第26話
ロープウェイに乗りこんだ俺たちは、後ろ側に陣取る。ここからが一番、下の景色を眺められるからだ。
ゴールデンウィークということもあって、多くの人が乗ってくる。その中には、家族で来ている人たちもいた。
しばらくすると、ロープウェイが動き始める。どんどん上へと上がっていき、景色が見えるようになってきた。
「わぁ~!すっごーい!」
「ふふっ。そうだね」
「ああ。ここからまだまだ上がるぞ」
俺が言った通りに上がっていき、どんどん景色が素晴らしくなる。まるちゃんもその景色に、目をキラキラとさせながら眺めていた。
すると、1人の男の子がその景色を見たそうにしていることに気付いた。まるちゃんとさほど変わらない年齢だろうか。
俺はすっ、と壁際からどいて、その男の子に譲る。それに気づいた美保も、俺に続いた。
「どうぞ。見たいんだろ?」
「……いいの?」
「うん。もちろん」
俺と美保がそう言うと、その男の子はパッと顔を明るくして景色を見に行った。すると、その男の子のお母さんと思われる女性が話しかけてきた。
「すいません……。ありがとうございます」
「いえいえ。当然のことですから」
「ありがとうございます」
「い、いや、気にしないでください」
男の子のお母さんの礼に答えたのは美保だったが、そのお父さんも礼を言ってきたので、俺が答えた。そのお母さんはチラリと男の子とまるちゃんの方を見て、小さく笑みを浮かべている。
「……楽しそうでよかった」
「あの、家族旅行ですか?」
「あ、はい。あの子の、退院祝いで……」
「そう、なんですか……」
美保の質問に対して、返ってきた言葉は思っていた以上に重いものだった。怪我なのか、病気なのかは分からないが、声のトーン的に重いものだったのは間違いないだろう。
その男の子はいつの間にか、まるちゃんと楽しそうに話していた。まるちゃんも嬉しそうだし、景色の話で盛り上がっているのだろうか。
「……それにしても奥さん、お若いですね。私と同じ母親とは思えないぐらい」
「えっ!?そ、そうですか……?」
「ええ。まるで、高校生みたいですよ。旦那さんも」
男の子のお母さんにそう言われた俺と美保は、ギクッとして目を逸らしてしまう。なぜなら、俺たちは実際高校生だからだ。
だが、男の子のお母さんは俺と美保を本当の夫婦と勘違いしているのだ。その理由は恐らく、まるちゃんがパパ、ママと呼んでいたからだろう。
「み、美保は分かりますけど……。自分もですか?」
「し、信護君!?」
「あら。本当ですよ。若く見えますし、カッコいいと思います。ねえあなた?」
「ああ。本当に高校生でおかしくないぐらいだと思いますが」
「あ、ありがとうございます……」
すいません……。実は、本当に高校生なんです……。
なんて、言えるわけもなく、俺は素直に礼を言っておく。ここで真実を述べたら、どう説明したらいいのか分からない。
だからここは、心苦しいが誤魔化させてもらった。すると、俺が苦しんでいるのに気付いたのか、美保が話題を逸らしてくる。
「そ、それより息子さん、楽しそうですね。まるちゃんと、盛り上がってるみたいですし……」
「そうですね。本当に、よかったです。娘さんもお可愛いですね」
「あ、ありがとうございます」
そんな話をしていると、ロープウェイが終わり、駅に着いた。人がどんどんと降りていくので、俺たちも続こうとする。
「まるちゃん。終わりだから降りるぞ~」
「パパ!分かった~!ほら、ヒロ君も~!」
「う、うん!」
俺の呼びかけに対して、まるちゃんは男の子をヒロ君と呼んで手を繋いで連れてきた。これには、俺と美保だけでなく、ヒロ君のお父さんとお母さんも驚く。
だが、俺はすぐに笑みを浮かべた。まるちゃんに友達ができたのが嬉しかったのだ。
まるちゃんも嬉しそうだし、良かったと思う。美保も笑ったので、俺と同じなのだろう。
ヒロ君のお父さんとお母さんもまた、微笑んでいた。ヒロ君の友達事情は知らないが、入院していたみたいだし友達は少なかったのかもしれない。
「あ、あの、すいません。まるちゃんが……」
「いえ。逆に、お礼を言いたいぐらいですよ。息子も楽しそうですし……」
「……取り合えず、降りませんか?」
美保がハッとして謝ると、ヒロ君のお母さんが礼を言ってきた。美保が謝ったのは、ママなら謝らなければいけないと気付いたからだろう。
すると、ヒロ君のお父さんがそう提案してきた。見ると、俺たちが最後のようだ。
「そ、そうですね。降りましょう。まるちゃん、パパに付いて来いよ。えっと、ヒロ君も」
「うん!パパ!」
「は、はい」
俺がそう言うと、まるちゃんもヒロ君も俺に付いて来てくれる。そして俺たちは、2つの家族が合わさったまま、ロープウェイから降りた。
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