第19話
映画の放映が終わり劇場を出た俺たちは、空のポップコーンとドリンクをスタッフに渡して、劇場から出ていく。俺は、斎藤と顔を合わせないようにしながら。
あれから何度も手が当たってしまい、恥ずかしくて顔を合わせられないのだ。チラリと斎藤の方を見ると、斎藤もこちらをチラ見してきており目が合ってしまう。
俺はすぐに目を逸らして、斎藤と目を合わせないようにする。顔を赤くしないためだ。
「どうしたんだお前ら?どっちもそっぽ向いてよ」
「い、いや!別に……」
「う、うん!大したことじゃないよ……!」
俺はそう言って、手が当たってしまって照れていることを隠す。すると、斎藤も誤魔化しにのってくれて、この件は有耶無耶になりそうだ。
「そうか?にしても、面白かったなあ!」
「うん!見に来てよかったね!」
勝がそう言うと、羽木が頷いて同意する。確かに面白かったと思う。俺は斎藤と何度も手が当たっていたので、それどころではなかったが。
「そうだね。高畑さん、泣いてたし」
「ちょっ!?森!?」
桜蘭が高畑が泣いていたことを告げると、高畑が顔を赤くしながら驚く。俺もまた驚いて、高畑に視線を向けた。まさか、泣いていたとは思わなかったからだ。
「高畑、泣いてたのか。知らなかったな」
「う……。わ、悪い!?」
「いや、何も悪くないだろ。感動したら泣くのは、普通だし。俺も涙腺緩んだぞ」
俺がそう返すと、高畑は顔を赤くしたまま俺から顔を逸らした。どう思っているのかは分からないが、フォローはできたはずだ。
「……そういうところだよ?」
「……そういうところだな」
「……そういうところだね」
上から順に、斎藤、勝、羽木の言葉だ。三人はジト目で、俺の方を見てきている。なぜ俺が、そんな目で見られないといけないんだ……。
「あれ?皆どうしたの?」
「そうだぞ。なんでそんな反応なんだよ」
俺に同意してくれたのは、桜蘭だけだった。そんな俺の言葉に、さっきの三人はため息を吐く。
俺はその反応に納得できなかったが、どうせ問い詰めても言わないのでスルーすることにした。勝がいつもそうなので、もう諦めている。
「……まあ、いいか。じゃあ、もう帰るか?いい時間だし」
「そうだね。いいんじゃないかな?皆はどう?」
俺の提案に、桜蘭が肯定して皆に聞いてくれる。皆も頷いてくれているので、異論はなさそうだ。
「うん。同じ方向なの、誰かな?」
「俺と高畑が一緒で、他は逆じゃなかったか?」
斎藤のそんな質問に、勝がそう答えた。高畑も頷いているので、間違いないだろう。相変わらず、俺の方に顔を向けてくれないが。
「取り合えず、駅に向かおうぜ。確か、皆電車だろ?」
俺のその言葉に、皆が頷いてくれる。そして、皆そろって映画館から駅に向かうために歩き始めた。
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