表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/170

第3話

 改札を通ってホームに着いた俺たちは、特急ひだが到着するのを待っている。岐阜駅は特急ひだの始発駅ではないので、こうやってホームで待たなければならない。


 だがまあ、荷物が多いわけでもないし、そこまで苦ではない。他の部活は知らないが、俺たち文芸部はパソコン、スマホ一台あれば書くことが出来るからだ。


 それでも合宿を行うのは、モチベーションの向上という意味もあるが、大部分が思い出作りだろう。まさに青春という感じがして、とてもいいと思う。


「楽しみだね~。私、初めてなんだ~」


「ああ。俺も何気に初めてだな。飛騨高山に行くのは」


 隣に立つ橋本が声をかけてきたので、俺は頷いてそう返した。同じ岐阜県内ではあるのだが、なんだかんだ飛騨高山には行く機会がなかったのだ。


「そうなんだ~!じゃあ、初めて同士、だね~」


「ま、まあ、そうなんだが……」


 橋本がそう言いながら、俺との距離を少し詰めてきた。俺はそんな橋本に返事をしながらも、体を少し橋本から引いてしまう。


 というか、言い方……!初めて同士、という言い方は、誤解を生みかねないのでよろしくない。


 現に後ろから感じる二人分の視線が、また鋭くなったような気がする。するとそんな時に、特急ひだがやってきた。


 俺たちが待つホームに特急ひだが停車して、ドアが自動で開かれる。俺たちはそのドアから特急ひだに乗り込んでいき、貰った切符に書かれている座席番号に各々が座った。


 当然、俺の隣には橋本が座る。こうして全員が席に着くと、特急ひだがゆっくりと発進し始めた。


 窓から外を見ていると、どんどん岐阜駅から離れていく。特急ひだが一定の速度まで上がって安定し始めた時、隣に座る橋本が俺の肩をポンポンとたたいてきた。


「ん?どうした?」


「早速だけど、飴舐めたいなぁ~」


「ああ。飴な。分かった」


 橋本にそう言われたので、俺はコンビニで買ったミルク飴の袋を開封する。そして空いた袋の口を、橋本に向けた。


「ありがとう~」


 橋本はそこから、ミルク飴が入った小さな袋を2つ取り出した。そしてピリッと音を鳴らせて、その内の1つからミルク飴を取り出して口に入れる。


「う~ん!美味しい~!小田君も食べる~?」


「そうだな。貰うよ」


「おっけ~」


 俺が橋本の問いに頷くと、橋本はすでに取り出していたもう一つを開けた。ミルク飴を手に取った橋本は、それを俺に向けてきた。


「はい、あ~ん」


「……え?」


 そんな橋本の行動に、俺はフリーズしてしまった。今までこんなことを、橋本からされたことなどなかったからだ。


「食べないの~?」


「い、いや、貰うけど……。別に手渡しでも――」


「じゃあ食べてよ~。あ~ん」


「うっ……」


 橋本の雰囲気的に、断れるものではなさそうだと思った俺であったが、そう簡単にできるような行為でもない。そんな風に躊躇ってから、俺は橋本の手にあるミルク飴を口に入れてもらった。


「あ、あーん……」


「どう~?美味しいでしょ~?」


「あ、ああ。美味い、な……」


 俺は頬を少し赤くしながら、橋本にそう返した。実際は、あまりミルク飴の味を感じることができていない。


 おかしいな……。橋本は、誰にでもこんなことをするタイプじゃなかったはずなんだが……。


 チラリと通路を挟んで反対側にある席に視線を向けると、頬を膨らませた今野と視線を鋭くさせた河合がいた。俺はすぐに、その二人から視線を逸らす為に顔を窓側に向ける。


 そうすると必然的に、橋本からも視線を外すことになった。それを恥ずかしがっていると捉えたのか、橋本は俺の頬を指でツンツンとしてからかってくる。


「どうしたの~?あっ、もしかして、恥ずかしかった~?」


「う、うるさいな……」


 恥ずかしかったのも事実なので、俺は強く言い返すことができない。そうしている間にも、どんどん視線がきつくなってくるのを感じる。


 俺は橋本に困惑を、そしてこの合宿に一抹の不安を抱く。そんな俺の思いとは裏腹に、特急ひだは順調に高山へ向かって走り続けていた。


読んでくださりありがとうございます!

カクヨムの方で新作を公開しました。

『異世界の俺と入れ替わる~勉強ができるだけの高校生の俺と、実力隠しの学園最強魔術師のオレ~』です。

https://kakuyomu.jp/works/16816927863025136518

よろしければぜひ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ