。一緒に楽しもうな」
「やったぁ!いっしょに行けるよヒロ君!」
「う、うん!」
「ありがとう!パパ!」
まるちゃんはヒロ君の手を取って、ブンブンとして喜んだ。そしてその後、俺に礼を言ってくる。
「ああ。じゃあ、行こうか」
「うん!ほら行こ!ヒロ君!」
「ま、まるちゃん!そんなに引っ張らないで!」
テンションが上がったまるちゃんは、ヒロ君の手を掴んで引っ張っていった。ヒロ君は驚きながらも、そんなまるちゃんの行動を受け入れて付いて行く。
俺たちもそんな二人に遅れないように、岐阜城に向かって歩き出す。前に美保とヒロ君のお母さんが並んで歩き、俺とヒロ君のお父さんが続く。
まるちゃんはヒロ君と話しているし、美保とヒロ君のお母さんも話し始めた。そんな光景を後ろから見ていた俺に、笑みがこぼれる。
この光景が、とても愛おしく見えたのだ。楽しそうなまるちゃんと美保を見て、そう思った。
「……あの、少しいいですか?」
「あ、はい。何ですか?」
すると、ヒロ君のお父さんが話しかけてきた。俺は少し驚きながらも、それに反応する。
「父親として、不安になることはありませんか?」
「え、えっと……。どういったところで?」
そう言われても、俺は本当の父親というわけではないので、何とも言えない。俺はまだ、高校生なのだから。
「愛する二人を、守りたいと思うんです。それは当然だと思うんでんすけど、時折、不安になるんです。自分が、本当に守っていけるのか、と」
思っていた以上に、深い話だった。俺はすぐに、答えることができない。ヒロ君のお父さんのように、本当に父親をやっているわけではないのだから。
そういう意味では、俺は本当の意味では守っていないことになるのだろう。家計を支えているわけでもないし、父親らしいことは何もしていない。なんなら、俺自身もまだ未成年だ。
では、今俺はどう思っているのだろうか。少なくとも、今の美保とまるちゃんを見て、愛おしく、守りたいと思ったのは確かだ。
「……今は、守りたいと思っています。でも、不安というのも分かりますね……」
俺はそう言って、もう一度美保とまるちゃんを見る。その光景を見て、守らなければならないという思いが生まれた。
「……守るしか、ないんじゃないですか?」
「え……?」
「守りたいなら、守るしかない。不安になるのも分かりますけど、その人が大切なら結局、守るしかないと思いました」
俺の言葉を聞いたヒロ君のお父さんは、目を見開いた。それから、視線をヒロ君たちの方に向ける。
「守るしかない、ですか……。極論ですね……」
「そ、そうですね……。自分も、今思ったことだったので――」
「でも、思えました。二人を見ていたら。……ありがとうございます」
そう言ったヒロ君のお父さんの顔は、とても晴れやかだった。そんなヒロ君のお父さんを見て、俺もまたその覚悟を決める。
まるちゃんが俺と美保をパパ、ママと呼んでくれているのだから、パパとして必ず守ろうと。俺たちは仮にも、家族なのだから。
「……いえ。俺も、考えれる機会を得れましたから」
「お互い、頑張りましょうね」
「……はい。頑張りましょう」
そう言い合った俺たちは、前を見る。そこにあったのは、俺たちの守りたいものだった。
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